グッドラック
幸せを祈る仕事をしている。
「お気をつけて、冒険者様。あなたに幸せがあらんことを」
言い回しこそ毎度変えてはいるが、伝えている言葉はおおよそこのような内容である。魔物と勇敢に戦ったり知識を駆使し賢く立ち回れない私でも、これだけで昼夜にパンを一欠食べることができる。もう少し長い祈りであれば、具のない味の薄いスープや腐りかけのミルクがつく。新鮮なものはいつだって高価だ。
「一同にご武運を」
「幸運のご加護があらんことを」
「無事のご帰還を願っております」
私自身は特に神に仕えているわけではない。そのため、神の名を代弁して祈りを捧げることはない。
というのは建前であり、自らが信奉する存在以外の名を聞いただけで襲い掛かってくる輩がいるため、無宗教であるという立場を取ったほうが害が及ばなくて済むのだ。実のところ、農家の生まれなので豊穣の女神を崇めている。
「良き事が起こると信じています」
「旅路が平穏無事でありますように」
私に祈りを求める者は多くの場合健康体では帰ってこない。自信がなく、また、力量が劣っていると自覚があるからこそ、最後のひと押しが欲しいのだろう。
「また会えますように」
今日も今日とて心にもないことを告げ、彼らを笑顔で送り出す。
幸せを祈る仕事をしている。祈るだけであり、誰も幸せにはなれない。[了]
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