第18話 たまには柄にもないことを考えこんだりもする。(2)
◇◇◇
そういえばアニメのカラオケ
画面に映された数字から今の時刻は午後六時前。一時前には部屋に来ていたので、もう五時間以上歌い続けていることになる。
「あー、またダメだった……」
ちょうど主題歌を歌い終わり、琴葉が大きくため息を吐いた。さっきから一曲歌うごとにこの調子だ。
「ゆーくんずるいよ。九十点いかないくらいって言ってたじゃん」
「いや、今日はたまたま調子良かったんだよ。あとずるくはない」
琴葉はまたひとつ息を吐き、空になったドリンクバーのコップを持って部屋を出ていく。
ボーリングに引き続き点数勝負をすることになった俺たちだったが、琴葉に言ったように今日の俺はなぜだか調子が良かったらしく、十曲ほど歌ったところで九十二点を叩き出した。
カラオケ上級者たちからすれば叩き出したとか言うほどの高得点ではないかもしれないけれど、ほとんどこういうところにこない俺や琴葉からすればそれはすごい点数で、なんなら九十点を超えたときにファンファーレが鳴るなんて演出も今日初めて知ったまである。
「はい、ジンジャーエールで良かったよね?」
「あ、俺のも入れてきてくれたんだ。ありがとう」
「どういたしまして。ゆーくん最初からずっとこれ飲んでるけど、もしかして高得点の秘密はジンジャーエール?」
「いや、あれから一回も九十点超えてないし、あの一回がまぐれだったんだよ。たぶん」
二人分のドリンクを持って戻ってきた琴葉は、俺の返事なんて気にせずに俺のコップに入ったジンジャーエールを一口飲む。
この程度の間接キスくらい普段からあるようなことだけれど、薄暗い狭い密室で二人きりという状況だと少しどきっとしてしまうのは俺だけなんだろうか。加えて今日の琴葉はいつもだったら着ないようなミニスカに丈の短いティーシャツで、いつにもましてドギマギさせられるような恰好。海のときみたいな純白のワンピースってのも最高だけれど、たまにはこういったファッションってのも新鮮で堪らないのだ。
正直、ボーリングのときから俺の心拍数はいつもの二割増しだったと思う。
「ゆーくんも烏龍茶飲む?」
「前にテレビで見たんだけど、烏龍茶飲むと喉の油分持っていかれちゃうらしいから遠慮しとくよ」
「な、なんでもっと早く言ってくれなかったの! 私ずっと烏龍茶飲んでたのに!」
「いや、アイスティーだと思ってたから」
どうやら自分から勝負を捨てにいっていたらしい琴葉が、ぽこぽこと肩を叩いてくる。
相変わらず可愛い。
もしも一般的なカップルがカラオケデートにきたら、こういう可愛い彼女をたくさん見れるんだろうか。もしくはこういう可愛いばかりを追い求めて、俺たちみたいに適当なこと言い合って笑ったり、何か点数があればすぐに勝負しようだなんてことにはならないんだろうか。
柄にもなく、唐突にそんなことを考えてしまった。
考えて、中には俺たちみたいなカップルもいるだろうと少し思った。俺たちはカップルではないけれど、世の中には数多くのカップルがいるのだから、その中には俺たちに近い関係性だってあるかもしれないなと、本当に柄にもなく思った。
「ゆーくん、どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。そろそろ帰ろっか」
「えー、もう?」
時間も時間だし、と付け足した俺に、琴葉は少し不満げな表情を見せる。
そして――。
「じゃあさ、最後に二人で一曲、デュエットしようよ」
きっとおおよそ世に言うカップルらしいことを最後にして、初めてのカラオケデートはおしまいにすることにした。
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