第35話 なぜか三人でお家デートをする。(2)

     ◇◇◇



「面白かったわ!」



 目をきらきらと輝かせて、いつになく子供っぽく鮫島は言った。



「まあ、大人気映画だからな。二作目も出てるけど、やっぱりこっちの方が断然いいんだ」



 俺の言葉にうんうんと頷く琴葉。その琴葉の体の中心から、ぐぅ、と可愛らしい鳴き声が聞こえた。


「もうそろそろ昼飯の時間だね」

「えへへ。お腹空いちゃったよ」

「そうね。私も少し小腹が」


 結局、準備してきたお菓子と飲み物はまだあけていない。午前中からスナック菓子と炭酸ジュースを頬張るというのは、なんとも言えない罪悪感というか背徳感というか、そんなものを感じてしまって気が引けてしまったのだ。



「祐斗! 琴葉ちゃんとお友達もお昼食べていくでしょー? できたからいらっしゃい」



 この時間になにか腹に入れると昼食が食べれなくなるしどうしようかな、とちょうど思っていたところだった。


 一階から母さんが張り上げた声が聞こえてくる。


 時刻は十一時半ほど。少し早い昼食ではあるが、俺たちは居間へと向かった。


「あらあら、六花ちゃんていうのね。こんなべっぴんさんを連れてきて、祐斗ったらモテ期かしら」

「お義母さんったら、ゆーくんは昔から私にモテモテですよ!」

「そういえばそうだったわね。こんなに一途に想ってくれる可愛い幼馴染がいるんだもの。祐斗ったら勝ち組ね」 


 俺と鮫島を置いてきぼりに、二人は恥ずかしい会話を続ける。苦笑交じりに鮫島の方を見ると、整った顔が引きつっていた。


「これからどうする?」

「うーん映画もそんなに見たいのないしねぇ」

「じゃあゲームでもするか」


 昼食を食べ終わると、今度は居間でテレビゲームを三時間ほどした。おやつ休憩を挟んで、それからまたゲームの続き。なんだかんだで楽しくなって、気が付くともう陽が落ちてきていた。


「佑斗、もう六時半よ? あんまり遅くなってもいけないから、二人を送ってきなさい」

「んー」


 適当に返事をして時計に目をやる。そのまま立ち上がって大きく伸びをすると、琴葉と鮫島も腰を上げた。


「二人とも、忘れ物はない?」

「大丈夫だよ」

「もしあったら取りに来るから大丈夫よ!」


 俺の部屋に荷物を取りに行き、三人そろって家を出る。


「なんであなたもついてくるのかしら。そこに家があるんだからおとなしく帰りなさいよ」

「いやだなぁ。ゆーくんは六花ちゃんを送ったらどうせまたここに戻ってくるんだから、その時に送り届けてもらうよ」

 

 夕方とはいえ、むしむしとした暑さに足取りは重い。やらなくてはいけないことがあるというのに一日をだらだらと浪費してしまったときのような焦燥感が、それをさらに加速させる。


 一言でいうと、なんか気怠い。


「琴葉。来週の課題とかってないよな?」

「うん。今週テストだったからね」

「だよな」


 幸い、今日はやらなくてはいけないことがあったりはしなかった。


 だけどなにか、なにかを忘れているような気がしてならない。


 例えるなら、ついさっきまで見ていたはずなのに内容が思い出せない夢。どこかむずがゆい感じだ。


「送ってくれてありがと。じゃあまた来週、学校で」

「あぁ」

「じゃあね、六花ちゃん」


 鮫島を送り届けると、昨日と同じように琴葉と二人で来た道を引き返す。



「そうだ。和葉のプレゼント、どこに買い行く?」



 しばらく歩いて、俺は話を切り出した。琴葉は少し考えこんでから、思い出したようにそれに答える。


「そういえば最近、いい感じの小物屋さんを見つけてさ。そこに行ってみたいかな」

「いいじゃん。じゃあそこにしようか。朝から行く?」

「うん。ちょっとゆっくりにして十時くらいで大丈夫?」

「オッケー。じゃあまた明日」

「うん。ばいばい!」


 会話が終わり、図ったかのようにちょうど家の前で別れる。


 家の前で会話の区切りをつける。小学校のころから長年二人で帰っているうちに自然と身についてしまった、特に使い道もないスキルだ。


 家に帰ると唯も帰宅していて、居間のテーブルの上に夕飯が並べられていた。


「ただいまー」

「おかえり佑斗。ちょうど準備できたところだったのよ。ほら、早く手洗ってきて」


 洗面所で手洗いうがいを済まして、席に着く。


「「いただきます」」

「召し上がれ」


 箸と茶碗を携えおかずに手を伸ばすが、どうしても先ほど感じた既知感のようななにかが頭から離れない。



「なに? あたしの顔になにかついてる?」



 気が付くと、俺はぼうっと唯の顔を見つめていた。


「い……いや、そういうわけじゃないけど」

「……」 


 唯は鼻を鳴らしてそっぽを向くと、『キモイ死ね! こっち見んな!』みたいな視線を送ってくる。


 なぜだか唯を見ているとなにか思い出せそうな、そんな気になる。不思議なもので、無意識に視線が唯に吸い寄せられるようにそっちを見てしまう。


「……ちょっと、気持ち悪いよ」

「わ、悪い」


 唯は茶碗に残った白米を急いで口に掻き込み、立ち上がって二階へと早足でいってしまった。


「佑斗、あんた疲れてるの? そんなにぼうっとして」

「いや、ちょっと考え事をしてただけだよ」


 唯のように茶碗を空にしようと思い米を口一杯に頬張るが、思わずむせてしまい麦茶で流し込む。


「ちょっと大丈夫⁉」

「大丈夫だよ。ちょっと米が気道に……」


 結局、夕飯をゆっくりと味わって頂き、それからシャワーを浴びて自室へ向かった。二人が来てそのままだった部屋を少し整理して、ベットに横になる。


 思い出せずにいるこのモヤモヤの正体はなんなんだろう。


 考えているうちに、俺はゆっくりと眠りに落ちていった。






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