第34話 なぜか三人でお家デートをする。(1)
◇◇◇
「琴葉、鮫島も呼んでたの?」
「なに言ってるの、ゆーくん。そんなわけないでしょ」
うん。ちょっとツンとしていても、やっぱり琴葉は今日も可愛い。
「昨日言っていたじゃない。明日の九時過ぎに龍沢さんの家に行くって」
「あれはゆーくんが私に言ってたんだけど……」
「あらそうだったの? 私にも言っているのかと思っていたわ」
なぜだか『してやったり』みたいな顔で鼻を鳴らす鮫島。
「まあまあ。とりあえず映画見ようよ」
「……うん」
「そうね」
このままではいつまでも会話が終わりそうにないので、二人をなだめてDVDをセットする。
一通りの準備が済んで、映画を再生しようとしたそのときだった。
「――おぉ、祐斗。この家に琴葉以外の女を連れ込むとは大きく出たじゃねぇか。お前も男らしくなったな!」
ガハハッ、と漫画みたいな笑い方をしたおじさんが、リビングに入ってきた。
「お、お父さん! 来ないでって言ったでしょ!」
「なに言ってんだ。ここは俺の家だぞ? 俺が好きな時に好きにしてて何が悪いんだ」
再び大きく笑ったおじさんを見て、琴葉はため息を溢した。
「それにしてもこれまたすげぇ美人さんを連れて来たな。琴葉もうかうかしてらんねぇな!」
「あぁ、もう! お父さんうるさいからむこうに行っててよ!」
琴葉は堪らずおじさんの背中を押して二階へつながる階段へと連れていく。
「ふぅ、やっといなくなった。なんでお父さん世代の人たちってあんなに声が大きいんだろ」
テレビに向かい合わせのソファで待っていると、数分かかっておじさんを撃退した琴葉が戻ってきた。
「じゃあ、見よっか」
琴葉に言われてリモコンの再生ボタンに手をかける。
「――お邪魔しまーす! あっ、兄貴、琴姉。今からリビング使いたいんだけど空けてもらえる?」
「……」
間が悪いことこの上ない。これはもう、今日は映画を見るなという神のお告げなんじゃないかとすら思えてくる。
「おっ、唯、来たか。ってあれ、姉ちゃんたち、リビング使ってた?」
「え? うん。今から映画見ようと思ってたところ」
二階から降りてきた和葉と琴葉のやり取りに、唯は大げさに息を吐いた。
「だから、ちゃんと琴姉に言っときなさいって言ったじゃない。まったくあんたってやつは……」
「唯ちゃん、私たちはゆーくんちにいくから大丈夫だよ。二人で楽しんで! ゆーくん、それでいいよね?」
「ん、うん」
琴葉が気を遣って部屋を出ていく。俺と鮫島もソファから腰を上げ、持参したポテトチップスとジュースを持ってそれについていく。
「良かったの? 映画見たいって言ってたの琴葉だったのに」
「いいよいいよ。また今度見ればいいし。それに二人の邪魔するのもなんだか気が引けるしね」
「そんなにあいつらに気を遣う必要もないと思うけどな」
「いいからいいから」
徒歩十五秒。
仕方なく龍沢家を出て、すぐ隣の我が家へと移動する。
もちろん二階の部屋から窓伝いに移動したりはしない。そんなのは中学までで卒業したのだ。
「お邪魔しまーす」
「お邪魔……します」
声に反応して、母さんが居間から顔を出す。
「あら琴葉ちゃん、いらっしゃい……ってあんた、なにのうのうと琴葉ちゃん以外の女の子を連れ込んでるの! この女ったらし! 親の顔が見てみたいわ!」
……親はあんただ。俺もあんたの子どもの顔が見てみたいよ。
…………俺か。
俺だけじゃなく、琴葉も鮫島もツッコミは入れなかった。
「居間は母さんがいるし、俺の部屋でいい?」
「任せるよー」
「祐斗の部屋⁉ ぜひそうしましょう!」
「……」
俺の部屋には一応テレビとDVDプレイヤーがある。テレビは居間のそれと比べたら半分ほどのサイズで、プレイヤーに関してはかなり古いおさがりだけれど、それでも学生の部屋にテレビがあるなんてそれだけでも贅沢だということは分かっているつもりだ。
そして我が家でDVDを見ることができるのは、居間と俺の部屋だけである。厳密にいえば父さんの部屋のパソコンでも見れるが、まあそんなこんなで居間に母さんが居座っている以上、必然的に俺の部屋へ行くことになった。
「なんだかザ・普通って感じね。そうだ。そういえば男子の部屋に入ったら、お宝探しをするのがお約束だと聞いたことがあるわ。やってみましょ――」
「六花ちゃん、残念だけどこの部屋にそういうものはないよ。日々文明は進歩してるからね。そういうのはゆーくんのスマホのプライベートブラウザに――」
「なっ、ないない! そんなことないから! この部屋にもそういうものはないけど!」
琴葉め。なぜそれを知っているんだ。もしやパスワードが琴葉の誕生日なのがいけなかったのか……。
「ほ、ほら。映画見るんだろ。つってもいつも見てるようなのしかないけど」
「いくつか持ってくればよかったね。うっかりしてたよ」
別にすぐ隣なんだから取りに行こうと思えばほんの数分で帰ってこれるのに、それすらも億劫になったのか、琴葉は諦めて俺の部屋のDVDを漁り始めた。
「あっ、これ懐かしい。久しぶりに見ようよ」
「いいね。最近見てなかったし、たまには」
琴葉が手に乗ったのは有名なコメディ映画。大家族で旅行へ行くのだが、一人の少年が家においていかれてしまい、夜な夜な訪ねてくる泥棒を一人で撃退するという、そんなお話。
この三人で恋愛映画を見るというのもなんだか違う気がするし、二人でないときはやっぱりコメディ系が一番盛り上がるだろう。昔は唯と和葉も入れてよく四人で見たものだ。
「ちょうどよかったわ。私、それ見たことないのよ。名前はなんとなく聞いたことあるんだけど」
「じゃあ決定だな」
DVDをセットし、部屋のカーテンを閉めて、シアターモードに設定して。さっき琴葉の家でしたことを反復する。
三度目の正直だったのか今度ばかりは邪魔も入らず、俺は再生ボタンを押した。
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