第14話 真の幼馴染には、家族ぐるみの付き合いがある。(3)
◇◇◇
「あんたたち、いつもみたいに子ども四人でこの部屋使っていいわよ。大人はむこうの部屋で寝るから」
母さんがそう言ってきたのは、家族ごとに部屋で食べた豪勢な夕飯を仲居さんが下げていった後だった。
「琴葉ちゃんたちにも話してあるから、あたしたちはもう行くわよ」
泊まり用の荷物を持って部屋を出ていく二人。それと入れ替わりにこれまた荷物を持った琴葉と和葉が部屋に入ってくる。和葉はこころなしか背中が丸まっていた。
あいつ、まだ「キモい」発言を引きづってたのか……。
「いやぁ夕飯、美味しかったねー」
「そうだね。サザエの蒸し焼きが特に」
「あぁ、美味しかったね。私は山菜のおひたしとお吸い物かなぁ」
そんな和葉には気にもくれず、女子たちは夕飯がいかに美味しかったかを語りはじめる。
「布団敷こうか」
「うん……」
男二人で目を合わせると、押し入れから引っ張り出した四人分の布団を畳に並べて、その上に枕、掛け布団を適当に配置する。
「あっ、ゆーくん、和葉、ごめん。ありがとー」
「兄貴、まだ八時過ぎだよ? もう寝るの?」
「いや、別にそういうわけじゃないけど。トランプでもなんでも布団の上でやればいいだろ? あとから敷くのは面倒になるだろうし」
「旅館の布団に入って皆で話すのも楽しいしね、修学旅行みたいで」
和葉は先ほどのショックからようやく立ち直れたようで、そう言って笑う。
「じゃあ、またトランプでもする? ババ抜きとか」
「そうするか」
俺は琴葉の提案に乗ってトランプを切り、四人分をそれぞれに配った。
やはり困ったときはトランプやウノといったカード系の遊びが盛り上がる。いい具合に時間もつぶせるしシンプルイズベストだ。一人だけワーストな奴もいるけど。
「――いやぁ、いくらなんでもあんた弱すぎでしょ!」
「はぁ。これが搾取される側とする側の格差ってやつか……」
大富豪からババ抜きに変えて気分一新となるかと思いきや、またもや全敗した和葉はしょぼくれる。普段から弱いは弱いんだけど、さすがにここまでではなかったはずだ。
「おい、唯もあんまり和葉をいじめるなよ」
「えぇー。だって面白いんだもん」
トランプを片づけて布団に入りながら、唯はくすくすと笑った。
「電気小さいのだけつけとくよー」
「はーい」
琴葉も部屋全体の照明を消して、俺の隣の布団に潜る。
俺と琴葉の向かいには唯と和葉の布団。兄妹でお互いに顔を合わせるような布団の配置だ。
「ねぇ和葉、面白い話してよ」
「ねぇよ、そんなん。お前がすればいいだろ」
にやりと笑った唯が、和葉に絡む。
「えー……そういえばこの間、おじさんとおばさんが兄貴と琴姉の話してたよ。二人を同じ大学に行かせて同棲させちゃおうかとか、結婚がなんだとか。兄貴たち、結婚すんの?」
「え? ゆう兄と姉ちゃん、同棲すんの?」
「いや、全然そんな話聞いてないけど」
俺たちの知らないところで、そんな話が出ていたとは。
横では琴葉が「え、同棲? どうする? しちゃう?」だなんて満更でもない感じだ。いや、俺も満更でもないのだけれど。
「あれ? でも二人とも、付き合ってないんだよね?」
「さっきも言ったけどね」
「え? 兄貴たち、付き合ってなかったの!?」
なぜだか俺の言葉を聞いた唯が目を見開く。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ琴姉!」
そういえば唯にはそんなこと訊かれたこともなかったような気がする。
でもよく考えてみれば、付き合ったことを報告するならまだ分からなくもないけど、付き合ってないことをわざわざ言ったりしないだろ、普通。
「私の中で二人は理想のカップル像だったのに……。ちょっと仲良すぎるけど」
「まあ、普段の二人を見てたらそう思うよな。仲良すぎるし」
いつもは意見がぶつかり合う唯と和葉が、珍しく口をそろえる。
「まあまあ。仲が良いのはいいことじゃん。それにお父さんたちがそんなことを言ってたなら、もうこれは両親公認の仲ってことだし、私とゆーくんは婚約者みたいなもんでしょ。恋人より上じゃん!」
「いや姉ちゃん、昔から『幼稚園のころにゆーくんにプロポーズされたから、私たちは許婚なの!』とか言い張ってたじゃん」
「だから、本人同士だけじゃなくて両親も公認の許婚になったってことじゃん!」
「二人とも、恥ずかしいからその辺にしてくれ……」
そのまま放っておいたら琴葉と和葉が永遠にそんな話を続けそうだったので、俺は二人の会話に割って入った。
「ゆーくん、なにが恥ずかしいの? 私と婚約者になったら嫌なの?」
「いや、ぜんぜん嫌とかじゃないけど……」
「じゃあいいじゃん!」
「まあいいけど……」
あれ?
今俺、プロポーズされた?
デジャブ。
「和葉たちも私たちみたいにもっと仲良くなりなよ」
「「……」」
俺の布団に入ってきて俺の腕にぎゅっと抱きついた琴葉を見て、二人は黙りこんだ。
「姉ちゃんたちってさ、よく弟と妹の前でこうもいちゃつけるよな。もう慣れたけど」
「ほんと。それで付き合ってないとか本当におかしいわよ。付き合ってたってそんなにスキンシップ取らないし。もう慣れたけど」
「いや、俺は別にそんなつもりはだな……」
ないといえば嘘になるかもしれない。
「そろそろ寝よっか」
「そ、そうだな。そうしよう」
二人の視線から逃げるようにして布団に潜り、目を瞑る。
翌朝、息苦しさから目が覚めると、俺は見事に琴葉の抱き枕になっていた。
◇◇◇
「――で、朝起きたら、兄貴が琴姉の胸に顔を埋めてたんだよー」
「おい、唯。それだと俺が琴葉の胸に顔を突っ込んでたみたいに聞こえるだろ」
「だってそう言ってるんだもん」
朝起きてからもう一度温泉に浸かり、帰り支度を澄ましてから旅館を出た。
おじさんの車に乗り込み、帰り道。話の流れでなんだか俺が変態みたいになってしまった。
「祐斗、お前も大胆になったもんだな。こりゃ本当に責任取って琴葉を嫁にもらってもらわないとな」
「もう、お父さんったら!」
温泉に浸かりすぎたのか昨日より疲れた様子のおじさんは、がっはっはと大声で笑う。
この親子、絶対面白がってるだろ。
「まったく、なんでおじさんはそんなに琴葉を嫁に出したがるんですか」
「おじさん? お前におじさんだなんて呼ばれる覚えはないぞ。お義父さんと呼びなさい」
「はぁ……」
「ほら!」
「お義父さん……」
謎のノリに付き合わされてそう呼ぶと、運転席で満足げにドヤ顔をするお義……おじさん。
「まあなんだ、真面目な話、琴葉は俺にとって可愛い一人娘だ。嫁にはやりたくない。それでもいつかは絶対に嫁に行っちまうんだ。どこの馬の骨とも分からん家に嫁がれるんだったら、ガキの時から良く知ってるお前にもらってもらえりゃ俺も安心できるっていうもんだろ」
「そういうもんですかね……」
「そういうもんだ。これで下同士もくっつけば、親戚付き合いも少なくて楽だしな」
おいこのオヤジ、どっちが本音だよ。
「まあ、そういうこった。お前らも仲良くやれよ」
「お、俺たちまで巻き込むなよ!」
後ろの方から和葉が言い返した声が聞こえたが、そんなことを言ってる割には、たいそうなにやけ面をしていた。
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