第13話 真の幼馴染には、家族ぐるみの付き合いがある。(2)


     ◇◇◇


「ゆう兄、ごめんね。姉ちゃんに付き合わせちゃって」

「それはお互い様だろ。お前なんて三戦全敗だったじゃないか」

「それを言ったらゆう兄だって」


 部屋に戻ってきた大人たちと入れ替わりで、俺たちも風呂へ行くことになった。まだ昼過ぎで人のいない大浴場に、敗者二人の声だけが響く。


「あぁー、いい湯だなぁ」

「ふぅ……」


 和葉と互いに背中を流し合い、それが終わったら広い広い湯船に浸かる。


「まぁ、和葉も大変だろ。今年も唯と同じクラスだったよな?」

「うん。もう九年連続だよ」 

「まだまだ。俺と琴葉は十一年連続だからな。まあ、俺はむしろ嬉しいけどな」

「ははっ、ゆう兄たちは仲良しでいいな。そういえば、もう席替えはした?」 


 力なく笑った和葉が、何か思い出したように訊いてきた。


「なに言ってんだ、お前たちだって十分仲良しだろ。席替えか……俺たちはまだしてないよ。まったく話にも出てないな。まあ、まだ新学期が始まって一か月も経ってないし」

「やっぱりそっちもやってないか。はぁ、もう早く席替えしてほしいよ……」


 そんなことを言った和葉は心底そう思っているようで、大きなため息を一つ吐く。


 良くも悪くも、俺たち――立花家と龍沢家の宿命。


クラスが替わると、恐らく最初は出席番号順がそのまま席順になるだろう。そして俺たちの苗字の関係上、クラスが一緒になった場合はほぼ確実に前後の席になる。


 つまりは、俺と琴葉、唯と和葉は今までずっとその席で新学期を迎えてきているのだ。


「俺はこのまま席替えなくてもいいけどな」

「それはさすがに勘弁してほしいよ……。唯のやつがずっと俺に絡んでくるせいで、前からの友達以外で仲が良いやつをぜんぜん作れないんだよ」

「安心しな。俺なんてクラスで琴葉以外に話せるやつ、二、三人しかいないから」

「それはちょっと問題ありだと思うんだけど……」


 和葉はもう一度大きく息を吐いた。


「まあまあ。友達はあんまりできないかもしれないけど、お詫びにあいつは嫁にあげるから。俺も和葉になら唯を安心して任せられるよ」

「……そろそろ出ようか」


 少しのぼせたのか、顔を赤くさせた和葉はそう言ってお湯から出る。



「ゆう兄、そんなこと言ってると、本当に嫁にもらっちゃうからね」



 なんだよ、ちゃんと仲良くやれてるじゃないか。


 脱衣所で体を拭きながら聞いた和葉の本音に、俺は少し和まされた。



     ◇◇◇



「――ところでさ、姉ちゃんとは本当に付き合ってないの?」



 髪も乾かし終えて、自販機で買ってやったコーヒー牛乳を一気飲みした和葉が唐突に訊いてくる。


「ん? あぁ、付き合ってないよ」

「本当に? ゆう兄と姉ちゃんって両想いだよね?」

「そんなこと言ったらお前らだってそうだろ。そっちはどうなんだよ」


 質問に質問で返してしまった。


「俺たちはゆう兄と姉ちゃんみたいに相思相愛って感じじゃないじゃん」

「そうか? 俺から見たらお似合いだけどな」

「全然だよ。それより、なんで二人は両想いなのに付き合わないの?」


 話をうまく逸らそうとした俺に、和葉は畳みかけてくる。


「んー、なんでって言われてもな。恋人なんかにしちゃうには勿体ないというか、元々ほぼ家族みたいなもんだし、そこから恋人になるってむしろ降格じゃないか?」

「……」

「どうかした?」


 俺の答えを聞いて、黙りこんでしまう和葉。


「いや、好きだったら普通付き合いたいって思うじゃん」

「なんて言うのかなぁ……。俺にとって、それだけ今の琴葉との関係が心地いいものだっていうことなんだよ。和葉の考えの方が一般的だと思うし。ただ、俺は琴葉以外を好きになったこともないし、ずっとそう思ってきたからさ」

「えっと、ゆう兄に普通を求めた俺が間違いだったってことか。コーヒー牛乳、ごちそうさま」


 最終的にはそんな投げやりな感じで、和葉は話をまとめた。


「まあ、和葉は唯と付き合いたいんだったら、もっと素直になることだな」

「……善処してみるよ」


 部屋に戻ってからの和葉はいつもより唯に歩み寄っているような気がしたが、そんな和葉にわが妹が「なんかキモい!」と言い放った時には少し申し訳なく思った。



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