第4話 幼馴染は、決して別のクラスにならない。(4)


     ◇◇◇


「まったく、兄貴たちは仲良すぎるでしょ」

「ほんとだよ。怖いくらいだわ。本当に結婚するだろ、この二人」


 夕食の席にて、唯と和葉が二人してこちらにジト目を向けてくる。


「唯と和葉くんはいつも喧嘩ばっかりしてないで少しは見習いなさいな。でもね琴葉ちゃん、祐斗もこんなんで年頃の男子なのよ。さすがに添い寝って言うのは、無防備すぎると思うの」

「えー、大丈夫ですよ、ゆーくんなら」


 心配そうにする母さんにも、のほほんとそう返す琴葉。



「いや、母さんは自分の息子をもうちょっと信頼しろよ……」



 夕食前。心地よく眠っていた俺を起こしたのは琴葉ではなく、部屋まで俺たちを呼びに来た唯と和葉だった。


 わざわざ二人で呼びに来るあたり、やっぱり俺たちの兄弟だなぁ、とは思うがそんな話は置いといて、俺が起こしてくれるようにとお願いしていた彼女がなにをしていたのかというと、俺と向き合うようにしてすやすやと眠っていた。


「だいたい、なんでああいう状況になってたんだよ」

「いや、ゆーくんがご飯前になったら起こしてって言って一人で寝ちゃったから寝顔を見てたんだけど、そしたら私まで眠くなってきちゃって……」

「ちょっと姉ちゃんが何言ってるのか分かんないわ。なんでそれで添い寝することになるんだよ」


 どうやらこの姉弟は、相容れないらしい。それどころか、母さんも少し引いている。


 だけどもし俺に娘がいて、その娘が男と添い寝なんかしていた日にはそれはもう烈火の如く怒り狂うであろうから、何というか世間一般的に、その反応はもっともなんだろう。


「祐斗、あんた琴葉ちゃんに変なことしたら、ただじゃおかないからね」

「大丈夫だよ」

「そうですよ。私とゆーくんは大丈夫ですよ、お義母さん」


 なぜ実の親に念を押されなければいけないのかと腑に落ちない気もするが、なんとかこの話にもひと区切りつき、ゆっくりと食卓に並んだ料理にもありつける。


「ん?」

「なに、どうかしたの?」

「いや……」


 今、お義母さんって言ったよな。


 なんだか最近、琴葉が母さんのことをお義母さんと呼ぶことがある。別に俺からしたらぜんぜん構わないのだが、引っかかっているのはむしろそれよりもここにいる全員がそれを疑問に思わないことだ。


「ほら、お肉が冷めて固くなっちゃうよ!」

「そ、それもそうだな」


 琴葉に促されて、おかずを茶碗に載せる。


 もしかして、外堀を埋められてる? 

 まあ、別にいいけども。むしろガンガン埋めちゃって、って感じだけれども。   


 そんなことを考えながら、俺はご飯を口いっぱいに頬張った。



     ◇◇◇



「ごちそうさまでしたー」

「ごちそうさまです。いつもすみません。美味しかったです」

「いいのよー。困ったときはお互い様でしょ。祐斗、二人を送ってきてあげて」

「あいよ」


 夕飯を食べ終わり、漬物を突っつきながらしばらくとりとめのない話をして、二人が帰るということになったので、本当にすぐ隣までではあるが送っていくことになった。


「じゃあ、また明日な」

「うん」


 うちの玄関を出てから徒歩十秒。『龍沢』なんてかっこいい名前が納められた表札のある、つまりは琴葉と和葉の家の玄関まで二人を見送る。


 琴葉が扉を開けると、ちょうど琴葉の父さんがお客さんを見送るところだったようで、家に入ろうとした二人とばったりと出くわした。


「おぉ、祐斗。今日は世話掛けて悪かったな。お詫びにこいつを嫁にやるから、またなんかあったら頼むよ」

「もう、お父さんったらー」


 どうやらよっぽどお酒が回っているらしく、いつにもまして饒舌なお義父さん。否、おじさん。


「冗談だよ。ほれ、これ持ってけ。お前んとこの母さんににもお礼言っといてくれ」

「分かりました。ありがとうございます。じゃあ、俺はこれで」


 お義……おじさんから美味しい和菓子屋さんのお土産を受け取って、俺は家へと引き返した。



「いや、まさかな……」



 今朝の瑛太たちとの会話を思い出しながら、そんなことはないだろうと小さく呟く。


 何度思い返しても、玄関に座って靴を履いていた客人の禿げ頭は紛れもなく、始業式で見た校長のそれと同じだった。



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