第3話 幼馴染は、決して別のクラスにならない。(3)
◇◇◇
帰宅後。手洗いうがいを済ました俺は、昨日多めに炊いて冷凍しておいたご飯でチャーハンを作ることにした。
四人分ということで二回に分けて、家にある一番大きなフライパンを使う。
「唯、棚から大皿とって、その野菜盛り付けてくれるか?」
俺は二度目のチャーハンを炒めながら、ソファで寝転んでいる妹の唯にそう言う。小さく「んー」とだけ言って動こうとしない妹を見てため息を吐いていると、玄関が開く音が聞こえた。どうやら琴葉が弟の和葉を連れてやって来たようだ。
「おい、唯。ゆう兄にばっかやらせないでちょっとは手伝えよ」
「うるさいなぁー」
和葉はわが妹に睨みを利かせると、棚から大皿を取りだして野菜を盛りはじめた。
「おっ、悪いな和葉。すぐにでき上がるからドレッシングだけ持ってっといてくれ」
「はーい」
俺は塩と醤油でシンプルな味付けをしたチャーハンを盛り付けて、三人が待つテーブルへ持っていく。
「おまたせ。さぁ、いただこうか」
四人で手を合わせて「いただきます」と声をそろえると、気を利かせた和葉が四人分の小皿にチャーハンを取り分けた。
「ちょっと、私のだけ明らかに少ないんですけど。どういうことよ!」
「お前はなんにも仕事しないでソファに寝転んでたんだからそれで十分だろ。文句言うなら自分で取り分けろ」
俺らの半分もよそられていない自分の小皿を見て噛みついた唯だったが、和葉に反論できず黙って睨みつける。
「まあまあ。ご飯は楽しく食べないと、美味しくなくなっちゃうでしょ。二人とも、喧嘩しないで」
そう言ってにこっと笑った琴葉のおかげで、ピリピリとしたムードが一転和やかな食卓となった。
「もしもゆう兄と姉ちゃんが結婚したら、俺はお前の兄貴ってことになるんだよな……」
「なに言ってんのよ、あたしが姉になるに決まってるでしょ。私の方が誕生日先なんだから!」
チャーハンを盛りつけた大皿が二つとも空になったころ、唐突に二人がそんな口喧嘩を始めた。
そんな二人とも、俺が琴葉と結婚だなんて……ぐへへ。
「私とゆーくんが結婚しても、別に二人は兄妹にはならないよ。私たちからしたら二人とも弟と妹になるけど」
「あ、そうか。もしそうなったら、俺にとって唯は義兄の妹ってことになるのか」
「うん。だから私たちが結婚しても、二人も結婚できるから大丈夫だよ」
「ちょっと、琴姉、なに言ってんの! 私はこいつなんかと結婚しないわよ! 二人と一緒にしないでよ」
「俺だってこんなぐーたら女は願い下げだね!」
琴葉は火に油を注いでしまったようで、二人は鼻を鳴らしてお互いそっぽを向く。
「そんなこと言わないの。そうだ。洗いものしたら、仲直りに皆でゲームしよっか。うん、そうしようそうしよう。ほら、二人ともお皿洗いよろしくね」
琴葉に皿を押しつけられた二人は、ぐちぐち言いながらも台所へ行って皿を洗い始めた。
「もう、なんだかんだ言って、仲良しなんだから」
「まあ、俺の妹と琴葉の弟だからな」
「それもそっか」
二人が皿洗いをしてくれている間に、俺はゲームを起動して準備をする。
「よし。じゃあ、始めよっか!」
皿洗いを済ました二人が合流してのゲーム大会は、ほぼ休みなしで夕方まで続くこととなった。
◇◇◇
「ねぇ、今日、家にお父さんのお客さんが来るらしいんだけど、夕飯もよばれていってもいい?」
約四時間にも及ぶゲーム大戦にひと区切りついたところで、着信メールを確認した琴葉がそう言った。
「いいよ。母さんに言っとく」
「うん。ありがとう」
そろそろ帰ってくるであろう母さんにメールを送り、ゲーム機の電源を落とす。
ちなみに、唯と和葉は途中で疲れたと言って二階にある唯の部屋へ行ってしまったので、居間には俺と琴葉の二人だけだ。
「風呂洗ってくるついでにシャワー浴びちゃうけど、琴葉もこっちで風呂入るんだったら着替え取りにいってきな」
「じゃあちょっとしたら和葉連れていってくる。あとは片づけとくからお風呂洗ってきていいよ」
「分かった。じゃあ、ごみはこの袋にまとめといて」
机の上に散らばったお菓子たちの後処理を琴葉に任せて、ごみ袋を渡した俺は風呂場へと向かった。
「ふぅ……」
シャワーを浴びて湯船を洗い終え、バスタオルを腰に巻いて廊下へ出る。
脱衣所を出るとさっきまで点いていた居間の電気が消えていて、どうやら琴葉は着替えを取りに帰っているようだった。
家の構造上、脱衣所からは玄関前の廊下を通って階段を上らないと二階にはいけないのだが、ちょうどその廊下を足早に歩いているときだった。
「あ……」
勢いよく玄関が開けられ、着替えを取りに行ったらしい二人が帰ってきた。
「ゆう兄、相変わらずいい体してるね」
「そりゃどうも。今風呂ため始めたから入っちゃっていいよ」
今さらお互いに恥ずかしがったりもしないわけだが、とは言えバスタオル一枚で話を続けるのもどうかと思ったので、帰宅部なのを気にして鍛えている体をほめてくれた和葉に軽くお礼を言って小走りで階段を駆け上がる。
部屋着に着替えてしばらく自室で時間をつぶしていると、コンコン、とドアをノックされた。
それに対して俺は特に返事をしたりもないが、ドアを開けて入ってきたのは風呂上がりのパジャマに着替えた琴葉だった。
「ふぅ、いいお湯だった。おばさん帰ってきたよ。ご飯は七時半くらいだって」
「りょーかい。唯たちには風呂に入るように言ってくれた?」
「うん。『一緒に入っちゃえば?』って言ったら、顔真っ赤にして怒ってたけど」
「まだ中学生なんだから、入っててもからかったりなんかしないのにな」
琴葉はうんうんと頷きながら、ベットに寝そべっていた俺の横に腰を下ろした。
「私たちだって、中学入ってすぐのころは一緒に入ったりしてたのにね」
「まあ、俺たちは特別仲のいい幼馴染だからな」
「えへへ、そうだね」
いくら幼馴染至上主義の俺でも、世間一般に見て中学生の男女が一緒に風呂に入るというのは普通じゃないということくらい分かっている。
それでも俺たちは、親が年頃だから一緒に入るのはもうやめるようにと言ってくるまで何の抵抗もなく入っていたし、だからといって兄妹のような関係かと言われればそうではない。
以前、瑛太にも言われたことがある。
「お前たちってなんて言うか、夫婦みたい感じだよな」と。
俺も言われてみて確かにそうだな、と思った。親にさえ何も言われなければ、俺は琴葉に裸を見られたってなんともないし。いや、ブランクもあるしちょっとは恥ずかしいかもしれないけど。
「琴葉、ちょっと寝るから、ご飯になったら起こしてくれる?」
「うん、いいよー」
こちらを見て微笑む彼女の頭を一度撫でて、俺はベットに横になり目を閉じた。
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