第3話 大国の継承者③


 森に囲まれた小高い山の天辺に聳え立つ継承者育成機関童話学園フェアリア

 そこから激しい獣道をしばらく歩き、山を下ると見えてくるのが王都クロエランスである。

 広大な土地と豊かな資源に恵まれた御伽大国には多くの人々が暮らしていてね、他国から移住する人もたくさんいたの。そこで、御伽大国を統べる初代ハインリヒ女王は民草が不自由なく生活出来るようにと巨大な王都クロエランスを作った。

 肌の色が違う者、

 瞳の色が違う者、

 髪の色が違う者。

 さまざまな生き者が住まう王都はいつも活気に満ち溢れていて笑顔が絶えなかったけれど、同じくらい争いが絶えることもなかった。それは些細な口喧嘩から暴力沙汰に至るまで。妬み、嫉み、僻み、恨み、辛みーーーー他者と関わることで抱いた負の感情を糧に、人々の心の闇はどんどん大きくなっていった。やがて人々から漏出した心の闇が積み重なり、形を成したものが産声を上げた。


「それがヴィランズなんス」とカタリーナが説明を終える頃には、二人はすっかり王都へと足を踏み入れていた。


 噴水のある広場を中心に、そこから円を描くように家が建ち、さらにそれを囲うように商店がずらりと建ち並ぶ。ヴィランズ発生現場である広場へは、王都入り口から大きな一本道を歩けば辿り着くのだけどね、その途中でエルシは楽しげに談笑する民の姿をたくさん目にしたの。あちこちで笑い声が絶えず、皆活き活きとした表情を浮かべている。こんなに仲睦まじく見えるのに、誰も彼もが肚の中では中指を立てているなんて信じられない!


「目に映るものがすべてじゃないんだね」とエルシは辺りを見回した。俗物に染まることを良しとしないリデル家の方針により敷地内から出たことのなかったエルシにとって、善いものも悪いものも、すべてが新鮮で好奇心を駆り立てられた。


「ま・別に王都に限った話じゃあないんスけどね。人がいればヴィランズは生まれる。でも、王都クロエランスはどこよりもヴィランズの発生率が高いんス」

「人が多い分、負の感情が集まりやすいから?」

「当たりッス。さすが稀代の天才エリーシャの代役、リデル家の継承者ライブラは賢いッスね」

「……その呼ばれ方は好きじゃない」

「ハハ、そりゃ失敬」

 口ではそう言ったけれど、カタリーナは少しも悪びれた様子もなくってね。頬っぺたを膨らませるエルシの顰め面を笑い飛ばした。


継承者ライブラには管轄があるのは知ってるッスよね」

「ええと…………初代女王ハインリヒが広大な領土の管理を効率的に行うために、継承者ライブラを有するそれぞれの一族に領地を分与したって昔話だよね。領地内で発生したヴィランズに関する問題の一切の責任は、その一族の継承者ライブラが担う…………だっけ?」

「そうッス。ちゃんと歴史の勉強してるんスね~」とカタリーナ、「本来、此処ら一帯はハインリヒ女王の管轄なんスけど、あの人ああ見えて忙しいんスよ。だから王都でヴィランズが発生したら、俺ら童話学園フェアリアの学生が駆り出されるんス。経験値アップの名目っつーか、半人前の手でもいいから借りたいってさ」

「自分の学園の学生なら扱き使い放題だもんね」

「それな。ホンット人使い荒いんスよ、あの鬼畜女王ハインリヒ様は」とカタリーナはエルシに便乗して悪態吐いた。


「でも扱き使われるの、嫌いじゃないんスよね」

「…………そういう性癖?」

「期待に応えられなくて申し訳ないんスけど、俺はどちらかと言えばサド寄りッス」

「ああ、そんな感じがする」とエルシは思ったけれど、口には出さなかった。


「だってさぁ、継承者ライブラ童話学園フェアリアに入学するまで自分の領地から出ることって滅多にないッスよね?自分んとこの管理で精一杯だし。そんで、学園を卒業すればまた自分の領地に籠ることになるから、他の継承者ライブラと接することもなくなるじゃん?だからこうして、友達と任務できるの楽しいんス」と白い歯を見せて笑うカタリーナの言葉を聞いてエルシはハッとしたの。継承者ライブラは希少な存在でね、一族のなかでも孤立する孤高の人だった。カタリーナが言うように同じ境遇の人とこうして話す機会もなかったし、それこそ友達なんて1人ぽっちもいなかったの。だから初めてできた友人の存在にエルシの胸は高鳴った。


「短い間ッスけど、一緒に頑張ろうぜエルシ」

「うん!」

 カタリーナが拳を突き出す。エルシがそれに応えると、合わさった拳がコツンと鳴った。





 きゃあきゃあ!わあわあ!いやあ助けて!

嗚呼まったく、騒がしいったらありゃしない!


 エルシとカタリーナが目的地に近付くにつれ、騒ぎは一段と大きくなるばかりでね。蜘蛛の子を散らすように彼方此方へと、本能のままに泣いて叫んで逃げ惑う人の波を、2人はスイスイと掻き分けながら歩いたの。


「もうすぐ通報のあった広場ッスねぇ」とカタリーナ。状況に似合わないのほほんとした口調にエルシは調子が狂う。ひとりだけ緊張しているのが馬鹿らしくなってくるじゃあないか!それでも遠目に噴水が見えてくるとね、エルシのなかに再び緊張感が戻ってきたの。震えを誤魔化すためにきゅっと手を握りしめた。


「僕さ、…………ヴィランズ退治の現場を見るの、初めてなんだよね」

 罪を告白するようにエルシが言う。継承者ライブラの務めは今まで姉のエリーシャに任せっきりだったのだ。


「じゃあ……ヴィランズを見るのも初めて?」

「初めてだよ」

「まじスか!」

 首だけで振り返ったカタリーナが大袈裟に目を丸くした。


「だったら今回の討伐は、説明するのに丁度いいッスね。耳の穴かっぽじって聞きなエルシちゃん、ヴィランズの姿はいろいろあるんスよ」

「人間とヴィランズの見分け方は?」

「対峙すりゃ分かるッス。継承者ライブラは本能的にヴィランズを認識するから」

 ペラペラと喋りながらもカタリーナの長い足は歩みを止めない。ヒールを鳴らしながら目的地の中央広場へと向かうカタリーナの背中を、エルシは早足で追った。


「人間とそっくりな人型もいれば、どこぞの先祖オリジナルの武勇伝で聞くような異形型もいる。アレみたいな獣型もいるんスよ」と言ってカタリーナが広場の中央を指差した。


 喧騒のど真ん中にね、はいたの。でかい図体の犬のような生き物には頭が3つ生えていてね、それぞれの顔に無数にくっついたまんまるの目玉でエルシとカタリーナを見下ろしていた。グルル!唸る3つの口からは涎が滴っていて、足元には大きな水溜まりが出来ていた。ヴィランズに襲われたのであろう、誰かの腕が水溜まりに沈んでいた。


「わあ~!見ろよエルシ、可愛いワンちゃんッスよ~!」

「…………どこが?」

ヴィランズじゃなかったらペットにしたいくらい可愛いッスね~!」

「…………どこが?」

「あの図体も態度もでかいところなんて、屈服のさせ甲斐があってワクワクするッ

 スね~!」

「…………どこが?」

 声を弾ませるカタリーナに、エルシは冷ややかな眼差しを向けた。価値観は人それぞれだからカタリーナのセンスや趣向に兎や角言うつもりはさらさらないのだけれどね、エルシはひとつ分かったことがあったの。カタリーナとは絶対に趣味が合わないってね。


「そいや、さっきの。俺の先祖オリジナルが何かって質問だったッスよね」と思い出したようにカタリーナ、「賢いエルシちゃん、当ててみ?」

 そう言って、両手の手袋を外しながらカタリーナが一歩踏み出す。カツン、とヒールが高い音を鳴らしたのを合図に、「ガァアアァアッ!!」ヴィランズが飛び掛かってきたの。でかい図体のわりにすばしっこいヴィランズをひょいっと飛び越えたカタリーナは、空中で身を翻して長い指でピストルの形を作った。


御伽能力フェアリーテイル白雪姫スノーホワイト】」

 カタリーナが能力名を唱えると、指先から緑色の液体が飛び出した。


「はい、ドカン!」

 カタリーナの掛け声と同時に緑色の液体は3つあるうちの1つの頭に命中してね、ヴィランズの左側の顔がドロリと溶けた。


「ヒントあげるッスね~」

「え?いいよ。だって今言っ、」

「遠慮しなさんな~」と、華麗に着地したカタリーナはヴィランズの断末魔をBGMに語り出した。カタリーナの先祖オリジナルが白雪姫であることは、今しがた彼自身が教えてくれたのだけれどね。そんなことカタリーナはお構い無しなの。


「むかぁーし昔、我がスノウ家の先祖オリジナルはうっかりさんだったせいで、ヴィランズに嵌められて猛毒入りの林檎を喰らい、仮死状態に陥ったんス。間抜けッスよね~」

 カタリーナは肩をすくめた。間抜けにも先祖オリジナル当てクイズの答えを言った自分のことは棚に上げて。涎を撒き散らしながら突進してきたヴィランズをヒラリと躱すさまは、踊っているようにも見える。

 くるん、くるん、くるぅりん。

 紫色のスカートを翻し、真っ赤な靴が空を切る。


「しかし、なんとビックリ!毒に耐性のあった先祖オリジナルは奇跡的に生き返ったんス!先祖オリジナルは生死を彷徨ったことで御伽能力フェアリーテイルに覚醒し、能力を駆使してヴィランズをボコボコのボコに返り討ちにしたッス」

 パチパチとカタリーナが拍手する。音につられてヴィランズが再び飛び掛かったけれど、それよりも高く跳んだカタリーナは長い脚で踵落としを食らわせたの。ヴィランズの右側の顔は大きく開けた口を勢い任せに閉じさせられたせいで、鋭い牙が下顎を貫通して深々と刺さった。

「グゥウウゥウウ゛ッ!!!」

 唸るヴィランズの口の隙間からどす黒い血が流れて落ちた。


「そうして、スノウ家の継承者ライブラは代々先祖オリジナルの毒耐性体質と、体内に蓄積した猛毒を引き継いで生まれるようになりましたとさ。めでたしめでたし~」

「生き返って良かったね。いい話だ」

「だろ?ちなみにヴィランズを生み出す原因となった先祖オリジナルの継母は、そのあと拷問されたんスけど、…………ま・それはさっき話したからいっか」と、カタリーナ。そのままヴィランズに飛び乗ると、真ん中の顔を思い切り殴りつけたの。その拳はさっきも見せた緑色の液体で覆われていた。液体は日光に反射するとキラキラ光ってね、言われなければ猛毒とは思わないほど綺麗だとエルシは思った。痛みに悶える巨体の上に着地したカトリーナは、毒で溶け出した腹部を真っ赤なピンヒールでグリグリと抉った。


「俺が体内に蓄積する毒は全身の汗腺から射出できるんス。形状には囚われないから、使い方は何でもアリなんスよ~」

 腕を前に伸ばしたカタリーナが掌を上に向けると、ドロリと溢れ出た毒がまぁるい形を成したの。カタリーナの手のなかに収まるそれは、一見すれば瑞々しくて、うっかり騙されて食べてしまいそうなくらい美味しそうな青林檎のようだった。


「ほーれワンちゃん、毒リンゴはいかがッスか~?」

 そう言ったカタリーナが、横たわるヴィランズの口に拳を無理やり捩じ込んだ。猛毒で内側から焼け爛れる激痛に身悶えするヴィランズを見下ろすカタリーナの顔は意地悪く歪んでいてね、やっぱり趣味が合わないなとエルシは確信したの。



「んで、答えは?」

 ヴィランズから飛び下りたカタリーナが少し離れた場所にいたエルシのもとに戻ってくる。カタリーナの背後ではヴィランズが真っ黒な灰と化して宙に舞っていた。


「白雪姫」

「おっ!正解ッス!」

「自分で言ってたじゃないか」

「え、そうだっけ?うっかりッスわ~」

 カタリーナは手袋を装着し直した右手で拳を作り、自分の米神を軽く小突いた。

「てへッス」

「出題者が答えを言ったらクイズにならないよ……」

 可愛こぶるカタリーナにエルシは呆れた。


「ギィヤァァアアァッ!!!」

 その時ね、甲高い叫び声が広場に響き渡ったの。二人が振り返ったその先、噴水の影から出てきたのはこれまたでかい図体の、蜥蜴のような生き物でね。長い舌をダラリと垂らしながら血走った目でエルシ達を睨み付けていた。


「ああ、もう一体いたんスねぇ」

 なんてことない口調でカタリーナが言う。ヴィランズを一瞥すると、エルシに向き直ってにっこり微笑んだ。


「じゃあ、あのヴィランズはエルシに任せるッス」

「………………………………、えっ?」

 てっきりエルシは、今回のヴィランズ退治は全部カタリーナがやってくれるとばかり思っていてね。見学のつもりで同行していたもんだから、突然の丸投げに反応が遅れたの。


「エルシの御伽能力フェアリーテイルってエリーシャと同じッスよね?だったらあーんなザコヴィランズの退治なんざ、朝飯前だろ」

 知ったような口振りに、そういえばと、ハインリヒ女王がカタリーナは姉の学友だと言っていたことをエルシは思い出した。だったらリデル家継承者ライブラ御伽能力フェアリーテイルを知っていても不思議ではないなと納得したの。けれど、エルシには困ったことがあってね。カタリーナにぐいぐいと背中を押されて、つんのめるように前に出た。

「じゃ・任せたッス~」

 激励するように肩を叩かれて、エルシの頬を冷や汗が伝った。

「僕は…………、その…………」

「うん?なんスか?」

「その………ええと…………」

 エルシが言い淀んでいると、ドスンドスンと大きな音が聞こえてきてね。

「イィイアァアアア、アァア゛ッ!!!」

 地鳴りのような音に合わせて奇声を発しながら走ってくる蜥蜴のヴィランズに、エルシのからだは竦んじゃってさ。

 手を翳して能力名を紡ごうとしたんだけどね、エルシの唇は震えるだけで音を発することはなかった。ヴィランズが長い舌をびよんと伸ばし、自分を目掛けて飛んでくる様子をスローモーションで見ていた。

 嗚呼、殺られる。

 エルシが本能で死を感じ取った瞬間。


「ドカン」

 感情の籠らない声が聞こえてね。ふと隣を見ると、眉間にしわを寄せたカタリーナが腕を伸ばし、指を拳銃の形にして立っていたの。視線を前に戻すと、蜥蜴のヴィランズがカタリーナの猛毒でドロリと溶けている最中だった。


「何をボケっとしてんスか?いくらザコとは言え、ヴィランズを前にして突っ立ってると即死ッスよ」とカタリーナ、「ちっとも御伽能力フェアリーテイル使う素振り見せないから、つい手ェ出したッスけど…………俺がやらなきゃけっこーヤバかったじゃん?任務はピクニックじゃないんスから、おふざけ禁止ッスよ」

 酷く冷めた声だった。


「自分は散々ふざけた調子でヴィランズ退治をしていたじゃないか!」とエルシは小言のひとつやふたつ言いたくなったんだけどね。カタリーナがあまりにも真剣な顔をしていたから、エルシは口を噤んだの。だってカタリーナが余裕綽々だったのは、その態度に見合うだけの実力があることをよぉく分かっていた。

 だから。


「何で御伽能力フェアリーテイルを使わなかったんスか?」

 だから、カタリーナに聞かれてエルシは一瞬言葉に詰まったの。本当のことを告げるか迷ったから。絶対口外するなと一族から挙って厳しく言い付けられている秘密を、会って間もない相手にあっさりばらしていいものかしらって。けれど、御伽能力フェアリーテイルを知られている以上隠しても時間の無駄だなぁと、これまた一瞬で開き直ることにしたの。カタリーナのことを家に縛られて窮屈だと思っていたけれど、結局自分も同じだってことに気付いてね。

 だったらぶち破ってやろうと思った。

 姉のエリーシャにも、カタリーナにも出来なかったことをしてやれってね。それに自分の身を案じて、本気で怒ってくれた相手には嘘を吐きたくなかったの。

 ええい、ままよ!

 ちょっとばかしの反抗心と振り絞った勇気に背中を押されて、エルシは腹を括って打ち明けることにした。


「……………………ないんだ」

「はい?」

「僕は、御伽能力フェアリーテイルを、つ、…………使えないんだ」

「……………………………………は?」

 うんと間をあけてから、カタリーナが首を傾げた。ぽかーんと、赤い唇が真ん丸にかたち作った。


「………え、は、え?継承者ライブラなのに?意味不明なんスけど。どういう事ッスか?」

「ええと、………」

 問い詰めるカタリーナの勢いに圧されてエルシは身を縮こませた。

「……正確には、自分の能力ちからを上手く制御出来ないんだよ。そのせいで、いつも皆に迷惑をかけてしまう。だから御伽能力フェアリーテイルを使うのが…………こわいんだ」

 言いながらエルシは思い出していた。姉のエリーシャが行方不明となり、正式に継承者ライブラに就任してからの地獄のような訓練の日々を。御伽能力フェアリーテイル名を叫んでも能力は思いのままに発動出来ず、発動したとしても暴走して制御出来ない。能力に踊らされ、嘲笑われ、馬鹿にされ、何度心が折れそうになったことか。姉エリーシャが優秀だったこともあり、弟エルシのあまりの出来の悪さにリデル家の者達は嘆き、頭を抱え、そして箝口令を敷いた。

「我がリデル家の継承者ライブラ御伽能力フェアリーテイルを使えないなど一族の恥だ。リデル家の歴史に汚点を残すことは許さん」


 だからきっと怒られちゃうんだろうなって、エルシはどこか他人事のように近い未来を想像したの。その汚点とやらをよりによって本人が晒したのだから。それでも後悔はなかった。むしろ腹の底に鉛のように沈んでいたモヤモヤが無くなった気さえする。

「僕はリデル家歴代継承者ライブラのなかでも一番出来が悪い、落ちこぼれのアリスなんだよ」とエルシは言って、カタリーナを見つめた。一族の者達のように軽蔑するか、鼻で笑うか、継承者ライブラとしての自覚が足りないと激怒するか。カタリーナがどんな反応をするのか出方を窺った。


「ふーん…………ま・そういうことなら仕方ないッスね」

 けれどカタリーナったら、エルシが予想していたどの反応とも違ってね。エルシが一大決心して告げた言葉を軽く流すもんだから、エルシは拍子抜けしたの。


「…………怒らないの?」とエルシ。ぱっちりした目をさらに真ん丸にさせた。

「何で俺が怒るんスか?」とカタリーナ、

「だって制御出来ないうちは仕方なくね?それに、無理強いは良くないッスから」

「…………そうなの?」

「そッスよ~」

 あっけらかんと言われると、そういうものかと錯覚してしまいそうになる。継承者ライブラ御伽能力フェアリーテイルを制御出来ないなんて前代未聞。継承者ライブラ失格だと後ろ指をさされて当然だって、何度自分を責めたことか。なのに、それでも大丈夫だと許してもらえるなんて。


御伽能力フェアリーテイルを使うのが怖いんなら、怖くなくなるまで特訓すりゃいいんスよ。一緒に頑張ろうって言っただろ?俺、特訓ならつき合うッスよ」とカタリーナが満面の笑みを浮かべた。

「カタリーナ…………ありがとう!」エルシは友人の優しさに胸を打たれた。

友達ダチが困ってんなら助けるのは当然ッスよ。それに俺、扱くのは得意なんスよね~!ビシバシ鍛えるから楽しみにしててほしいッス!」とカタリーナが満面の笑みを浮かべた。

「あ、ありがとう…………?」エルシの頬が引き攣る。カタリーナが浮かべているのはさっきと同じ笑みなのに、悪悪しいのは何故だろう。


「そんじゃあ・ま、そゆことで」と言ってカタリーナがパンッと手を叩いた。この話はこれで終わりと言うように。


童話学園フェアリアに帰ろうぜ、エルシ。案内を再開するッスね」

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