3

 ふんふん、ふふん


 メリーエルの楽しそうな鼻歌が響き渡る。


 ユリウスが魔法で元通りにした大鍋の中には、再び脱毛薬の材料が投入されていた。


 メリーエルの中ではこの薬を使う復讐相手はすでに決められているらしく、


「待ってなさいよ、お・じ・さ・ま♡」


 うきうきと楽しそうな様子である。


 伯父様とはメリーエルの実の父親の兄のことで、彼はロマリエ王国で伯爵の地位にある。


 祖父が他界した時に、本来は父が受け取るべきだった遺産までもすべて奪って行った強欲で卑怯な男だった。父が受け取ったのは、田舎にあった小さく古い邸の一つだけだが、それでも恵んでやったと恩着せがましく言うのだが、父は伯父とは真反対で、無欲でおっとりしているため、いつもにこにこ笑って伯父に「ありがとう兄さん」なんて言う始末だった。


 昔から伯父のことは腹に拗ねかえていたのだが、メリーエルが魔女であるという情報を売ったのが伯父とわかったときは、さすがにメリーエルも激怒した。なぜいきなり、田舎に住む姪をロマリエ王国から追い出したくなったのかは知らないが――、これはやはり復讐するべきだろう!


「ふっふっふ、伯父様が最近、頭頂が薄くなったって気にしているのを知ってるのよっ」


 ぱらぱらと髪の毛が抜けはじめたときの伯父の顔を想像するだけで――、これは、楽しすぎる! 


 ぐつぐつと鍋が煮えはじめたところで、メリーエルは最後の材料である鹿の角をぽいっと鍋に投入する。なけなしの魔力をつぎ込みながら、液体が紫色から無色透明に変わった瞬間に火を止めた。


「でーきた! あとはこれを冷ますだけ」


 るんるんとスキップして部屋中を走り回りそうな様子のメリーエルに、ゆっくりと立ち上がったユリウスが近づいて、大鍋の中を覗き込む。


「それで、これをどうやってお前の伯父に飲ませるつもりだ?」


 メリーエルはにっこりと微笑んで、無言でユリウスを見上げる。


「……なぜ俺を見る?」


「だってわたし、追放されちゃってるし」


「だから?」


「ユリウスなら、伯父様の飲み物にこれを混ぜるてくるのも、簡単でしょ?」


「………」


「わたしは楽しく、水晶で見ているから、あとよろしく」


 ぽんぽん、とメリーエルに肩を叩かれたユリウスは、ぐっと眉間に皺を寄せた。


「――俺は、誇り高き龍族なのだが……」


 もちろん、そんなつぶやきは、メリーエルは完全に無視だ。

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