第3話 サジンと飯屋に行く
ロン婆さんの店を後にして大通りを歩いていると、前から冒険者のサジンが歩いてくるのが見えた。あいつに関わると面倒だと路地に入ろうとしたところで、サジンが俺に気づいて近づいてきた。
「よう、ギル、スライムなんか連れてどうしたんだ?」
「‥‥‥‥」
説明しても信じないだろうし、何て言おうかと頭を捻るが、いい考えが浮かばず言葉がでない。
「チビドラは?」
いつも俺と一緒にいるチビドラの姿がないので訝しそうに訊いてきた。
俺は諦めて、信じるかどうかは別にしてスライム(チビドラ)のことを話しておくかとサジンを飯に誘う。
飯を食いに行く前に、スライム(チビドラ)を預けるために宿に寄る。
宿では別料金を払えば、テイムしたモンスターを厩舎で預かり世話をしてくれる。
チビドラの料金を払っていたのでスライムを預けても文句を言われることはなかったが、宿の主人から物問いたげな視線を感じて、気づかない振りをした。
飯屋に入り席に着いて注文すると、サジンが早速訊いてきた。
「何でスライムなんか連れてんの? チビドラはどうしたんだよ?」
どうやって話そうかと悩んだが、左手を上げて人差し指に嵌まった指輪を見せる。
「‥‥‥‥これ、覚えてるか?」
「ん? 昨日手に入れたって言ってた指輪だよな?」
「ああ、それ‥‥‥‥」
馬鹿にされるだろうなと思うとこの先を言うのを躊躇われる。
しかしサジンは俺の気持ちに気づいているのかいないのか、珍しく真面目な顔で俺の話を訊こうとしてきた。
「それで?」
「‥‥‥‥呪われた」
「ぶはっ‥‥‥‥ひっ‥‥‥‥ぃ」
「笑いすぎだ」
珍しく真剣な顔をしているから油断した。こいつはこんな奴だったと、腹を抱えて笑っているサジンの頭を殴ってやった。サジンはそれでも笑いが止まらないようだ。
「だって‥‥‥‥おま‥‥‥‥ひぃ‥‥‥‥呪いって、鑑定‥‥‥‥しなか‥‥‥‥ったのかよ?」
「お前も鑑定しただろうが」
眉根を寄せて考えていたが、漸く思いだしたのか首を傾げた。
「ん?‥‥‥‥そういや、したな‥‥‥‥鑑定では呪いなんて出てなかったよな?」
「ああ」
「‥‥‥‥本当に呪われたのか?」
眉間にシワを寄せて、信じられないと思っているのが伝わってくる。そんなサジンにぶっきらぼうに返事をした。
「ああ」
「ほんとかよ?」
やはり信じてもらえず疑いの眼差しを向けられる。俺でも未だに信じられないのだから仕方ない。
「ロン婆さんとこいって確かめてきた」
「ああ‥‥‥‥ロン婆さんかぁ‥‥‥‥なら間違いないよな」
流石にロン婆さんの言葉なら信じるようだ。
「それで? 確か『テイムしたモンスターが全て同じになる』だったよな? スライムと関係あんのか?」
ここまで話してもチビドラとスライムが繋がらないようだ。察しの悪さにいらっとする。
「‥‥‥‥チビドラがスライムになった」
「は?」
「チビドラがスライムになったんだよ」
サジンは何を言われたのか理解出来ないようで口をあけてポカンと呆けていたが、暫くすると言葉の意味を確かめてきた。
「あのスライムがチビドラだっていうのかよ!」
「ああ、そうだ」
口中でぶつぶつと呟いていたが徐に俺を見てまくしたてた。
「いやいやいや、あり得んだろ!」
何度繰り返し話しても「どんな夢物語だよ」と信じようとしない。俺は何度も説明するのに疲れて苛立ってきた。
「俺が嘘いってるっていうのかよ」
「そんな話、信じるほうが可笑しいだろ」
「チッ‥‥‥‥俺だって信じらんねえよ‥‥‥‥くそ」
頼んでいた料理が運ばれてきて、俺たちは無言で料理を食らった。ほぼ食べ終わったところでサジンが呟いた。
「お前がこんな冗談言うはずないしな‥‥‥‥信じてやるよ‥‥‥‥それで? 元に戻せるんだろ?」
「‥‥‥‥ロン婆さんに調べてもらってる」
「まあ、なら、大丈夫だろ‥‥‥‥あの婆さんに解けない呪いなんてないだろ」
「‥‥‥‥そうだな」
サジンに曖昧に頷いて、ロン婆さんが呪いを解く方法を見つけてくれるように祈った。
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