第6話【対人】


「確かに受け取りました。これで研修卒業です。実はこれとても素早く終わることが出来ます」


 ユヨンを手渡すと衝撃なことを言われた。


「と言いますと?」


 そう問いかけた。


「ポーションショップとかでも買えるんですよ」


「ずるくない?」


「ずるくありませんよ、冒険者に求められるのは確実に依頼を達成出来る能力ですから」


 ゲームの価値観で、強ければ良い、任務やクエストなどは、後回しだったりとか、重要ではないとかの考えが私にはあった。

 トロフィー稼ぎ、クエストに関係ないモンスターの出待ち、そういったことはリアルのクエストにはないし、意味もない。古い価値観を捨てなければ、生き残れるか不安になった。


「それではこのオーブに手を当ててください、ギフトが分かりますので」


 ギフトと聞いてワクワクして手をオーブに当てた。

 目の前に

【筋肉良質化】

【弱点暴露】

【剛拳】

【動体視力上昇】

【思考能力上昇】

【動体視力上昇時速度兼思考速度上昇】

 がグラフにまとめられていた。


「珍しいですね6つもあるなんて」


「そうですか?」


 転生のチートのお陰だろうか、ギフトは少なくなかった。けれども、強そうなギフトがいっぱいあるのに一般人より少ししか強いとしか見れず、最強能力武闘家としての実感が湧かない。


「ええ、普通は4つぐらいですよ」


 ずこっ、2つしか変わらなかった。だがそれでも、1.5倍だ。これを少なく感じる人もいるが私はこれを多い倍率だと感じる。


「私のギフトの能力は良いものですか?」


「いえ、本人以外は教会にでも行かないと詳しくは分かりません。でもきっといい贈り物ギフトだと思いますよ」


 ルーキーを多く排出している可能性がある新人コーナーの、私の目を見ていた受付嬢は私の露出している手足をチラッと見てそういう。

 そして私の銀髪に違和感を浮かばせないことからも分かるが、この世界の髪の色は意外とカラフルだ。それでも黒が1番多いけど、5、6人に1人ぐらいは黒以外の茶髪を含めた色の髪の人がいた。

 現に、この人も銀髪だ、僅かに海色を混ぜて。それにやけに艶があり、吸い込むように光を反射していた。


「そうですか、ありがとうございます」


 先に宿に戻った2人に後で聞いてみようとは思った、ギフトは何かと。

 外に出ると


「そう言えば、えっとあの、どう呼べばいいの」


「メナノヤです、歳は15です。気軽にメナって呼んでください」


 少女はそれを言い終わると手を差し出した、握手というやつだ。私はそれに応じた。

 改めて見てみると少女は独特な服装をしていた、民族衣装にも見えるし、教会に居るシスターにも見える、白と青がベースで金の刺繍があったりする服だった。


「メナちゃんね、わかった。私のことはふうと呼んで」


「ふうさんですね分かりました」


 女性同士の方が楽になると言うことで、スネ夫の提案から、先に帰った。だが無事にスネ夫の読みどおりに仲良くなれたと思う。


「おい!メナノヤ、つぇめぇ、俺らと組まず、駆け出しの奴らと組んで、どう言うつもりだ?ア"ン"!」


 そう言って柄の悪るそうな3人の中で1番ガタイのいい1人が私を突き飛ばし、メナちゃんを壁ドンした。


「ひぃー」


 それにより涙目になり、怯えていた、声が上がらないようだ。しかしこうも魅力のない壁ドンは初めて見る。


「おい、やめろよ、メナちゃんが怯えているじゃないか」


「誰だ、てめぇ、おっ、結構可愛じゃねぇか、おい、つぇめぇも俺らと組めよ」


 薄暗くハッキリと顔が見えなかったから、私に注目が浴びられなかったが、顔を近くでハッキリと見られると私も勧誘された。


「絶対断る!」


「おい」


「へい、分かりやした」


 私が断ると不敵な笑みを浮かべ大柄なチンピラが、その部下と思われる小柄のチンピラを顎で使っていた。


「うぅー」


「分かるだろ、もし叫んだら君の友達のメナノヤが血を出すことになるぞ、大人しくついてこい」


 気づいたら後ろにいるメナちゃんがチンピラに捕まり、首筋にナイフを当てられた。

 どうしょうもない、私はついて行くことしか出来なかった。

 歩いて5分、ひとけがない通りの路地裏に連れてこられた。

 途中ガントレットも取られで着いた頃には手に紐を巻かれた。


「ヒュー、友達思いだねぇ、大人しく紐まで巻かせてくれたなんて。さて、てめぇも仲間になれよ、俺たちが可愛がってやるよ」


「もう一度言う、断固として断る!」


「痛い目に会いたいようだなぁ」


 B級映画でも言うが分からないほどの、雑魚キャラの決めゼリフを言う。

 そして、腹回りを殴りかかろうとした。

 が、遅く見える。

 <又だ、相手が遅く見える>

 手は動かせないとはいえ、体は捕まってもいなく遅く見えた大柄なチンピラの拳を余裕で避けれた。


「てめぇ、何避けてんだよ」


「遅いんだから避けるに決まっている」


「ア"ン"!てめぇ俺の拳が遅いんだ、もう手加減しねぇぞ」


 頭に血管を浮き出して、また殴りかかろうとした。

 が、また遅く見える、だがこのままやられっぱなしじゃ居られない、そんな時

 <あっ、そう言えば、ルーミーさんが教えてくれたあれがあった>


「【変身】」


 そう言うと幾何学的な模様が私の手先に現れてひじに行かない所まで通った。そして赤く光る月のような衛星の光を受けでうっすらと輝く。

 私にガントレットが装備されていた。

 そして弾力性がない紐がガントレットに負けてボロボロ崩れた。


「ゲッ、変身持ちかよ。ならただもんじゃねぇ、本気で掛かれ!」


 そう言って襲い掛かってきた。

 直後、羽ばたいている鳥もチンピラと共に世界が遅く見える。

 <ギフトの効果だろうか、そんな事より、早く、メナちゃんを助けなきゃ、行こう狼牙>

 私は声には出ていない、これが俗に言う心の声だと思った。

 <おっ、マスターに初めて呼ばれた気がしたね>

 <えっ、えぇーー!何この頭に響く声は!?>

 <驚いてる暇があればメナちゃん助けたらどうなんだい?マスター>

 <それもそうだね>

 拳は何故か緩み相手の左肩に当てた。

 そして意識は緩み、時間は普通に戻る。


「ぐぁ"ぁ"ーーお、俺の肩がぁぁー!」


「は、早い、そして的確だ、ちょっと前に脱臼した兄貴の左肩を狙うとは」


「おい馬鹿!何冷静に分析しているんだ、早く兄貴助けるぞ!」


 メナちゃんに絡み付いていたチンピラ三人衆の残った細身の2人は、大柄なチンピラに駆け寄った。


「わりぃ、兄貴ぃー大丈夫か!」


「か、た、き、お」


「兄貴?兄貴。兄貴ぃーーー!!」


 チンピラの子分と思われる2人が声を合わせて叫ぶ。

 兄貴、兄貴ってどんだけ言うんだよ、というかそうまで強く叩いてないよ。

 <それはな、マスターのギフトだよ、制御が効きにくいんだ>

 <どう言う事?>

 <簡単に言うとマスターのギフトは力がちょ~強くなるんだ、さっきだって僕が調整しなかったら、あれ死んでたよ。冒険者として>

 <マジ?>

 <うん、マジ>

 <どうすればあまり傷付けずに追い返せるの?>

 <体を貸してくれればね>

 <えっ、それって退治したあと、「くっくっくっ、この麗しく美しい体は報酬として貰っていく、ぐはは」とか言ったりするパターンでは?>

 <ナルシストなの?マスター>

 <違うよ、だって本当だもん>

 他者の目線から見ればこの神秘の髪はふつくしいだろう。それに、チンピラもそのような反応を示していたし。そう

 他者目線からの予測できる感想をただただ述べる。

 <確かにの美しいけど>

 <でしょ>

 <まぁ、それは置いといて、マスター考え過ぎたよ。そんなことはしない、だって僕のマスターだからね。あと、体を借りている時もマスターがその気だったら戻せるし>

 <そうなの?だったら、いいよお願いね、あまり傷付けずに追い返すのを>

 カチッと何かが切り替わった気がする。

 手が勝手に動いた気する。

 口が勝手に動いた気する。


「さぁ、悪党、このぼk、ごほん、私が5秒数えるうちにさりな」


 指を悪党に指しドヤ顔をして言った。

 <決まった>(*`ω´*)ドヤッ

 <決まってなぁーい!全く、痛い子にしか見えにいよ>

 <いや、そんな事は無いみたい>


「調子に乗ってんじゃねぇ!」


 そう言いながら兄貴とやらの肩を慎重そうに担いで連れて走り出した。


「覚えていろ!」


 何処ぞの雑魚キャラが言いそうなセリフを言ってにげた。

 <ふう、何とか助かった見たい、ありがとう>

 <良いよ、だって……>

 <だって?>

 <この体は貰っていくからだ>


「ぐふふ」


 そう言って私の体を撫で回した。


「ああ、これがマスターの体」


 クンクンと私の鼻で私の匂いをかいていた。


「良い匂いまでする」


 匂いを嗅がれた。

 ゾッとなったが何も出来なかった。

 <ちょっと止めてよ、私がナルシスト見たいじゃない>

 <だって思ったより、いい体して、マスターも隅に置けませんなぁ、幼児体型だけど>

 意識的に戻ろうとしたが戻れなかった。

 <何で戻れないの?>

 <マスターに戻り方言ってないんだもの>

 <嘘、まさか一生このまま>

 <そんな訳はないよ>

 カチッと何かが切り替わった気がする。

 手が自分の意思で動かせる気がする。

 口が自分の意思で動かせる気がする。


「あっ、戻った」


 私はさっき狼牙がしたポーズのまま戻った。

 ちょっと恥ずかしい。

 <全く、狼牙、何でそんな事をしたの?>

 <ごめんごめん、マスターがいい反応しそうだからね、つい>

 響く声は陽気な感じであるが、反省の色を感じ取れない訳では無い。

 <全く、ついじゃない、で何で狼牙は喋れるの?>

 <喋れるとは違うかな、テレパシーってやつだ。僕が喋れるのは魂が宿った感じ>

 <魂?>

 <そう、魂、これはマスターまぁ持ち主たね。一人のマスターと永い時間を共に歩んだ武器。そして、血を浴び過ぎた武器。強すぎる武器に魂が宿り出す。僕は、前者でもなければ中者でもなかれば後者だ。これからは前者になるつもりだけどね>

 <その後者は具体的には何処が?>

 <マスターは質問責めが好きのようだねぇ、まぁが具体的に言うと気温、気圧、湿度の僅かな違いで大まかに七つの光を出す【セブンクリスタル】、あらゆる熱に耐えうる【火龍の鱗】、どんな高圧でも形を曲げない【水龍の角】、コーティングに使えばその武器は、腐らない、錆びない、溶けなくなる【腐龍の膜】、鉤爪部分があり、噛みちぎることには右に並ぶもの無しの【デーモンシャークの牙】、中には天女の羽衣にも使われた【天界の極上糸】フワフワ、モチモチ、軽くなるどころが重みを感じない、通気性もいいのに温かい天衣無縫の技の中の布部。それらを全て使って作った、とーーーでもすごい鎧のガントレットであり、打撃武器のナックルでもある。この中の素材の大体は国を上げ取れるか取れないかのレベル、でも少数精鋭の方が良いけど、国宝級かそれ以上だよ〜>

 言われて見れば確かに着け心地は良い。

 <わかった、分からないけど、すっごく強いのは分かった>

 <そう僕はとっても強いの。あと、血を浴び過ぎた武器は持ち主を呪うんだよ。俗に妖刀や呪われた武器ってやつだ。前者は持ち主を選ぶんだ。相応しくない者には使えない。確か参代目の牛札あれは前者に成れる。使う人次第だよ。どんな武器でも魂が宿る訳では無い。心を込められた武器だけが宿れる>

 <へぇー、あっ、メナちゃんは>


「よかった寝ているみたい」


 チンピラから離されたあと落ち着いたようで地面に座り込んでいたが、あの様子だと疲れて寝ているようだ。


 <そうだね。それに、マスターがあんなことをしている姿を見られてもしたら、ぷぷっ、ナルシスト呼ばわりされるね>

 狼牙は一瞬失笑したような笑い声を出していた。これでも談笑以外の声には聞こえない。

 <それはあんたがしたことでしょうが>

 <でも、周りから観ればマスターがしているふうに見えるよ>

 <うぅ、次からしないでよ>

 <へいへい、分かったよ、それよりメナちゃんどうするの?>

 <今の所は連れて行くしかないよ>

 <抵抗出来ない少女を部屋に連れれてなぁにしようって気ですか?>

 ニヤニヤで半目を作っているような声が響く。

 <何もしないから、全く>

 そんなやり取りを狼牙として少女をおんぶして部屋に連れた。


「ふうちゃんお帰り、ってどうしたのよクタクタになって」


 海は先に寝たみたい。ああ、私も寝たい。


「ちょっとね」


 そう言いながらメナちゃんをベッドに下ろした。

 安心し油断する意識が薄れていく、ダメだ、もうおち……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る