第6話 金でガチャ石が買えない
数分ほどで緊急メンテが解除されたので、俺は取り急ぎ邪神を喚び直した。
「そうだ、貴様を殺そうとするとあの空間に戻されるのであった」
邪神の顔にはまるで反省の色が見られなかった。流石邪神という他ない。
「さっき聞いた話だと、"回帰"すると普通は狂ってしまう、とか言ってたよな?」
「我の『加護』を受けた貴様でも一分と持たないだろう。この世界のどんな精神干渉魔法よりも悍ましいモノだ、アレは」
そういえば、『邪神の加護』についてはまだ聞いていなかった。後で聞こう。
「"回帰"した場所...えーと、回帰空間でいいか。そこはどんな風になってるんだ?」
「何も無いが、何かが"有る"のだ。彼処にはな」
「急に哲学語られても...」
「そうとしか形容のしようがない。黒一色の空間だが、"何か"が蠢き、囁き、嗤っている。おまけに身動き一つ取れないのだからな」
「ふーん...」
話を聴きつつメニューを見ていると、"ステータス"の文字の右上に小さくエクスキュラメーションマーク、俗に言うビックリマークが付いていることに気が付いたので、ステータスを開いてみた。
『 レベルアップ! 1 → 21
ヘンセイコストジョウショウ
シンタイノウリョクジョウショウ 』
「い、いくらなんでも不親切すぎる...!」
レベルは分かる。初期値から20も上がったのだ、ある程度サービス開始から時間の経ったゲームでも無い限り、結構な上がり幅だ。
編成コストもまあいい。元々表示されていなかったし、邪神が編成できる様になるまで気長に待てばいい。
だが身体能力とやら、お前はダメだ。ステータス画面の情報量がそもそも少なかった時点で嫌な予感はしていたが、まさかそこの上がり幅を表示してくれないとは思わなかった。
「なあ邪神、平均的なニンゲンの戦士とかのレベルって分かるか?」
「そうだな、我が戯れに遊んでやったニンゲンは確か...180かそこらだったな」
「それ、人類最高戦力とかだったりしない?」
「さあな、ニンゲンの力量など一々把握してはおらぬ」
「そうだよね、そもそも邪神と戦う人間なんて強いに決まってるよね...」
邪神に人間の平均レベルを聞いた俺がバカだった。
その後メニューを色々いじっていると、"ナカマ"の欄にソート機能があることに気が付いた。そこでソートを行おうとする事で、他のレアリティを確認するという地味な小技を発見したのだ。
レアリティは低い順にC、UC、R、SR、SSR、SC、EXSC、EXSC+だった。
やはりと言うべきかなんと言うか、邪神は最高レアだった。SSR以上確定で3つ上のレアを引いてしまうとか、以前の俺ならばまずあり得ない話だがこれはもしかすると──
「こっちに来てから、運が上がっているのかもしれない...!」
「ハァ...そういえば貴様、召喚には何を代価にしたのだ」
「え、代価?」
「無から有を生み出す事は出来ない。それは召喚術においても同様の話だ」
「代価...俺が邪神を召喚するのに使ったのは無料ガチャって書いてたし、そんな事言われても...」
「それは断じてありえん。本来、召喚を行うためには縁となる供物やその代わりとなる"エーテル石"が必要なのだからな」
エーテル石。言葉の響きと用途から推測するに、恐らくガチャに使う石の事だろう。
「そのエーテル石ってのは、どうしたら手に入るんだ?金で買えたりするのか?」
もし買えるならば、全力で働くことも辞さない。そもそも、この世界にどんな仕事があるのかもまったく把握できていないのだが。ガチャの事を考えすぎた弊害だった。まあそれは明日、朝になってから聞けばいいだろう。
「本当に何も知らないのか」
邪神は嘲るようにこちらを見たが、大人しく解説してくれた。契約様々だ。
「エーテル石とは、エーテルが外部の干渉を受けぬ場所で、長い時を経て物質化した物だ。ニンゲンの世界では取り引きされる事は殆ど無い」
「え゛っ゛」
気の遠くなるような思いだった。まさかここまでお膳立てしておいてそんなはずは無いだろうと思う自分がいた。俺は揺れる視界の中メニューからガチャ画面を開き、邪神に右上の石の絵を見せた。
「この数字の横の、見たことあるか」
「なんだ、知っているではないか。エーテル石は環境によって様々な色や形に変化するが、概ねそのようなものだ」
「はう」
俺の意識は今日起こった出来事で積もり積もった疲労感と、ガチャが引けないかもしれないというショックで何処かへ飛んでいった。
次に目を開けたのは、太陽が真上に来る頃だった。
というか、いい加減『邪神の加護』について聞かないとな...
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