第5話 あの仕様に意味はあるのか
「──そんでさあ、俺って、いや、俺の力では無いと思うんだけど、一応召喚が出来たし、職業としては『召喚士』だと思うんだよね。その割に召喚した仲間を使わずに己の肉体一つでドラゴンを倒しちゃうって、どうなの?」
「貴様が隕龍を下したのは、出所不明の『召喚』によって我を呼び出し、『加護』を授けられたからだ。貴様の力は召喚士でも無ければ、己の身一つで倒した訳でも無い」
「あ、はい...」
隕龍を倒した俺は暫く重力に従って落ちるのみであったのだが、途中、真横にナチュラルに邪神が転移してきて、俺の足首を掴んで何処かへ投げ飛ばしてくれやがったのだ。側から見たら、ドラゴンと激戦を繰り広げ、疲弊していた俺に追い討ちをかけてきたマジモンの悪魔、いや邪神だ。
投げ飛ばされた先は、ちょうど咆哮の範囲から逃れていた、どでかい草原にポツンと存在している池だった。その池に上空から投げ飛ばされてきた俺は、激しい音を立てて頭から突き刺さったのだった。
不幸中の幸いか、池は大人の身長二人分程の深さであった事に加え、俺の体は思っていた以上に頑丈だったらしく、またギャグ補正の神様が俺を見放さなかったのか、痛みは特に感じられなかった。おまけに隕龍の燃えるように熱かった血が流れてくれたのはラッキーだった。
邪神は俺の血を流すために池に向けて投げ飛ばしたのかとも思ったのだが、偶然だろうと思い直した。だって、邪神だ。イメージとしては世界の一つや二つぶち壊していたり、ラスボスを影で操っていたり、よく分からん不定形の見たら発狂してしまう生物だったりする邪神が、実は汚れを流してあげるために上空から水のある所へぶん投げてくれる系ツンデレヒロインでしたとか、気持ち悪くないか?
そんな事を頭が突き刺さっている状態のまま水中で考えていたのだが、上空から物凄い殺気が放たれたので俺は急いで池から脱出したのだった。恐ろしや。
そんなこんなで日も暮れてくるし、腹も減るしで、今日はこの場で夜を明かそうと決めたのだ。
隕龍の咆哮──邪神曰く『咆哮ハウル』──によって沸き出たマグマは未だ冷めることなく煮え滾っている。
環境をめちゃめちゃに荒らし回ったソレだが、光源として使えるので利用させてもらう事にした。
あと、池から出た後に隕龍と戦っていた場所、つまりこの草原の惨状の爆心地に行ってみると、黒いゴツゴツとした甲殻や肉塊が散らばっていた。隕龍の物だろうソレを回収し、有り難く今日の晩飯にさせてもらうのであった。
しかし、晩飯にすると言っても生のまま龍肉(?)を食べるわけにはいかない。もしかしたら生でもいけるのかもしれないが、流石にそんな勇気は無かったので取り敢えず肉をマグマに浸してみる事にした。
普通の肉なら焦げるどころか溶けるだろうが、隕龍の血を全身に被った時、熱湯でも浴びたかと思うほどに熱かった。隕龍の空から降ってくるという性質や、体表などを鑑みても、恐らく全身が熱に強く出来ているはずだ。それは内部の肉にも言えるだろうということで、隕龍のマグマ焼きを決行したのであった。
料理と呼べない程雑なソレは俺の思惑通り行き、なんとか焦げも溶けもせずに上手く焼肉にする事が出来た。
肝心の味だが、
「うーん...塩が欲しいな」
不味くは無かった。で、冒頭に戻るわけだが。
「そういえば、エーテルとか、原種オリジンとか、聞きそびれた事結構あるんだよ。最重要は、『加護』についてなんだけど」
「チッ...エーテルとは、大気中に含まれる魔力を指す。ニンゲンを含めた魔法を行使する生物は、皆エーテルを取り込み、自らの魔力とするのだ」
「邪神が俺を殺そうとした時、邪神はエーテルを腕に纏わり付かせたって言ってたよな?それは他の魔力を扱える生物にできる事なのか?」
「エーテルとは、体内に取り込み濾過し、魔力に変換する事でしか普通扱う事は出来ない。ニンゲンが魔力操作を行わず、大気を自在に操る様なモノだからな」
「なるほど...じゃあ邪神が特別って事だな!」
「まったくもってその通りだが、我に向かってその様な口を叩けるのは、あのニンゲンか貴様くらいだろうよ」
俺は『加護』のおかげでこんなに精神が図太くなったらしいけど、話を聞く限り、邪神を数年前に喚び出した人間は元からヤバい奴みたいだな、と俺は思った。また機会があったらそれについても聞いてみよう。
次に邪神は、謎パワーで浮かせた隕石に座り、足を組んでから原種オリジンに関する説明をしてくれた。
曰く、個体数、種類共に数えるほどしか現存していないが、太古より生存競争を生き抜き、現在にまで生き続けている生物をそう指すのだそうだ。
その殆どが隕龍の『咆哮ハウル』の様に魔力を行使し、気紛れに人里に降りてきては破壊の限りを尽くすらしい。あと、隕龍は原種の中でも最弱らしい。どこの四天王だ。
ここで疑問に思った事が一つある。
「こっちから聞いといて悪いんだけどさ、なんで質問した事全部素直に喋ってくれるんだ?それも強制されてんのか?」
改めてそう聞くと、邪神は首元のチョーカーを指してこう言った。
「貴様には従わなければならないという契約術式がコレには施されている。邪神たる我すらも拘束する力を持つニンゲン...確実に国どころか世界をも揺るがしかねない事になるのは明白だ」
「ふーん...でも、戦えって命令には従わなくていいんだろ?それってなんだか不自然じゃ無いか?」
そう。隕龍が現れた時、俺は邪神に対して戦えと言い拒否されたのだ。しかし、戦わなくていいのであれば、(今回は無料で引く事が出来たが)わざわざコストを支払って喚び出すものでもないだろう。『加護』は副産物的な物だろうし、対したメリットにはならないのだ。
「それは我が邪神だからでは無いのか?」
なんだその邪神理論は。いや、待てよ?
「もしかして...あった」
メニューを出して"ナカマ"を開く。簡素なガチャ画面とは違って色々できる様になっていて、邪神のステータスを確認した時は見落としていたけど、そこでちゃんと編成も行える様になっていたのだ。
確認してみると、邪神はパーティに編成されておらず、パーティ人数は俺を除いて0人だった。普通なら最初のガチャはチュートリアル中に行われるもので、編成してみよう!とか表示されていてたりするものなのだが、生憎現実は不親切設計だった。
「やっぱり、編成されてなかった」
「何度か見たが、今のニンゲンがその様なモノを作り出せる技術を持っているとは思えないが..."聖都"のニンゲンなら或いは...」
「まーた新しい用語を出しおってからに。今に見てろ、お前を編成してこき使っ...て...?」
俺は邪神のステータスバーをドラッグして編成しようとしたのだが、その瞬間、俺の目論見はいとも容易く崩れ去る事になる。
編成画面には──
『コスト オーバー 』
──と表示されていたのだ。つまり、
「コストある系ソシャゲの仕様かよっ...!」
思わず膝を付き、天を仰いだ。
拝啓、昨日の俺。
俺は現在、ソシャゲを始めたあの頃ぶりにコストオーバーに悩まされています。チュートリアルも無い不親切設計の癖に、一丁前にコストの概念があるみたいです。天罰が下ったのでしょう。邪神と一緒に居るし。
「でも無料分で最高レアの邪神引くとは思わないじゃん...!」
「訳のわからんことを言うのはやめろ」
「さっき説明したのに...あ」
立ち上がろうとしていた俺の頭に、電流走る。
「どうした?自らの愚かさを恥じて自害する気にもなったか?」
「いや、お前...戦えって言ったとき、『どうやら貴様の声にはある程度我に対する強制力が備わっているようだが..."戦え"という命令は、無視できるらしい』とか言ってたよな」
「...」
そう、目の前の邪神は。俺が命令した時に、ドヤ顔でそんな事を宣っていたのだ。
「お前、戦わなかったんじゃなくて戦えなかった──」
「これ以上我を愚弄するか、ニンゲン如きがァ...!」
「あっお前それは...」
鯖落ちしました。
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