神様のお墨付き

4月1日


小倉支部は問題があったからだろうか、全国最下位の支部だった

新しく赴任する先としては、これ以上下がらないと言う意味で気楽な支部だと思う

そもそも、僕は出世欲が殆どないので、なるようになれば良い

こう言いながら、一年後には全国一位の支部になるのがドラマの王道だろうが、現実はそうならない

ソコソコの位置には返り咲いきたいものだが・・・


無論、爺さんに願えば全国一位も叶うかもしれないが、そんな事よりも美沙との関係に役立つ事に願うべきだ


ちなみに美沙は、僕の赴任を聞いた時点で北九州支社に事務員として求職しており、横浜の元僕の上司からの推薦で4月から北九州支社での勤務が決まっていた

北九州支社と小倉支部は同じビルの3階と4階にあり、なにかと顔を合わせる事になる、以前のような距離感に限りなく近い雰囲気で、昔に戻ったように毎日が楽しい事この上ない


これは爺さんのサービスかと思い、昨夜呼び出して聞いてみたが、爺さん曰くこれは美沙の実力であり、特に何もしていないそうだ


遠距離恋愛を覚悟し、絶望しかなかったあの頃は何だったんだろう?

寧ろ、以前より自由に好きなだけ逢う事が出来ている

流石に毎日泊まってくれるわけではないが、支部まで徒歩10分の僕のマンションから出勤する事もあるので、美沙専用にタンスの引き出しが二つ占領されていた


楽しい

幸せだ

毎日が仕事と美沙で充実していた

しかし、ふと疑問が湧いてくる


美沙・・・大丈夫なのか?


そもそも美沙が小倉に越したのは、ご主人の単身赴任が解消したから

つまり、以前とは違い美沙はご主人と暮らしている

それなのに僕の所に泊まって、そのまま出勤とか許されるのか?


とにかく嬉しくて楽しくて、その疑問に目を背けていたのだが、やはり気になる

爺さんに相談しようかと思ったが、願いでどうにかすることでは決してないと思う

僕は様子をうかがう為に、家に帰る美沙を尾行する事にした


美沙は通勤にモノレールを使っている

小倉~徳力嵐山口は約15分

僕はいつもの通り駅まで送り、そのまま帰るフリをして美沙が見えなくなったと同時に別の階段からモノレールに乗り込み、慣れない尾行を試みた


予定通り、美沙は徳力嵐山口で降りたので、僕もこっそり隣の車両から後を追ったが、改札を抜けて角を曲がった所で、美沙に待ち伏せされ・・・


美 どういうつもり?

僕 いや・・・別に・・・

美 こんな駅で尾行したらバレバレだよ・・・


呆れる美沙

言い訳できない僕


美 でも、しょうがないか・・・

僕 ・・・

美 私の事でしょ?

僕 うん・・・


得意の意地悪な笑顔で僕を見つめ


美 そりゃあ可笑しいよね?

僕 うん、自由過ぎる

美 不満なの?

僕 全然・・・でも・・・

美 でも、なーに?

僕 心配なんだよ

美 旦那の事?

僕 うん

美 最寄り駅までストーカーとかして、もし見られたらアウトじゃない?

僕 そうだね・・・


急にいつものやさしい笑顔に変わる美沙


美 でも大丈夫♡

僕 なんで?

美 私ね・・・離婚したの♡

僕 え・・・いつ?

美 去年の年末♡

僕 聞いてない!

美 言ってないからね♡


状況整理を始める僕


美沙はご主人の単身赴任解消で小倉に帰ったはず

なのに離婚している・・・

つまり、単身赴任解消=離婚の事なので、横浜に住めなくなり実家に帰らざるを得なくなったのか?


僕 つまり、今は実家暮らし?

美 正解w 相変わらず飲み込み早いね♡

僕 娘さんは?

美 全寮制の看護学校に4月から行ってる

僕 そうなんだ


そんな事より聞く事があった


僕 何故、離婚した事言わなかったの?

美 それは言えないよ

僕 何故?

美 だって、私が離婚した事知ったら陵介どうする?

僕 それは・・・


僕も離婚して突っ走るのか?

いや、そんな簡単に決めれる事じゃないだろう・・・


美 でしょ?

僕 ?

美 陵介も離婚を一応考えるけど、簡単にそんな事する人じゃないじゃんw

僕 そうだな・・・

美 バーカ♡

僕 え?

美 こう言う時は、嘘でも陵介も離婚するとか言うもんでしょ?

僕 ・・・

美 でも陵介はそんな事言わないんだよねー

僕 そうなんだろうな・・・

美 勘違いしないでね、責めてるんじゃないのよ

僕 わかってる

美 そういう所、陵介のいい所だから♡

僕 ありがとう・・・


どうしよう・・・

考えが纏まらない・・・


美 これまで通りでいいよ♡

僕 うん

美 私の事大切にしてね

僕 それは約束する

美 約束wwwwww


僕は美沙の手を引いてモノレールの改札を通った

この日を境に、美沙は定期を買うのを止めた


これからも様々な問題が起こるだろうが、それでも僕は美沙と一緒にいたいと思う


そんな甘い毎日が流れていたが、ある日僕が一泊の出張から戻ると、部屋の様子がおかしい

美紗の物が忽然と消えていて、彼女の引き出しも空になっている

僕はすぐにラインを入れた


僕:どうした?何かあった?


小一時間経っても既読にならないどころか、日付が変わってもそのまま反応がない

これは只事ではない

ライン電話は当然繋がらないので、携帯に電話をしてみたが、留守電になるだけ


僕は躊躇せず、冷蔵庫からありったけの酒を出して爺さんを呼び出した


すぐにチャイムは鳴った


僕 時間がない、挨拶は抜きで聞きたい事がある

爺 それは3日ほどかかるが良いのか?

僕 まだ何も聞いてないけど?

爺 儂を誰だと思ってるんだ?

僕 すいませんでした

僕 と、言う事は無事なんだね?

爺 お前、小賢しいのお

僕 これ、もしかして願わなくてもそんなに変わらない感じだね

爺 その通りじゃ


無事が解れば安心できる

今、美紗に何が起きてるか分からないけど、もし3日経っても音沙汰なかったら爺さんに願おう


これから起こる事に不安は有るけど、美紗は無事でいてくれる

僕は安心したら眠くなったのて、爺さんに声をかけて寝る事にした


僕 今ある酒は好きに飲んで良いよ

僕 また、買って置くからもしもの時は頼りにしてる


爺さんは無言で頷いて、何本目かのビールを開けながら


爺 ま、お前達なら大丈夫じゃ


神様のお墨付きをもらった気がした僕は安心して深い眠りについた

目覚めた時にはきっと爺さんはいないだろう


美沙の無事を確認できるまでは、毎晩来てもらおう

そうだ、お酒を沢山買って置かなくちゃw


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