第二文 「気づき」
かつて先生はこうも言っていた。
「むしろ気づくべきではない。しかし、私はもう気づいてしまったのだ。確証があるわけではないが、近々私は命を絶つかもしれないだろう」
「何故ですか?!こんなすばらしい功績をお持ちなのに??」
まるで予測しなかった言葉に、思わず身を乗り出してしまった。
「いえ、だからこその・・・一般に理解し得ない悩みなどをお持ちなのかもしれませんが・・・」
慌てて付け加えるが、先生はそれを制して、首を横に振った。
「いや。私は私の意志で命を絶つわけではない。誰かが起爆装置を押すのだよ。気づいてしまった事を悟られたとしたら、の話だがね」
「・・・先ほどから気になっているのですが・・・その、誰に何を気づかれるというのでしょうか??先生を逆恨みするものですか?それとも、何か重大な秘密を握られてしまった組織・・・」
思案を廻らせて見るが、先生の個人情報を知り得ない一介の生徒である私は、余計な詮索をすぐに止めた。
「すみません、勝手な憶測を・・・」
「かまわんよ。どれも全く見当が外れておるからね。君には皆目見当がつかないだろう・・・いや、見当をつけないで、願わくば気づいても気づかないフリをして過ごしてほしいものだが」
「しかし、先生。気づくなといわれましても、お命に関わることではあるのでしょう?見過ごせるわけがありません!」
「これ以上の言葉は、君にヒントを与えて危険に晒しかねない。だから」
ふー、と一呼吸付くと、こう付け加えた。
「私がもし自ら命を断つことがあったとしても、遺書が残っていたとしても、摂理にのっとった必然ではあっても、理路整然と筋が通っていたとしても・・・・・・・そこに私の真意は、魂は存在しない、と心にとどめて置いてくれ。私が言えるのはここまでだ。この先は、なるべく考えないでいてほしいのだ」
当時はまるで意味不明な言葉であったが。
「今ようやく、その意図するところが分かりかけてきました、先生・・・・」
しかしそれは同時に。
私自身の起爆装置に、誰かが手を掛けつつある事実を思い知ることとなるのだ。
われわれを支配し、操るものが、確かに居る。
私は確信した。
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