愚の支配者
青谷因
第一文 「淘汰」
先生の言うことは、まるで意味がわからなかったが、衝撃的でもあった。
「何のために生きているのか、だって?そんなことで悩んでいるのは、一部の人間だけだよ。そしてそもそも、我々が生きている意味なんて無いのだよ。生きている意味を探していかないと、生きている気がしないなんてのは、ほんとうに、限られた一部の人間が抱く、永遠のテーマなのだよ。答えなんて無いさ。それでも君が悩みたいというのなら、たくさん悩むといい。それが青春なのかも知れないだろうから」
「若さゆえの、一過性のニヒリズムか何かだと、先生は仰るのですか?」
「そうかも知れないし、或いは、もっと根本的な、根源的なことなのかもしれない。そんなことは、君自身で考えていけばいいだろう?これからの君の人生を懸けて探求すれば良い事だ」
「それでは、答えになっていませんっ!」
興奮し、思わず声を荒げてしまう。
しかし、先生は、相変わらず表情一つ変えないまま、いや、むしろ取り乱す僕を見て可笑しそうに笑みさえ浮かべながら、静かに言うのだった。
「君が答えをほしがるのなら、私なりの考えを述べることにしよう。しかしながら、これは私の経験論に過ぎない。君は君の人生の中で、君だけの答えを見つけていくべきだろう」
「結構です。先生の意見をお伺いしたい。」
「ではー」
軽く咳払いすると、先生は僕にくるりと背を向けた。
そして。
「われわれは生かされている。自分の意思ではないものに。これはけして宗教概念でもなんでもない。実に単純明快に、科学的なことだ。われわれは、われわれではないわれわれ自身によって、生かされており、これはわれわれ自身の意思ではないのだ・・・ここまでは理解できるかね?」
僕は、背中越しに先生がニヤリと哂うのを確かに感じたのだった。
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