第18話 謝罪
翌朝、学校の屋上にて。
「悪いな。来てもらって」
「良いよ。周りに聞かれたくないことなんだろ?」
「まあな。単刀直入に言うと、校内で麻薬が見つかった」
「……マジ?」
「マジ。これ画像」
蒼は昨日、保健室で見た青い小瓶の画像を加賀美に見せる。
「見たことないな」
「それが良い。ちょっとこれについて調べてほしい。下手に入り込む必要はない。知ってる奴を見つけてくれればそれでいい」
「まあ、わかったけど。念押すね?」
「下手に嗅ぎ回るとガミに被害が行くだろ。ガミがこれに興味を持ってる俺を紹介する形で探してほしい。尻尾さえ掴めばあとは俺がやる」
「……りょーかい。とりあえず今日の放課後までにいくらか情報は得ておくよ」
「助かる。ああ──それと、俺の名前は伏せるか、偽名で通してくれ」
「有名だもんな、蒼」
「まあな。教室に戻るか」
「おう」
持ち物検査で見つかった連中は売り手ではない。愚か者がいれば別だが、それは考えないでおく。
売り手は所持していない側の生徒だ。取引をする時だけ所持していれば良いし、やりようによっては顔も見せずに取引できる。わざわざ学校に持ってくる必要はない。
それを言い出すと買い手も持ってくる必要はないが──心理としてはタバコ感覚か。
「(詳しい効果に関しては芝居から連絡が来るとして、結構な人数が持ち込んでいたってことは、服用しても効果は薄めと考えていいだろう)」
タイミング的に、買い手が付かなくなって焦ってる売り手がいる可能性がある。そこが狙い目だ。
「っと、すまん。先に戻っててくれ」
「トイレか?」
「いや愛羅に少し用がある」
「クローバーで伝えれば良いのに」
クローバー。正式名称はクロストークなんとかかんとか。友人とチャットルームを作ったり、タイムライン形式で自由に発信して会話できるSNS。先程の小瓶の画像も加賀美との個人ルームで送信済みだ。
「アイツをまだ登録してなかったな、そういや」
「仮にも恋人でしょ君たち……」
「なんなら今週一言も話してない」
「雑すぎる」
蒼は加賀美と一旦別れ、愛羅の教室に向かった。朝のHRまであまり時間がないので少しだけ急ぐ。
愛羅の教室の扉を開け、見渡す。いくつかの視線が突き刺さる感覚があった。
愛羅の姿はすぐに見つかった。当然、金髪というのは目を惹く。なお、校則上は頭髪は自由である。金髪に染める生徒は少なく、ほとんどが茶髪か、色を部分的に入れる程度だ。
愛羅に近寄ると、愛羅の周りにいた──毛利と林田からの視線が一層キツくなる。
「愛羅」
「っ……蒼、おはよう」
「おはよ。昼休み、ちょっと付き合え」
「何よ急に」
「よろしくー」
「ちょ、ちょっと! それだけ!?」
「昼また迎えに来る」
「──、ああ、もう!」
蒼は伝えることだけ伝えて、教室を去る。
もうチャイムが鳴る寸前だ。愛羅は追いかけようとして、やめた。
「何よ、アイツ……」
昼休み、蒼に連れられるように愛羅は屋上にやってきた。屋上の扉を開けると、そこには3人の男子生徒がいた。また記憶に新しい顔ぶれだ。
一人は顔にガーゼを、小指に包帯を巻き、一人は左腕を支えるように三角巾を巻き、もう一人は胴体に何かをつけているのか、制服が不格好だった。
用件は先程、蒼の口から伝えられた。謝罪したい、のだという。
「正座で待ってるとは感心だな」
「えっ華桐先輩が言ったんじゃないスか……」
「こ、こら黙っとけ……」
「さっさと土下座でもしろ」
「土下座は別にしなくてもいいけど……」
蒼は屋上の扉にはもたれかかって、誰も入らないようにしている。
「あの、巻き込んですんませんした!」
「「すいませんでした」」
「う、うん……ねえ、私どうすればいいの?」
「知らん。そいつらの自己満だろ」
「「「ウッ……」」」
「蒼ならどうするの?」
「許すわけねえだろ。一生恨み続けていつかお前の幸福を壊してやるって脅す」
「エグいこというわね」
「どいつもこいつも自分のしでかしたことに甘いんだよ。いつ自分が報復されてもおかしくないって思わせないと反省にならないだろ」
そう言い放つと、蒼は太一を睨み付ける。
これは弱者向けの話だ。報復こそが弱者の牙である。許さないことで相手を呪うのだ。いつかの未来で、愛と希望を砕くために。
蒼自身はその場で歯向かって来ないようにしばき倒す手段を取っている。
「え、と。私は、もういいかなと思う。蒼に思いっきりやられてるし……」
「あ? 全然。たかが1発蹴っただけだろ」
1発の蹴りで骨が折れるのだから、それで十分だと愛羅は思う。
「もう2度と誰かに刃物を向けないって約束してくれるなら、それでいい」
「約束します……」
「俺も、約束します……」
太一ともう一人がそれぞれ折られたところをさすりながら言った。十分にトラウマものだろう。
「うん、じゃあこれで終わり! 土下座なんてしなくていいから」
愛羅は3人に微笑みかける。彼女も太一たちの気持ちがなんとなくわかるのだ。もし自分もナイフを持っていて、蒼を目の前にすれば同じように使おうとするだろう。だから許すのだ。
蒼に言わせれば、ナイフを持ち歩くこと自体を咎めるべきだとなる。
「「あ、姉御ぉ!」」
「え、なにこの流れ」
「舎弟が増えるな」
「いらないんだけど!? 蒼の舎弟にしなさいよ。そっちの方が似合うでしょ!」
「俺もいらねえよ」
3人は痺れかけた足をさすりながら戻っていった。
久しぶりの2人だけの時間で、一緒にお昼ご飯を食べることになったが、蒼はずっと浮かない顔をしていた。
そのことが愛羅は気になって仕方がなかった。
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