第14話 敏感・快感・いやんあはん!

「それで、他の生徒と違って悪いのだけれど脱いで欲しいの」


「(華桐君、脱ぐの!!!???)」


「まあ、良いっすけど」


「(良いの!!??)」


 蒼はひとまず制服を脱いでカッターシャツ姿になった。ズボンは流石に脱いでいない。

 蒼が脱ぐ様を先生と雛莉は凝視する。ロー◯ーなんか隠してる場合じゃねえ!


「とりあえず、これ」

「……ああ、うん、ポケット、大丈夫よ」

「これも脱ぎます?」

「っええそうね、芝居先生からお願いされてるので、それも脱いでください」


 実際のところ、芝居からはキツめにやっちゃってくださいと言われただけで、脱がして良いとは一言も言っていない。礼ちゃん先生は自らの欲望に屈し、芝居の言葉をねじ曲げて解釈している。


 蒼はカッターシャツを脱ぐ。黒色の、肌にぴっちりと張り付くタイプのインナーを着ていた。蒼の鍛え抜かれた筋肉がインナーのすぐ下にあるのがわかる。雛莉からは背中しか見えないが、広背筋、僧帽筋からなる逆三角形の肉体美が堪能できる。

 蒼本人としては、ぱっと見わからない筋肉だが脊柱起立筋を見てほしいと思っている。


「(インナーに筋肉がはっきり浮き出てる……これはもうポルノなのでは?)」


 先生はインナーの上から蒼の身体に触れる。普段から──なんなら裸で──触られ慣れてるので蒼は気にならないようだ。

 先生は思わず生唾を飲み込んだ。悪い噂が絶えない生徒だが、自分の好みにドストライク。若い身体はええのうええのう。

 この肋骨あたりの腹斜筋、シックスパックの腹筋を撫で撫でしている。


「先生?」

「ハッ……ごめんなさい、つい。それじゃあ手をあげて後ろ向いてもらっていいかしら」


 蒼は言われた通りにした。芝居の名前が出ている以上、蒼はある程度言われたことは聞かざるを得ないのだ。

 また、蒼自身、自分の肉体美に関してナルシストなところがある。だから過度なタッチも許せる。あと単純に慣れがある。


「(脇エッロ……あ、ぽっち透けてる……)」


 雛莉はさっきまで考えていたことそっちのけで蒼の身体を見ている。


「(礼ちゃん先生羨ましいな華桐君の身体触れて……華桐君、触られてるけど特に反応してない……それはそれでなんかエッチだね。こういうの何ていうんだっけ。マグロ? 違うか。無感症?)」


 雛莉の脳が思考力を取り戻し始め、そして現実に帰ってくる。

 その手に握っているピンク色の振動する何かを思い出す。


「(やっっっっっっっっっば! 見惚れすぎた! いやこれは華桐君が無自覚ドスケベボディなのが悪いのであっていやいやいやそんなこと言ってる場合じゃない!)」


 鞄の中はダメ、机の中もダメ、制服もチェックされる。

 なら、残された道は一つしかない。

 雛莉はそれをスカートの中に潜り込ませ、そして。


「……ふぅぅぅぅ……ありがとう華桐君。これでもう大丈夫よ」

「全然良いっすよ」

「それでは次は柚原さんね」

「はーい。鞄からですよね」


 雛莉は鞄の中身をぶちまける。教科書、漫画、制汗剤、他。あと忘れちゃいけないロー○ーのスイッチ側。

 一気にぶちまけるものだからスイッチはどこかに転がっていった。他にも机の上から落ちたものがあり、先生も気づかなかった。


「何やってるのもう……」

「あはは、ごめんなさい」


 落ちたものを拾って問題なしと判断。机の中も同様。身嗜みのチェックに移る。


「私もサービスした方がいいですか?」

「……! さっきのはそう言うのじゃありません」


 雛莉はスカートの裾を軽く持ち上げている。先生は一瞬凝視したが、すぐに元の態度に戻った。

 そのスカートの先には不明な膨らみがある下着がある。あえて挑発するようなことをした。


「はい、大丈夫です。ふぅ……」

「はーい、ありがとうございましたー」


 雛莉は自分の席に戻る。

 ──切り抜けた。なんとか、切り抜けた……! 雛莉一世一代の大マジック! 秘技ひぎぃ! 消えるロー○ー!


「(ウッヒョー! やったー! もうこれで安心だぜー!)」


 表情には出さないものの、社会的地位の喪失を避けることに成功した雛莉。

 だが、そうやって油断した時こそ本当の恐怖が牙を剥く。


「(やったーやったーやっ……あれ?)」


 ここで気づく。テンパった結果鞄をぶちまけた時になくなっていたものに。


「(……スイッチ、どこ?)」












 ロッカーの検査も終わり、持ち物検査は完了した。蒼たちのクラスで違反者は出なかった。一限は若干早めに終了し、残りは自習時間となった。


「なんだこれ」


 蒼は足に当たった何かを拾い上げる。


「どしたん?」

「スイッチ?」

「Swi◯ch?」

「いや、それの数%くらいの値段ぽさだ」

「OFF弱強の3段階スイッチがあるな。押す?」

「いやそんなスイッチ簡単に押すなんて堪え性なさすぎだろお前ポチッとな」

「ひゃ……」

「「?」」


 スイッチのOFFを弱にすると、どこからか声が聞こえたが、周りを見てもそれらしい声を上げてそうな生徒はいなかった。強いていうなら蒼の後ろの雛莉が机に突っ伏していたくらいか。蒼は名前がわからなかったので話しかけなかった。


「押しても何にもならんね」

「しばらく時間がかかるタイプかもしれない」

「じゃあ次は強にしてみるか。やっぱ強い方が良い」

「強い方が強いもんな」

「そうそう」


 カチリ。

 弱に入っていたのを強に入れる。


「ヒュッ」

「「??」」


 またよくわからない声が聞こえた。が、やはり発生源がよくわからなかった。


「何もだな」

「まだその時が来ていないってやつだな」

「待ちのスタンスは趣味じゃない」

「まあでもスイッチカチカチするのってなんか楽しくない?」

「わからんでもない」


 蒼は手でスイッチを弄ぶ。気の向くままに。


「飽きた」

「はっや」


 スイッチを机の中に放り投げた。スイッチは弱のままだった。


「二限なんだっけ」

「数学」

「あー……まああとでいっか。寝よ」

「寝るんかい」















「(これは……実質セッ!)」


 うつ伏せている雛莉は、伝わる振動からその事実を読み取った(※要出典)。どこかにいった送信部は蒼が拾い、そして弄んでいた。これはもうそういうことでしょ。


 雛莉は興奮を抑えられない。もう持ち物検査は終わったのだから、それは外せばよかった。

 どこかに行ったスイッチが気がかりだったのに外さなかった。

 興味のない誰かに拾われて弄ばれるのは屈辱であろうが、外さなかった。

 耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、全てが好転した。


「(まさにラッキースケベターイム!)」


 顔を伏せながら、耳を鋭敏に2人の男子の会話を聞き漏らさないようにする。


「(私、今華桐君あそばれてる……)」


 改めてその事実を確認すると、お腹の奥が熱くなった。

 急に振動が強くなったり、弱くなったり、なくなったり、蒼本人は何も知らないけれど、雛莉を弄んでいるのだ。


 雛莉は蒼に向ける感情としては今のところ劣情しかない。恋だの愛だの、そういうものを男子相手には感じたことがないのである。劣情でさえも蒼が初めてだ。



 いつからだろうか、彼を追っていたのは。

 1年生の秋頃だったはずだ。

 蒼は先輩に呼び出されて袋叩きに遭いそうになっていた。まあ結果は蒼が一方的に叩きのめしたのだけれど。


 それを偶然目にした雛莉は暴力に震え、怯え、そして身体の底から悦んだ。

 それからだ。


 自分も蹂躙されたいと思った。


 嬲られ、虐げられたいと思った。


 強者に媚び諂い、浅ましく縋りたいと思った。


 それからスイッチが入ったように一人遊びが増えた。何度果てても満たされることはなかった。


 だからこそ、今は雛莉にとってこれまでで最高の状態なのである。

 間接的とはいえ、雛莉は蒼にいじられているのだから。


「(あっ……)」


 蒼が飽きたと言った時、心が苦しくなった。でもちょっとイッた。

 心が濁っていく。放置プレイはそれはそれで良いのだが、今だけは違う。


 蒼の手で、壊して欲しい。

 私の一番奥を、あなたに壊して欲しい。


 急に振動する器具に何も感じなくなった。ただ振動が伝わるだけで、何も、何も、感じない。

 顔を上げて、蒼の背中を見る。肩が一定間隔で上下に揺れている。もう寝ているようだ。


「(ああ……)」


 ただ、虚しくローターが振動する──。

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