チンピラが気に入らない奴をボコボコにする話。

第4話 凶刃を折る

　取り巻きBだ。そいつが先ほどの、愛羅・ブリリアント・常安を捕まえている。

　──刃物を持って。

「こ、こいつがどうなってもいいのかよ華桐！」

「────、」

　刃渡りは10cmにも満たない折畳式のナイフだ。それを愛羅の首元にちらつかせている。

　愛羅は今にも泣きそうになっている。今日は厄日だ。

「おい」

「け、健ちゃん殴るの今すぐやめろ！ こいつが、どどうなってもいいのか！！

「知らねえわどうでもいいわ。お前何してんだよ。何手に持ってんだよ。つまんねえ真似してんじゃねえよ」

　底冷えする声だった。蒼は取り巻きBに向かって歩き出す。

「ちか、近づくんじゃねえ！ 聞いてんのか！」

「俺の質問に答えろよ」

「たっいち、やめ……ろ……」

　取り巻きB、もとい太一は、蒼にナイフを向けた。へっぴりごしになりながら、ガチガチと歯を鳴らし、眼前の脅威に立ち向かっていた。

　それが最悪だった。

「お前が手に持ってるもんの意味わかってんのか」

「来るな、来るなぁ！」

「それで何するつもりなんだよ。言えよ」

　太一はナイフを振り回す。もうほとんど自暴自棄で、蒼の声も、健二郎の声も聞こえてはいない。

　その振り回すナイフが、愛羅に当たって──。

「──、おい」

　血が、滴る。つぅーと掌を裂くように、しかし浅かった。

　愛羅に当たらんとした凶刃は、蒼によって妨げられた。

　蒼は太一のナイフを持つ右の手首を掴み握り潰そうとする。痛みに耐えかねて太一は手に持っていたナイフを落とす。

　蒼は太一の胸ぐらを掴んで持ち上げた。

「遊びでこんなもん使おうってか。それともテメエはこんなちゃっちいもん持って強くなったとでも思ってんのか。喧嘩でテメエはこんなもん使おうってのか。おい、聞いてんのか！」

「ごめ、ぐひゅ、あの、ごめんなざ、い」

「最ッ低にイライラするぜ。折角気持ち良く殴ってたってのによ……あーあー、マジにクソだ」

　そう言い捨てると太一を乱暴に離して、ナイフを拾い上げた。ナイフをポケットに入れてから、振り返り、取り巻きAの方を見る。

　直後、太一の方を向き直ったかと思うと、その場で崩れている太一を蹴り飛ばした。

「いぃぃっっ！？ いだ、いだいよぉ……！」

　蒼は今度こそ取り巻きAの方に歩き出す。Aは太一が投げられたときの衝撃で伸びていたようだ。Aのポケットを漁ると同じタイプのナイフが見つかった。

　未だ気を失ったままのAの横っ腹を蹴りつけ、健二郎の元に行った。

　Aのナイフも同じくポケットに入れておいた。

「お前は持ってんのか」

「おれに、は……ひつような、い」

「ああ。だろうよ。そうじゃなかったらもう何十発か殴ってたわ」

「はな、き、りせんぱ、い……おれ、あ、の……」

「お前、こいつらをしっかりと教育しろ。わかったな」

「は、い……せんぱ、い……」

「よし。今度様子見にいくからな」

　そう言うと蒼は健二郎の左手を掴む。異様な位置にある小指を、無理やりに元の位置に戻す。慣れた手つきだった。

「ッいだッッ」

「ちゃんと病院行っとけよ」

「……ウス……」

「さて」

　残っているのは、残りは愛羅だけだ。先ほどまで近くにいたが、蒼は先にやることを済ませた。