映画「万引き家族」
それは万引きをするように、行われるのです。誰か私のことを見ていないか確認をして、先生が目を離す隙をついて、なるべく音を立てぬように、行われるのです。私の斜め前の席にいる男の子。出席番号は9番で、私の左前。私は、彼の、男の子では珍しいサラサラした髪の毛や首筋や引き締まった腕ではなく、手の甲に、夢中になっているのです。
彼のペンを持つ右手。手の甲に浮かぶ血管。消しゴムを使うたびに、親指の付け根がぷっくりと浮かび上がって盛り上がるお肉。
正確には、人間の手、自体の二面性に虜になっていると言えるでしょう。
拳を握り締めて突き出せば、冷たい印象を受けますが、握手をするように、手の平を見たならば、優しい印象だと思うのです。どちらが良いという話ではありません。ただ、両方から見て初めて、形が分かるのです。
欲を言えば、彼の手の内側に潜り込みたい。シワの一本一本まで記憶して、白紙のノートに書き込めるようになりたい、とまで思うのです。そして、そんなことを思っているなどと知られては、彼は引いてしまうでしょう。だからこそ私は、犯罪でも犯すように、斜め隣の手の甲を、見つめることしか出来ないのです。
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