小説「雨の日でも、晴れ男」
雨の日こそが、僕が本領を発揮するときだ。とは言っても、僕に天候を左右するような超常的な力はない。ただ、雨の日になるとTwitterで雨と呟いている人を探して、晴れの写真を送りつけるだけだ。勝負どきは朝6時から8時の間。このときの為に夜は早く寝ている。仕事、学校、大事な約束。雨が降ると、それだけ憂鬱になってしまう。それを少しでも和らげたいという想いから、僕はこの活動を始めた。大抵は、無視。良くて、いいねが付く。でも、たまにコメントが返ってくる。頑張ろうと思います、とか、やる気が出た気がします、とか、気休めにしかなってないことは明らかだけど、役に立ってるという実感が嬉しくて、続けている。僕が中でも気に入っている写真がある。舞台はストックホルム。北欧にあるスウェーデンの首都で、水の上に浮いているような都市景観を持ち、水の都と呼ばれている。でも、写真に水は出てこない。それは、大通りへと向かう一本の路地で、車一台通れるような道路と、その両側に沿って、歩行者用の通路がある。ストックホルムの建物はほとんどが4階建の建物なので、道路はおろか、建物までも、ほとんどが影で覆われている。道路の中心で女性がこちらに向かって歩いていて、その女性にだけ日が当たっているという、なんとも芸術的な構図だ。足元には光のドアが現れて、女性の影を従えている。道路の突き当たりには建物があって、収束して、縮んでいくように小さい。そこだけは、太陽に照らされて白く光っており、透き通る白い雲を帽子のように被っている。ストックホルムの建物はカラフルだ。突き当たりの白い建物を起点として、そこから濃度を増すようにベーシュへと移り変わり、茶色、そして焦げ茶色と流れてくる。晴れ渡る空もそれに感化されるように、段々と力強いブルーへと変わっていく。辿り着くのは、雲一つない青空だ。歩行者の流れが、向かうべき方向を示唆している。この感情の推移を、みなさんにも届けたいのだ。雨の日でも、晴れ男。そういう存在が、あってもいいじゃないか。
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