映画「レオン 完全版」

そうだ、と思い立って僕はソファから飛び上がった。部屋の隅に置かれている、僕の身長ほどの大きさの観葉植物を見て思い立つ。日光が当たる朝方には、輝いて見えるのに、今はもう日陰になっていて、また明日が来るのを、じっと待っているように見える。必要なのは、霧吹きと布だ。台所に行って、探して見たけど、どこにも見当たらなかったので、霧吹きの代わりにコップに水を、布の代わりにティッシュを持って、観葉植物の前に座ってみる。大きい。やっぱり持てるくらいの、小さい観葉植物がいいな、と僕は思った。というのも、映画に出てくるのが、その大きさのものだからだ。でも仕方ない。丸いサングラスもお店に置いてあるのを試着してみただけだし、リングトリックと言って友達に渡したのも、キーホルダーについている、丸い根元の輪っかの部分だけだ。映画に出てくる観葉植物はアグラオネマという種類のもので、ネットで調べればすぐに出てくる。目の前にあるのはお母さんが幸福の木だと言っていたから、単なる大きさの違いでは無いということにガッカリしたというのが、今日の今日までやらなかった理由だ。僕の手よりも大きい葉を手の上に乗せて、水を上から垂らしてみる。コップの水を飲むことには手慣れているけど、溢すことにはあまり慣れていなかったので、勢い余って床まで水浸しになってしまった。慌ててティッシュを何枚も取り出して床を拭く。びしょ濡れになったティッシュを見て、僕は作戦を変更することにした。先にティッシュに水を浸してから観葉植物を拭くことにしたのだ。ティッシュの先端だけを水に浸けて折りたたむと、いい感じの湿り具合になる。そして、愛でるように葉を拭きながら、「ベストフレンド」と呟くのだ。「無口なとこが、僕そっくりだ」ということを口に出して言ってみる。その瞬間、後ろから声がする。

「あら、お掃除?ありがとね」

今のを聞かれてしまったのかと思うと急に恥ずかしくなって、うまく発音できなくなって、自分でもなんて言ったか分からなかったけど、違うよ、と答えたつもりだった。お母さんは一瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐに買い物袋を持って冷蔵庫へ向かっていった。

危ない。バレてはいけないのだ。ーー僕が掃除人だということは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る