小説「銀河鉄道の夜」

あとがき


本作に登場する主人公の友達のジュンにはモデルとなった人がいます。私が小学生の時のお友達のじゅんちゃんという男の子です。彼は12歳という若さで亡くなりました。

いつも本を読んでいるような優等生で、中でもお気に入りなのが「銀河鉄道の夜」でした。彼は最後の時まで、繰り返し繰り返し読んでいました。私は恥ずかしくも大人になってから拝読させて頂きましたが、カムパネルラとじゅんちゃんが重なって見えて、読み終えるのに一月も掛かってしまいました。読み終えた私は、身を灼かれるような思いをします。私とじゅんちゃんが最後に会った時、無機質な病室の中で「僕は銀河鉄道に乗れるかなあ」と彼が言いました。私は無知ゆえに「乗れるよ」と言ってしまったのです。しかし、そのとき私は「一緒に行こう」と言うべきだったのかもしれません。彼は静かに微笑むだけでした。その時の後悔が今でも私の中にあります。でも、彼と一緒に銀河鉄道に乗るのは私ではない、とも思いました。銀河鉄道の夜に登場するジョバンニのように、もっとふさわしい人が、彼にはいるはずです。本書は、そんな懺悔の気持ちから書き始めました。私のつたない文章ではダメだと何度も挫折し、心が折れそうになりました。じゅんちゃんの優しさを筆に込めるのに苦悩し、何度も何度も書き直しました。ジュンと主人公を通して冒険を重ねていくうちに、何度も何度も何度も涙しました。でも、夜がくる度に天の川を下ったところにいるサソリが、まっ赤なうつくしい火になって燃えてよるのやみを照らしているのを思い出して、彼が励ましてくれている気がするのです。

私に小説を書く才能があると一番最初に褒めてくれたが彼でした。この時の話は少し形を変えて本書にも登場しています。彼がいなければ私は小説家にはなっていないかもしれません。いつか私が、この素晴らしい旅を終えて、本当に銀河鉄道に乗れる時が来たなら、私の切符はこの一冊だったと、じゅんちゃんに笑って報告できる日が来ることを心から祈っています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る