映画「ペンギン・ハイウェイ」

それはピクニックにきた小学生をいっぺんに覆えるだけの大木では無かったが、僕ら二人を包み込むには十分な大きさの木だった。その木の下で仰向けに寝転がりながら、僕らは足元に広がる水々しい青空を眺めていた。丘のように広がる草原に風が吹く度に、世界の中心に小石を落としたかのように広がっていく。

「世界の果てはさ、袋をひっくり返したら内側に入ってるって話知ってる?」

彼が僕に語りかけた。

「知ってるよ」この間映画で見た、とは言えないでいた。

「こうしてみるとさ、世界を抱きしめてる気がしねえ?」

大の字で寝転がりながら彼は言った。

「確かに、地球を背にしたら目の前のもの全てを抱きしめていると言えるかもしれないね。でも地球は公転しているんだ。公転にしたがって、世界も動いていく。すり抜けていくものは抱きしめているとは言えないんじゃないかな?」

我ながら、興ざめすることを言っているなあと思った。

「じゃあ、これならどうだ」

彼はうつ伏せになった。背中には短くなった雑草や土が付いていた。

「それじゃあ、ただの滑稽な人間だよ。世界の抱きしめるのはやめたのかい?それなら地球を抱きしめているとは言えるかもしれないけれど、僕には地球にしがみついているようにしか見えないよ。仮に君が地球を持ち上げたら、僕らは宇宙まで吹き飛んでしまうわけだからね」

「宇宙かあ……」

僕のベラベラと喋る言葉の羅列を、彼は単語だけで受け止めた。自分に近いボールだけをキャッチして投げ返してくれる気楽さが、僕には心地よかった。

「でも、世界の果てが内側に入ってるかもって話はわかるな」

彼は起き上がると、木の根元に腰を降ろし、立膝を付きながら言った。

「好きな人のおっぱいに顔を埋めて目を閉じるとさ、感じるんだよ。あれが世界の果てなんじゃねえかなあ」

「それは君だけなんじゃないのかい?もし、そうなら今頃教科書に載っていると思うな」

「いずれ乗るさ。知ったかぶりは良くないぜ」

思わず目を逸らした。蜜を求めて飛び回るチョウチョが、一休みと言わんばかりに僕の肩に止まった。虫には好かれるんだけどなあ。巣を離れ、服の上を大冒険しているアリンコを、僕は優しい目で見つめた。

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