映画「ラッキー」
「急げ! 早くしろ! 時間は有限なんだぞ!」
トーマスはバイオリンの弓を指差しのように使いながら言った。轟々とした台風を追いかけていくように革靴の足音が響く。
「まったく、今日は次から次へと現れやがる。休む暇もありゃしねえ」
ミゲルは乱れた襟を直すと、前方のふたりに追いつくようにスピードを上げた。
「もうすぐだ。今のうちにチューニングをしておけ!」
トーマスの怒号が響く。
「オーケーボス。ミゲル、Gのコードを弾け」
ベンとミゲルのクラシックギターの和音が共鳴する。
「バッチリだ。先ほどの演奏からズレてないな」
「次はどんな人だろうな。さっきの青年は、なかなかイカしてたが。あれだけの事件が起きた後だ、感化される人々は多いだろうよ」
「無駄口を叩くな、ミゲル。それは全てが終わった後、酒と共にあるべきだ」
「いいことを言うじゃないか、ベン。我々の使命は一人でも多くの叫びに寄り添うことだ。溶け込ませ、響かせることだ。決して周囲から浮かせてはならん」
三人は目を合わせ、頷いた。
「近いぞ!あの角を曲がったところだ!声は聞こえるな!?」
「オーケーボス。今回は歌だな。なかなか乙な選曲をしやがる」
「俺の愛している曲だ。今回は俺からいかせてもらうぜ」
「わかった、では準備はいいな! いくぞ!」
三人は円陣を組んで右手を丸め込み、親指を合わせて合図する。
『「ウンガッツ」』
彼らはどこからともなく現れる。それが心からの叫びである場合。数秒後には音楽が流れ始める。包み込むように、応援するように。その瞬間、誰もがこの街に来れたことを喜んだ。それゆえこの街はこう呼ばれる。「ラッキータウン」と。
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