現実依存症

キンジョウ

VR空間と現実依存症

「では今日のカウンセリングをはじめましょう」

「すみません、カウンセリングは"現実"で行えないのですか?私は"現実"を生きたいのです。」

「あなたの症状の段階では、まだVR空間での施術が可能な段階にあります。VR空間での生活ができるよう、なるべく長くVR空間に滞在することが大事なのですよ」

「わたしは自分の生の体を感じていたいと思ってしまいます。自分の体ではない別のなにかにリンクしたり、アバターを相手に話をすることに苦痛を感じてしまいます。」

「そうですね。それは"現実依存症"の顕著な症状です。さぞお辛いでしょう。今日のセッションは人型ロボットへのリンク訓練になります。つらくなったらいつでもやめて大丈夫ですので、まずはチャレンジしてみましょう」

 

VR技術とロボット技術の進歩によって、生活のほとんどがVR空間で行うようになった。

 小学校を卒業すると、成人とみなされVRヘッドセットが国から支給される。4月からのVR空間に存在する"中学校"へと登校することになる。そこから人生のほとんどの時間をVR空間内で過ごす。小学生までVR空間を利用しないのは、12歳まではVRヘッドセットの使用が斜視を引き起こす可能性があるからだ。

 社会人になると仕事に就くのだが、現実での作業はヘッドセットを通して神経とリンクしたロボットで作業をする。リンクするロボットは人型だけではない。例えば工事現場ではボーリングマシン、ショベルカーなどさまざまな形のロボットとリンクする必要があり、各機械ごとにリンクする感覚が違う。そのため、業態ごとに対応している形のロボットへのリンク先の専門性をもった分業が進んでいった。人型をそのまま利用できる接客業や、PC の入力装置への適応だけで済むIT業界では、その適応しやすさから、業界への進出者は増加傾向にあった。

 そんな中、長時間のVR空間の生活において、現実での生活に回帰しようとする"現実依存症"を患う人が一定の数現れた。VR空間が生活の基盤となった現代に"現実"でおこなう仕事はない。生活インフラすら用意されていない"現実"では彼らは社会不適合者とみなされ、治療の対象となっていった。

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現実依存症 キンジョウ @yutakakinjyo

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