第3話
「紗彩ちゃん、今日はごちそうさま。」
雪月花を後にした美幸と紗彩は連れだって鴻池駅に向かって歩いていた。
「美幸先輩が元気になってくれて紗彩嬉しいです。でも今日の涼子さん、ちょっと変でした。」
「そうね。帰って来てからも、紗彩ちゃんと距離取ってたみたいだし・・・」
「紗彩、何か嫌われるような事したんでしょうか?」
紗彩は、しゅんとして視線を落とした。
「それは考え過ぎよ。紗彩ちゃんいつも通りだったじゃない。」
優しく頭をぽんぽんと叩いて美幸は紗彩を覗き込んだ。
「きっと疲れてるのよ。二・三日もすれば元どおりになるわよ、きっと。」
「うん。そうですね。こう言うの『日にち薬(ぐすり)』って言うんですよね。」
ぱぁっと明るい表情に戻って紗彩は美幸を見上げた。
「以外と難しい言葉知ってるのね。」
「それと、美幸先輩。皆本さんとすごく楽しそうにおしゃべりしてましたね。」
「え、そ、そう? そう見えた?」
「はい。紗彩、紹介した甲斐がありました。美幸先輩は以前から知ってたんですか?」
無邪気な目で見上げる紗彩に、美幸はちょっと視線を泳がせた。
「うん。まぁ、隣のクラスで体育の授業で合同したりするから。それに結構目立っているし。」
「うん、キレイな顔してますもんね。あ、でもさっきキレイとか言われるのってコンプレックスだって言ってましたよね。よく女の子に間違われるって。」
「でも、彼、空手黒帯なのよ。中学の時ジュニアの部で地区大会準優勝してるんだから。」
「へぇ、そうなんですか。良く知ってますね。」
美幸は、あっと言う顔をして口を手で覆った。
「ふ~ん。」
紗彩は上目使いに美幸を眺めた。
「・・・」
「美幸先輩。」
「え?」
「仲良くなれると良いですね。」
「!」
美幸は紗彩に向けて目を見開いた。
「だって美幸先輩、折角キレイなのに全然浮いたウワサ聞かないんだもん。紗彩、先輩から恋バナの一つでも聞いてみたかったんだもん。」
「さ、紗彩ちゃん?」
「紗彩、全力で応援しちゃいますね。あ、そうだ、何ならこのまま引き返して皆本さん呼び出して話し付けちゃいましょうか。」
そう言って紗彩はくるりときびすを返した。
「待って! 紗彩ちゃん。」
今にも走り出しそうな紗彩の襟首をむんずと掴んで美幸は紗彩を引きとめた。
「ぐえ・・・こほっ・・・せ、先輩。以外と乱暴なんですね。」
「い、いきなりなんて皆本くん、困るじゃない。それに私の事、あんまり知らないみたいだったし・・・私、あんまり存在感が無いのかな・・・」
「そんなこと無いですよ! 皆本さんが単にニブいだけですって。やっぱり紗彩、言ってきます。ぐえっ。」
再び走り出す紗彩の襟首を掴んで引きとめた美幸は、顔を赤くして紗彩の顔を覗き込んだ。
「お、お願いだから暴走しないで! 私が納得出来る様な感じで進めたいから、ね、ね。」
美幸の迫力に負けて紗彩は何度も首を縦に振った。
「それに・・・皆本くん、カノジョ居るかも知れないし。」
「ええ? そうなんですか!」
すっとんきょうな紗彩の声に通行人が振り向いた。
「いつも同じクラスの吉田さんと仲良さそうにおしゃべりしてるもの。」
「ふたりっきりで?」
「大抵は杉浦くんとか須藤さんとかと一緒だけど・・・」
「それじゃ単にクラスメイトじゃないですか。紗彩も男の子の友達はいっぱいいますよ。」
「それに六組の前で小柄な女の子二人組とも、ちょくちょく楽しそうに話し込んでたりするの見るし。」
「でもカノジョな雰囲気じゃないんでしょ? ってか美幸先輩、皆本さん見過ぎじゃないです?」
「あ・・・」
美幸は口に手を当ててうつむき、紗彩は嬉しそうなニヤニヤ笑いを浮かべて美幸を見上げた。
「そもそもなんですけど。」
「うん?」
「美幸先輩、どこで皆本さんにドキュ~ンと来たんですか?」
「う・・・」
「今更ナイショは嫌ですよ?」
紗彩はいたずらっぽく美幸を見上げた。
「え・・・と。学用品の受け取りの日に体育館でクラスの名簿が貼られてたの。」
「ふんふん。」
「何メモとってんの?」
「気にしないでください。続けて。」
「もう・・・」
体育館の中には制服を収めた「一着箱」と教科書類の入った紙袋を下げた新入生達で混雑していた。
壁にはクラスの名簿が貼り出されていて、新入生達は新学期の自分のクラスと級友の確認をして歓声を上げていた。
「わ、やっぱり混んでるわね。どうする椎名?」
「ここで待っててもどうにもなりそうにないから、ちゃちゃっと行って確認しましょう。」
美幸は椎名に促されて人混みの中に突入して行った。
「あ、私一組。」
早速自分の名前を見つけた美幸は隣の椎名に微笑んだ。
そのつもりだったが、笑顔を向けた目の前に、色白でエキゾチックな顔つきの男の子の顔があった。
珍しい紅い色の瞳をしたこの男の子は少しびっくりした表情をしたが、優しくにっこりと笑顔を返した。
「あ、ごめんなさい。人違いしちゃった。」
美幸は目を見開いて口元を覆った。
「あはは、混んでるからね。僕は二組。お隣だね。何かの時はよろしく。」
「あ・・・はい。」
(何か、あの笑顔、見惚れちゃったのよね・・・)
美幸は事のあらましを話しながら、あの日の頼光の笑顔を思い返していた。
二人は鴻池駅の噴水前までやって来た。
「それじゃ、今日は楽しかったです。またLINE入れますね。」
「うん、ありがと。紗彩ちゃんも気を付けて。」
美幸は手を振って駅構内へと歩を進めた。
「先輩、紗彩、応援してます!」
「さ、紗彩ちゃん?!」
ころころと笑いながら元気良く手を振って、紗彩は駅の東口方面へと駆けて行った。
「もう、紗彩ちゃんたら・・・でも皆本くんと結構お話出来て嬉しかったな。学校でもこのくらいお話できたら良いのに・・・」
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