第13話 『引き続き荒稼ぎしたら出禁をくらった』

 

 今日も今日とてお金を稼ぐ為に私はアリサに変身して帝國の外へと出掛ける。


 そうして、いつも通りに知らない国の知らない首都に入り、冒険者ギルドに入ったのだが――私が姿を現した瞬間に騒がしかった周囲がシンっと静まり返った。


「?」


 困惑しつつも私は掲示板に張ってある依頼表を確認。


 一番高額な依頼でも大金貨であることを確認して、仕方なく受付に向かい……。


「勘弁して下さい!」


「…………」


 何故か涙目で哀願された。


 あれ? 今日は私まだ何もしてないよね?


「えっと……?」


「せ、殲滅魔女様ですよね? 最近冒険者ギルドで噂になっている魔物の領域を次々と荒らしまわって……いえ、解放しているという」


「……その二つ名、気に入っていないので呼ばないでください」


 どうやら、いつの間にか私の噂が広まっていたらしい。


「魔物の領域を解放するのは国家の義務ですし、冒険者としても推奨されていることですよね?」


「そうですけど! そうなんですけどぉ! 1日に1つとか2つのペースで解放されても支払えるお金がありませんよぉ!」


「その気になれば3つとか4つとかも行けますよ?」


「そんな情報は聞きたくありませんでしたぁ!」


 本気で涙目になっているので、なんだか虐めているみたいな気分になって来た。


「んぅ~。それなら高額な魔物の討伐依頼とかありませんか?」


「同じですからぁ! どっちにしろ冒険者ギルドの金庫には限界というものがあるんですぅ!」


「……国から援助金とか出てないんですか?」


「出てますけどぉ! それでも年間で使える予算というものがあるんですよぉ!」


「むぅ。以前の帝國ならポンと出してくれたのに」


「あの時の帝國は超大国ですから! あんな国と一緒にしないで下さいよぉ!」


「そっかぁ」


 あの時の――同盟軍と戦争をする前の帝國って実は凄かったのね。


「それならお金の潤沢な国って何処ですかね? どの国に行けば昔の帝國並みに支払い能力があるんでしょう?」


「帝國が駄目となると……聖国くらいでしょうか」


「……なるほど」


 考えてみればあの国は宗教国家だし、信者からお金を巻き上げているなら予算は潤沢かもしれない。


「それじゃ、ちょっと行ってみますね」


「あの……くれぐれも、くれぐれも私が聖国を推薦したなんてことは言わないでくださいね?」


「別に良いですけど?」


 何故か顔を引き攣らせる受付嬢を置いて私は聖国に転移魔法で移動することにした。






 そうしてやって来ました。聖国の首都である聖都。


「宗教国家って聞いていたけど、言うほど宗教一色って訳でもないのね」


 初めて来た聖都は以前の帝國並みの賑わいと混雑具合を醸し出していて、これは期待出来そうだった


 私は人に道を聞きながら冒険者ギルドを目指して、そうして辿り着いた冒険者ギルドに入った瞬間……。


(流石は聖都だわ)


 何も変わらなかった。


 どうやら聖都の冒険者ギルドでは私が入ったくらいでは欠片も動揺しない度量があるらしい。


 頼もしい限りだ。


 まぁ、2軒目だから少し時間帯がズレているということもあるのかもしれないが。


 ともあれ定番通りに私は掲示板の前に移動して依頼表を確認する。


「ふむ」


 やはり掲示板に張ってある依頼では大金貨が精々で白金貨以上となると張り出されていないらしい。


「すみません」


 仕方なく私は受付に行って受付嬢に話し掛ける。


「なんでしょうか?」


「高額の賞金が掛けられた魔物の討伐依頼ってありませんか?」


「……はい?」


「ちょっとお金が必要で、大きく稼げる依頼を探しているんです」


「えっと……それなら魔物の領域を解放していただければ大金をお支払い出来ますけど?」


「良いんですか♪」


 流石は聖都。


 まさか私に対して魔物の領域の解放を推奨してくれるなんて。


「それならどの辺の魔物の領域を解放すれば良いでしょうか?」


「そ、そうですねぇ」


 受付嬢は困惑しながらもお奨めの魔物の領域を教えてくれた。






 数時間後。


「流石にプラチナクラスの領域の守護者は少し手強かったですねぇ」


「「「いやいやいやいや」」」


 無事に領域の守護者を狩った私は領域の守護者の死体を持って冒険者ギルドに戻って来たのだが、職員達は勢揃いして顔を青褪めてさせていた。


「あの、ひょっとしてですが、殲滅魔女様……ですか?」


「その二つ名、気に入っていないので呼ばないでください」


 私が受付嬢の質問に顔を顰めつつも肯定と思われる返事をした瞬間……。


「「「勘弁して下さい!」」」


 職員達が涙目で一斉に土下座した。


「えっと……魔物の領域を解放することを奨めてくれたのでは?」


「ついさっき! ついさっき連絡が来たのです! 殲滅魔女が魔物の領域を荒らしまわっているから注意しろという通達が来たのはぁっ!」


「あぁ~……」


 私を見ても平然としていると思っていたけど、単純に帝國から遠かったので連絡が遅かっただけだったのね。


「でも聖国の、しかも聖都なら資金も潤沢な筈では?」


「プラチナクラスの領域の守護者の素材なんて買い取りにいくらかかると思っているんですかぁ! 魔物の領域の解放の賞金と合わせれば金庫はスッカラカンですよぉ!」


「あ。でも支払えるんですね」


「勘弁してぐだざいぃ! 明日から冒険者ギルドの運営が回りませんよぉ!」


「むぅ。聖国には以前の帝國並みの支払い能力があるって聞いたから来たのにぃ」


「……誰にですか?」


「ひ、秘密です」


 流石にあの職員に責任を押し付けるのは悪いと思ったので黙秘しておいた。




 ◇◇◇




「なぁ~んか思ったより上手くいかないなぁ」


 俺はサイオンジ公爵家の自室の机の上に稼いだ金をジャラジャラと積み上げていく。


「それっていくらくらいあるの?」


「ん~……多分白金貨15枚くらいかな?」


 ユメハの質問に答えるが、想定の金額には届いていない。


 最初に皇帝に貸した金額が白金貨10枚で、次が白金貨20枚、そして今回が白金貨15枚なので合計で白金貨45枚になる。


「多少の足し程度にはなるかもしれないけど、戦争の出費を考えれば焼け石に水かなぁ」


「戦争ってそんなにお金が掛かるものなの?」


「……どうだろう?」


 考えてみれば俺は日本の国家予算を基準に考えていたので白金貨1000枚は必要だと思い込んでいた。


 日本円に換算して約1000憶円だ。


 日本が太平洋戦争で費やした金額は国家予算の280倍とか聞いたことがあるのでこれでも焼け石に水だと思っていたし、実際に俺が各地で稼いできた本当の額は白金貨で300枚以上になる予定だったのだが……。


「ひょっとして、こっちの世界での戦費ってそんなに掛からないのかな?」


「防衛戦になると単騎で突撃するだけのサイオンジ公爵家はお金掛からないから、よく分からないわねぇ」


「ですよねぇ~」


 サイオンジ公爵家は戦争になっても非常にリーズナブルなのだ。


 反面、稼ぐ戦果と金は莫大になるんだけど。


「まぁ、これ以上の荒稼ぎは難しそうだし、そろそろ打ち止めかなぁ」


 後は皇帝と話をして、いくら必要なのか聞いてみないと話にならない。


「ね。そんなことより……リオ♡」


「……分かっているよ」


 現在時刻は既に夜。


 部屋には俺とユメハの2人きりで、おまけにユメハは煽情的な下着姿の上に薄くて透けるネグリジェを纏っているという非常に魅力的な姿だ。


 しかもユメハの身体からは微かに香水の匂いが漂って来ている。


 香水は大量に吹きかけると匂いがきついし下品な印象になるのだが、ユメハの場合はサッと一吹きという感じなので非常に上品で――良い匂いがする。


「あ♡」


 ここまでされては俺も辛抱堪らなくなり、ネグリジェごとユメハを抱きしめる。


 勿論、直ぐに全部と脱がせたりせず、この魅力的な奥さんを堪能する為に両手を伸ばす。


「あ……はぁ♡」


 ユメハの身体を隅々まで可愛がりつつ、唇を合せて舌を絡め合いディープなキスを舌が痺れるまで味わう。


「リオ、来て♡」


「ああ」


 そうして2人で我慢の限界まで昂ってから、俺はユメハをベッドの上に押し倒した。






 満足である。


 2人で限界まで愛し合ってから、まったりと微睡むこの時間が最高だ。


「~♪」


 ユメハも同感なのか裸のまま俺の身体にスリスリと頬ずりしてくるし、俺もユメハの身体に手を回して背中をゆっくりと撫でるのが気分が良い。


 こうして触っていると分かるのだがユメハはもう大分女らしい体つきになって来たし、いつ妊娠してもおかしくないと思っていたのだが――ユキナさんによるとサイオンジ公爵家の女が妊娠する時期は18歳以降になるらしい。


 その話を聞いた時に思わず計算しそうになって――強烈な殺気を受けて即座に計算を中断した。


 まぁ、要するに俺とユメハはまだ暫くは2人きりを楽しめるということだ。


「ねぇ、リオ。私、明日はお休みなんだけど」


「それじゃデートに行こうか」


「うん♪」


 明日のデートの約束をしてから俺とユメハは微睡みの中で眠りに就いた。




 ◇◇◇




 デートである。


 デートとは何か?


 デートって何処に行って何をすれば良いのか?


 そんなことを聞く奴がいるかもしれないが、ハッキリ言ってそんな質問に意味はない。


 デートで重要なのは何処に行って何をするのかではなく《誰と行くか》だからだ。


 つまり俺とユメハが2人で出掛けるなら、何処に行こうと、何をしようと、それは既にデートなのだ。






 とは言っても出来れば楽しいところに行きたいので俺はユメハと転移魔法を使って聖国の聖都にやって来た。


 先日やって来た時に以前の帝都並の賑わいがあると分かったのでデートで来たら楽しそうだなぁ~と思っていたのだ。


「わぁ~♪ 宗教国家って聞いていたかから固いイメージだったけど、そんなに堅苦しい訳じゃないのねぇ」


「だろ? 俺もここなら楽しめると思ってチョイスしてみたんだ」


「うん♪」


 勿論、宗教色が強いというのは間違いではないが、それでも1日だけ楽しむだけなら十分な街並みだった。


 そうして俺とユメハは早速街の中に繰り出した。






 聖都には色々なイベントの施設があった。


 例えば相性占いのようなもので、街の中央にある噴水に2人で背を向けて同時にコインを投げ入れ、ちゃんと噴水の中に入れば2人は将来結ばれるとかベタな奴。


「入った? 入ったよね♪」


「俺とユメハの相性なら当然の結果だな」


「だよね♪」


 まぁ、ユメハの身体能力なら外す方が難しいし、俺は魔法で制御出来るから確実に入れることが出来る。


 それ以前に俺とユメハは既に夫婦で既に結ばれているので意味はない。


 勿論、そんな無粋なことを言って雰囲気を壊したりしないけどね。


 重要なのはデートを盛り上げるシチュエーションであって、現実的な見解など無用なのだ。


(((けっ)))


 無論、聖都だろうと何処だろうと独り身の奴から見ればイチャイチャしている俺達はやっかみの対象なので密かに舌打ちされるのだが、それはそれで俺達の優越感を満たしてくれる要素の1つでしかない。


 それ以外にもローマの真実の口みたいなのもあって2人で騒ぎながら挑戦したり、聖都で流行りのレストランに入って思ったより美味しくない食事に苦笑いしたりした。


 そうして楽しい時間はあっという間に過ぎていき――日が落ちて夕食を食べていた高級レストランから出た時にはユメハの顔には寂しさが映っていた。


「……帰りたくない」


 ユメハは明日も近衛騎士団の訓練があるし、自分でも我儘を言っているという自覚はあったのだろう。


 その言葉には後ろめたさが付きまとっていたが……。


「実は宿を予約してあるんだ」


「!」


 勿論、俺がこんなシチュエーションでお約束を破るわけもなく、あらかじめ聖都の夜景を展望出来るレストランから泊まれる高級宿の予約は済ませてあったのだ。


「リオ、大好き♪」


 ユメハは満面の笑顔で俺に抱き着いて来て、俺も当然のように抱き返してユメハを予約した高級宿の方へとエスコートして……。




 リーン。リーン。




「「…………」」


 ユメハの所持するスマホから不吉な音色が響いて来た。


「…………何?」


 顔から表情の消えたユメハが渋々スマホに出ると……。


「ちょっと待って、今日だけは勘弁して! 分かってる、分かっているから! だからお願い……!」


 いくつかの問答の末にスマホの念話が切られた。


「……お母さんが明日迎えに来いって」


「そ、そうか」


 流石の世界最強の生物でも1日だけは慈悲で猶予をくれたらしい。


「……行こうか」


「……うん」


 ちょっと余計な邪魔が入ってしまったが、それでも俺はユメハの手を取って高級宿へとエスコートを再開した。






 最後の方にケチが付いたがデートは楽しかった。


 翌朝には帝都のサイオンジ公爵家の屋敷に帰ってユキナさん夫妻を聖都にお泊りデートさせる為に送り迎えをさせられたが、それでも楽しかったのだ。


 聖都の高級宿でユメハと最高の雰囲気でチョメチョメ出来たから俺は満足なのである!




 ◇◇◇




 リフレッシュを終えて私は金稼ぎを再開する。


 今日も今日とてアリサに変身して帝國の外の国に赴いて冒険者ギルドに入る――前に冒険者ギルドの前に目立つ看板が立てられていることに気付いた。




《殲滅魔女お断り》




「…………」


 これは一種の吊し上げではないでしょうか?


 いや。私自身はこの二つ名を認めていないから無視しても良いのだけど、これはいくらなんでもどうかと思う訳ですよ。


「お、おい。あの黒ずくめの女って、もしかして……」


「ひぃっ! 殲滅魔女だ!」


「魔物の領域を狩られるぞ! 俺達の稼ぎ場を護れ!」


 看板の前で呆然としていたら私の周囲に冒険者達が集まって来てしまった。


 色々と納得はいかないが、今は帝都に帰ることにした。






「……とりあえず、私はどこに乗り込めばいいのかしら?」


「勘弁して下さい」


 帝都の冒険者ギルドで私がサリーア相手に愚痴を漏らすと涙目で哀願された。


「いくらなんでも酷くありませんか? そりゃ私の目的は資金稼ぎですけど、魔物の領域を解放するのは本来国家の義務なのですよ? どうして私が批難されなきゃいけないんですか」


「分かってますけどぉ、1日で3つも4つも魔物の領域を解放されたら冒険者は食べていけませんよぉ」


「むぅ」


 流石に荒らしすぎたか。


「どこかに魔物の領域が邪魔で困っていて、お金が有り余っている国なんてありませんかねぇ」


「その条件ならSクラス冒険者が真っ先に派遣されますけどね」


「……Sクラス冒険者になると面倒なんですよねぇ」


 私がSクラス冒険者になれば沢山の依頼が舞い込んでくるのは分かっているのだが、それでは国家に好き勝手に依頼されて自由を極端に制限されることになる。


 動きやすさではAクラス冒険者が一番楽なのだ。


「どこかにお金の有り余っている国なんてありませんかねぇ」


「……帝國の帝都で言う台詞ではありませんけどね」


「今の帝國は借金塗れじゃないですか」


 私から白金貨45枚も借りている国に期待なんて出来ないし、そもそも帝國に貸す為に頑張っているのだ。


 帝國が潰されるようなことがあればサイオンジ公爵家が居場所を失ってしまう。


 それをさせない為に私が頑張ってお金を稼いで帝國の戦費を補完しているのである。


「帝國の現状って、そこまで悪かったんですか」


「同盟軍との戦争の傷痕も癒えない内にもう次の戦争ですからねぇ」


「……あの海戦の噂って本当だったんですね」


 流石サリーアは冒険者ギルドの職員だけあって情報が早い。


「もう下手に海軍とか出さずに敵を陸地に引き込んで全部サイオンジ公爵家に任せれば良いのに」


「そ、それは流石にどうかと思いますけど」


「でも、それが一番被害が出ないじゃない。余計な海戦をするから戦費が嵩むのよ」


「……あんまり極秘情報を愚痴らないでくださいよぉ」


 私の愚痴にサリーアは涙目になっている。


 確かに喋りすぎたかもしれないが……。


「ふむ。これで首謀者に何か動きがあればサリーアから辿っていけそうね」


「人を囮にしないでくださいぃ!」


「……冗談よ」


「目を見ていってください! 私の目を見てぇ!」


 詰め寄って哀願してくるサリーアからは、とりあえず目を逸らし続けた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る