第11話 『故郷の超技術で嫁を磨き上げる』
転移魔法で日本に送られたリオⅡは旅をする。
日本で活動する為に必要な魔法ということで急遽隠蔽魔法が開発されて付与され、魔力が存在しない日本では透明になったかのように誰にも気付かれない。
色々な魔法を刻み込まれているリオⅡだが、本来はミスリルとはいえど、ここまで多くの魔法を刻みこめるスペックはない。
秘密は単純にリオⅡの球状の本体が多重積載構造になっており、1つの層に3~4くらいの刻印を刻めるので俺が使える魔法の殆どが刻み込んであるのだ。
ユメハのユメⅡがユメハのサポートをメインにしているのとは違い、俺のリオⅡは多様性で一時的に俺と同等のスペックを発揮して対応力を発揮することを目的として作られている。
要するに非常時には俺が2人いるような戦力を確保することが目的なのだ。
まぁ、篭められる魔力には限界があるので本当に一時的だけど。
そういう訳で日本に送られたリオⅡは色々な場所を旅する。
それは主にドラッグストアと呼ばれる店であり、そこでユメハ用に美容用品を収納魔法に収納して――店を出る。
明らかに万引きだが、隠蔽魔法によって誰にも気付かれないので勘弁して欲しい。
リオⅡがお金を払おうとしても問題にしかならないのだから。
魔力のない地球ではリオⅡは半日も活動出来ないし、それに加えて帰還用の転移魔法に使う魔力を残す必要があるので実際の活動時間は十分なマージンを取って5時間前後というところだ。
そうして日本からリオⅡが持ち帰った品を使って俺はユメハを磨き上げる。
高級シャンプーを使ってユメハの赤い髪を洗い、コンディショナーで髪質を整え、高級ボディソープで身体を磨き上げる。
「ふわぁ~。なんだか生まれ変わった気分だわ」
ピカピカに磨き上げた後は化粧水と美容液を使って顔に潤いを持たせる。
「これってなんだか、なんか……なんだろう? なんか凄い」
ユメハ本人は相応しい語彙が見つからなかったのか混乱していたが、俺は俺の嫁が益々美人になるので満足である。
こうして髪はツヤツヤで、肌はスベスベになったユメハさん。
お風呂上りということはもう夜なわけで、そして今は俺と部屋に2人きり。
「ユメハ、綺麗だ」
「リオ、嬉しい」
そうしていつも綺麗だけど今日は格段に綺麗になったユメハを抱きしめてキスをして……。
「少し良いかしら?」
「「…………」」
ベッドに押し倒す直前にドアが開いて世界最強の生物が顔を覗かせていた。
「…………何?」
物凄く良いところで邪魔をされたユメハさんは流石に相手が母親であっても機嫌を損ねたのか、怨嗟の声で問いかける。
「その髪と肌を整えた薬品、私にも分けて頂戴」
「……私達のお風呂場にあるから勝手に持って行って」
「ありがとう♪」
そうして世界最強の生物は御機嫌に去って行った。
「「…………」」
暫くは警戒していたが、戻って来ないと分かったので……。
「ユメハ」
「……リオ」
続きを始めることにした。
こんなことでめげる俺とユメハではないのだ。
◇◇◇
一晩経ってもユメハの髪はツヤツヤのままで、ユメハの肌はスベスベのままだった。
「~♪」
そしてユキナさんの髪もツヤツヤで、肌はスベスベだった。
この人は一体何歳なん……。
「ナニカシラ?」
「ひぃっ! なんでもありません!」
駄目だ。この人の歳のこととか考えたら寿命が縮まる。
無心だ。無心になるのだ。
「お母さん、リオが便利な物を持ってくる度に欲しがるの止めてよね」
「だってダーリンにはいつも綺麗な私を見て欲しいんだもの♪」
「……それは同感だけどさぁ」
そう言いつつ俺をチラチラ見てくるユメハ。
今はユキナさんがいるけど、これは断れる雰囲気でもない。
俺はユメハの手を取って引き寄せつつ……。
「今日はいつにも増して綺麗だよ、ユメハ」
歯の浮くような台詞でユメハを称賛した。
「えへへ♪ リオの前ではいつでも綺麗でいたいんだもん♡」
視界の端でユキナさんが旦那さんの元へ向かうのが見えたが、見なかったことにするのが大人の対応だろう。
そうして今日も今日とて抱擁とキスで名残惜し気に近衛騎士団の訓練に出掛けていくユメハを見送った。
ユメハが出掛けた後、俺は
皇帝が言っていたユニクスの様子を見ておこうと思ったからだ。
色々な場所を探したがなかなか見つからず、最終的に見つけたのは城の裏庭だった。
そこでユニクスが何をしていたのかと言うと……。
『この根性なし共がぁっ! 立てっ! 立って走れぇっ!』
『『……マジ勘弁してぇ』』
例の黒髪と茶髪の男2人を相手にスパルタ訓練を施している真っ最中だった。
とは言っても男2人の方は明らかにやる気がなさそうで、ダラダラ走っては休憩して、ついにはパタリと倒れて寝息を立て始めた。
『誰が寝て良いと言ったぁ! さっさと起きんかぁ!』
『『わぷっ』』
ユニクスは水魔術を唱えて男2人の上からぶっかけた。
『今時スポ根とか流行らないっすよぉ』
『いきなりは無理です。最初は軽いトレーニングから始めましょうよぉ』
『き、貴様らという奴は……!』
うん。なんかユニクスも苦労しているみたいだ。
というか前に見た時は速攻でユメハにボコボコにされてしまったので気付かなかったが、この男2人組は言動と見た目からして明らかに日本人だった。
更に2人はやる気こそないが、その身体能力は高く、明らかに本人が本来持っている力とは別の力を持っていると分かる動きだった。
(例のチート転生者か? なんでユニクスと一緒に居るんだろ?)
事情は知らないが、なんだか面倒なことになりそうな予感がした。
(ん?)
そうしてダラダラ訓練する2人組と怒鳴り続けるユニクスを暫く観察していたのだが、この3人組を観察しているのが俺だけではないことに気付く。
その視線の出所を探っていくと……。
『なんなのでしょうか、あの2人。明らかに根性なしなのに……随分と身体能力が高いですわ』
3人を観察しているセリナを見つけてしまった。
そしてセリナが居たのは王宮内にセリナの為に用意されたセリナの部屋――ではなく、元は俺が使っていた部屋だった。
『お嬢様。態々この部屋を使う理由は何なのでしょうか?』
部屋にはセリナの侍女も一緒に居て、セリナの行動にゲンナリしている様子だった。
『勿論、リオ様の匂いが少しでも残っている部屋でリオ様を感じたいからですわ♪』
そう言ってベッドに飛び込むセリナ。
『あぁ、かすかに残るリオ様の残り香。惜しむべきはユメハ様の匂いも一緒に残ってしまっていることですわ』
そりゃ、そのベッドを最後に使ったのはユメハと初めて一線を越えた時だからねぇ。
『お嬢様。その姿を誰かに見られたら流石に言い訳出来ません』
『むぅ。早くユニクスの屑を貶めて婚約破棄を達成しなければいけませんわね』
「…………」
セリナさん、あんたって人は……。
『はっ!』
俺が呆れているとセリナが唐突にベッドから顔を上げて周囲をキョロキョロと見渡し始めた。
『お嬢様、どうなさいました?』
『……リオ様の視線を感じますわ』
『はい?』
げっ。マジかぁ。
ユメハでも未だに完全には感じ取れないのにセリナの奴、俺の
ユキナさん並みの視線感知能力だ。
『ど、どうしましょう! 脱いだ方が良いのでしょうか? わたくしの成長した裸体をリオ様にご覧になっていただくチャンスで……』
「…………」
これ以上はユメハさんにちょん切られそうなので俺は
うん。予想通りにセリナは洗脳を解いて思い出を取り戻していることは確認出来たのだが、それ以上に想像以上に根性のある姿を見せつけられてしまった。
「……とりあえずユメハに連絡しておくか」
僅かでもユメハに誤解を与える余地は残しておかない方が良い。
そう思って俺は念話装置でユメハに連絡を取った。
《リオ? どうしたの?》
直ぐにユメハは念話に出てくれた。
やはり近衛騎士団の訓練はユメハにとって退屈なものらしい。
「あ~、実はだな……」
ともあれ俺はセリナの現状と、ついでにユニクスの怪しい企みのことを伝えておいた。
《……見たの?》
「見てません! 断じて、断じて見てませんとも! 俺はユメハさん以外の裸は見ないと決めているので!」
《それなら良いわ♪》
機嫌良さそうに話すユメハの声を聴いてホッと胸を撫でおろす。
やはり早めに連絡しておいて良かった。
これでちょん切られる危機は去った。
《それより聞いてよ、リオ。さっきから訓練に参加しているんだけど……》
「あ、はい」
それからユメハとの長念話で延々と話をすることになった。
本当に退屈だったみたいで、俺と話せるのが嬉しいようだ。
うん。嫁との長話は前に皇帝の愚痴を延々と聞かされた時とは比べ物にならないくらい楽しかったよ。
おっさんと美少女嫁では、やはり比較にならないくらい感じる印象が違うんだと認識した。
俺とユメハはお昼になるまで延々と念話を続け、お昼休みには一緒に帝都に出てご飯を食べる約束をして一旦念話を切った。
「念の為にユニクスの方も見て来たけど……あれは問題外でしょ」
ユメハと帝都で合流した後に話を聞いたが、やはりユニクスの陣営はユメハの目から見ても問題になりそうになかった。
「あいつらが10倍強くなっても私達の敵じゃないわね」
「……想像以上に差があった」
うん。知ってたけど奴らのチートよりもユメハさんの方が明らかにチートですわ。
というかサイオンジ公爵家そのものがチートみたいなものだけど。
「それより何食べよっか?」
「長年帝都に住んでるけど高級レストランくらいしか入ったことないし、どんな店があるのかも知らないんだよなぁ」
「それなら私がお奨めの店に案内するわね♪」
それは兎も角、俺とユメハは手を繋いで一緒に昼食を食べに向かった。
勿論、時間いっぱいまでイチャイチャして、ユメハを王城まで送った後は抱擁とキスで見送って……。
「……もっと一緒に居たい」
「そ、そうね。私もなんだか体調が悪い気がするし、早退することにしましょう♪」
王城の前で引き返して、このままデートを続行することにした。
◇◇◇
怒られた。
「お昼休みに会うの禁止。それに訓練中に緊急事態以外で連絡を取るのも禁止ね」
「えぇ~!」
「それは横暴よ!」
「き・ん・し、ね?」
「「……はい」」
そりゃ昨日はデートの勢いのままお泊りして来てしまったが、こんなに怒らなくても良いのに。
「あ。ひょっとして外泊の連絡をしたのが夜になってからだったからお母さん怒っているんじゃ……」
「ナイカイッタカシラ?」
「……いえ、なにも」
そっか。訓練をサボったことよりも、連絡が遅くなってユキナさん達が外泊デートに便乗出来なかったことを怒っているのか。
次は早めに連絡を入れようとユメハにアイコンタクトで提案するとコクリと頷いてくれた。
長年の付き合いでこのくらいは出来るのだ。
「言っておくけど連絡したからって訓練をサボって良い理由にはならないんだからね?」
「「……すみませんでした」」
同じく長い付き合いであるユキナさんにもバレバレだったけど。
今日も渋々近衛騎士団の訓練に出掛けていくユメハを抱擁とキスで見送り、再び俺は暇な時間が出来てしまった。
念の為にユニクスとチート転生者2人組を
『チラッ。チラッ』
何故か妙に煽情的な服を纏って何処かに視線を送っていたので直ぐに
子供の頃はあんな変な子じゃなかった筈なのに、やっぱり洗脳の影響でも残っているのだろうか?
ついでにユメハの様子を確認しておこうと……。
「エ・ミ・リ・オ、君?」
「ひぃっ!」
いつの間にか背後に世界最強の生物がっ!
「まさかとは思うけど、昨日の今日で約束を破ろうとしていないわよねぇ?」
「も、ももも、勿論ですとも!」
俺は
でも念の為に
「それなら良かったわ♪」
「あはは……」
数秒前までの漏らしそうな圧力は消えたが、それでも俺は乾いた笑いを漏らすことしか出来なかった。
今は朝だから良かったけど、夜中だったら冗談抜きで漏らす自信がありますわ。
そうして再び暇になったので昼まではスマホの解析に勤しんでいたが、午後からは暇潰しにアリサに変身して冒険者ギルドに行くことにした。
私はいつも通りに転移魔法で帝都に移動して、そこから歩いて冒険者ギルドに向かって、いつも通りに扉を開いて中に入ったわけだが……。
「わぉ。黒髪の和風美少女発見!」
「おぉ~」
中には何故か例の黒髪と茶髪のチート転生者がいた。
2人がここにいる理由は不明だが、ともあれ私は担当受付嬢のサリーアを探して……。
「あ。いらっしゃい。アリサさん!」
探すまでもなくサリーアがパタパタと走って私の下に来てくれた。
「お久しぶり。これ、海に行ってきた時のお土産ね」
「わぁ♪」
サリーアには海で取れた新鮮な魚を氷漬けにして入れてある木箱を渡した。
これなら
「さ、魚……だと」
「ごくり」
元日本人の2人は魚に飢えていたのか凝視して来たけど、勿論無視した。
「でも珍しいですね。ここに私以外の人が居るなんて」
「あ、はい。どうやら帝都の外から来た人達で、今日はお仕事を探しに来たみたいなんですけど……」
「帝都で冒険者のお仕事ってあるの?」
「……雑用くらいなら」
「ですよねぇ~」
後悔しているわけじゃないけど、帝都の東も森を解放してしまった影響は大きかったらしい。
「あの2人はAクラス冒険者並の実力があるので別の場所に行った方が良いと勧めたのですが、どうやら帝都で用事があるとかで帰ってくれないんですよ」
「……Aクラス?」
ユメハに一方的にボコボコにされた姿しか見ていないので、そんなに実力があるようには見えなかったのだけど。
「はい。あの2人は実力はあるんですけど実績というか……やる気が感じられないのでBクラスに留まっているみたいです」
「あぁ~……」
傍から見ても分かっていたことだが、冒険者ギルドの職員から見てもやる気がないのは分かっていたらしい。
私は2人の視線を感じながらもサリーアとお茶をして雑談という名の情報収集に努めることにした。
今のところサリーアが把握している範囲では問題になるような事件は起きていないという話だったのだが……。
「なぁなぁ。あの超美少女ちゃんって何者なの? 随分馴染んでいるように見えるけど、ひょっとしてあの子も冒険者だったりする?」
「うんうん」
あの2人組が他の職員に私のことを聞いているのが耳に入ってきてしまう。
「……彼女はAクラス冒険者のアリサさんです」
尋ねられた職員はチラリと私の方に視線を向けて来たけど、直ぐに調べられる範囲の最低限の情報だけを提示することにしたようだ。
まぁ、ここの職員って私の正体を知っているし、それ以前の話として私は彼らにとっては帝都を護った英雄として崇められているのだ。
無暗に私の情報を他人に公開することはないだろう。
「Aクラスかぁ~。でも実力的には俺達の方が上だよな?」
「……だと思う」
「この間の赤毛の女も美少女だったけど、あれはないよなぁ。ゴリラみたいに凶暴な女だったし」
「……暴力女はない」
ピシリと周囲の空気が凍り付くと同時に私の中の何かがプツン切れるのを自覚した。
「あちゃ~」
同じく話が聞こえていたのかサリーアは頭を抱えて机に蹲ったが、私を止めるような無駄なことはしなかった。
そして私はゆらりと立ち上がった。
「お。なんか、こっちに来るぞ」
「き、緊張してきた」
そしてボケたことを宣う2人組に接近して……。
「ほげぇっ!」
まずは茶髪の方に顔面パンチをお見舞いした。
空中で3回転半程回転してから床に叩き付けられて、そのまま床をゴロゴロと転がって行って壁に激突して止まった。
「え? ちょっ……え?」
それを見ていた黒髪の方が動揺して私と倒れた茶髪に交互に視線を走らせていたが、そんなことは無視して私は接近して……。
「おぼぇっ!」
腹パンをお見舞いした。
身体がくの字に曲がったまま空中で錐揉みしながら回転して、天井に頭を強打してから床にドサリと倒れた。
「ユメハさんを侮辱する屑は誰であろうと容赦しないわ」
「ですよねぇ~」
サリーアは何かを諦めたような顔でゴミ2つを片付けるように職員達に指示を出した。
私の行動を問題視するような職員は、このギルドには居ないらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます