第8話 『旅行先で懐かしの人種に遭遇する』

 

「魔導船?」


 アリサに変身して訪れた冒険者ギルドだったが、そこで私は担当受付嬢のサリーアから依頼の話をされていた。


 そうして最初に出て来た単語が魔導船という初めて聞く単語だったのだが……。


「単語から推察するに魔術で動く船ですか?」


「そうなんですけど、そうじゃないっていうか……」


 サリーアはなんと説明しようか迷っているようで、しばし考える。


 それからサリーアがたどたどしく話した内容を纏めると、こういうことになる。


 帝國にも海に面した港はあるので当然船は存在する。


 この世界――というか、この大陸で使われている船には当然のようにエンジンなんて物は搭載されていないので魔術が動かすことになる。


 一般的なのは船に張った帆に向けて後ろから風魔術で風を浴びせて推進力を得る方法だ。


 勿論、複数人の魔術師を動員したとしても常時風魔術で推力を得るには魔力が足りなくなるが、それでも風任せで進むよりは何倍も効率的だ。


 何より船で海に乗り出せば魔物に襲われる可能性が高いので、その時に一気にスピードを上げて逃げ切れるかどうかが重要なのだ。


 そういう意味では今の帝國にある船も魔導船と言っても良いのかもしれない。


「ですが、その船は真の魔導船と言う他ないくらい画期的な船らしいです。なんと言っても別の大陸から来たという線が濃厚ですから」


「……別の大陸から?」


 どうやら私が色々と寄り道をしている間に別大陸の方からアプローチが来てしまったらしい。


「まぁ、あくまで推測ですけどね。なんと言っても帝國の港に辿り着いた魔導船に乗っていたクルーは言語も文化も違うので意思疎通も出来ませんから」


「へぇ~」


 以前、別大陸の上空を飛翔魔法で通り過ぎたことがあったが、まさか文明で上を行っている種族がいるとは思っていなかった。


「だから、その調査をアリサさんにお願いししたいのです」


「調査って、そんなのもう帝國の調査員がやっているんじゃないの?」


「あぁ~、そうなんですけど、そうじゃないっていうか……言葉も通じない相手というか、別の大陸からの侵略者だと思っているのか一向に話が進んでいないみたいでして」


「そんなの皇帝直属の人員を港に向かわせれば良いんじゃないの?」


「はい。皇帝直属の近衛騎士団の特務団員をアリサさんの転移魔術で運んでもらえたらなぁ~って依頼なわけです」


「あ~……」


 つまり責任者としてユメハを連れて行って良いから、私の方で調査を進めておけというわけだろう。


 勿論、アリサという一介の冒険者ではなくエミリオという元皇族として。


 その依頼は冒険者ギルドからではなく皇帝からの依頼なんだろうけど。


「皇帝も私に直接言えばいいのにねぇ」


「……色々お忙しいみたいです」


 まぁ、今の情勢で皇帝が暇しているなんてことはあり得ないか。


 でも私に直接言って来ないのは、私やユメハに苦手意識でも持ったから避けたという方が大きいだろう。


 帝國の皇帝として弱気と取られるわけにはいかないから本人は全力で否定するだろうけど。


「依頼の方は理解したけど、委任状はあるのかしら?」


 ユメハと2人で公的に出掛けられるというなら文句はないけど、皇帝からの全権委任状がなければ正式に調査を行うことは出来ない。


「そちらは特務団員の方に渡しておくそうです」


「……その根回しの良さを戦争の時にも発揮して欲しかったわね」


「ノーコメントで」


 流石に皇帝批判にはサリーアは同意することなく口を噤んだけど。


「あ、そうそう。これ旅行のお土産ね」


「ありがとうございます♪」


 私が当初の目的であるお土産を渡したら素直に笑顔で受け取ったけど。


「そういえば念話装置はどうしましょうか?」


「帝都に残る人員との連絡手段は残しておきたいから暫くは預かっておいて。それとも余計なちょっかいを掛けられた?」


「掛けられました……けど問題はありませんでした。アリサさんとサイオンジ公爵家の名前を出せば100%引き下がってくれますから」


「ですよねぇ~」


 誰が好き好んでSクラス冒険者相当の私とサイオンジ公爵家を敵に回そうとするというのか。


「でも皇帝陛下からは詳細は不要なので現物が1つ欲しいと伝言を承っています」


「……考えておくわ」


 皇帝とのホットラインとかいらねぇ~。






「またリオと一緒に旅行に行けるわね♪」


 訓練から帰って来たユメハは御機嫌だった。


 ユメハは家で2人きりというシチュエーションも好きだが、それ以上に2人だけで旅行というのが気に入ったらしい。


 まぁ、家には常に世界最強の生物がいるので、あまり落ち着かないというのもあるけど。


「あの……一応お仕事でもあるんですけど」


「勿論、分かっているわ! 早々に仕事を終わらせて2人だけの旅行を楽しみましょう♪」


「……そうですね」


 ユメハにとって――というかサイオンジ公爵家にとって仕事というのは夫とイチャラブを楽しむ為のスパイスでしかないらしい。


 まぁ、旅行が楽しみなのは俺も一緒なので別に良いんだけど。




 ◇◇◇




 翌日、俺とユメハは件の港へと転移で飛んだ。


 勿論、ユメハは既に皇帝の全権委任状を預かっていて、腕輪の中に収納してある。


 これを持っている限り、ユメハは皇帝と同等の発言力を得ることになる。


「この港町に来るのも久しぶりだわ」


 ユメハはあんまり気にしてないみたいだけど。


「前にも来たことあったの?」


「近衛騎士団に入団して最初の仕事が帝國の全土を回って地理を覚えることだったからね。帝國に存在する街には一通り行ったことがあるわ。今は半分になっちゃったけどね」


「俺の記憶が確かなら、ユメハが近衛騎士団に入ってからも俺に訓練を施す頻度が高かった気がするのですが?」


「馬で移動するから、よっぽど遠い街じゃなければ休日までには帰って来られるからね」


「そ、そうなんですか」


 それは普通に考えれば強行軍で、休日は本当に休日に使うのが普通なのだろう。


 当時からユメハはユメハだったらしい。


「それより早く宿を取りましょう。仕事はそれからよ」


「あいあい」


 今回の俺の仕事はあくまでユメハの補助なので、決定権を持つユメハには素直に従っておく。


「~♪」


 一応仕事なのだけどユメハが普段着なのは良いのだろうか?


 まぁ腕輪の機能で着替えは一瞬で済むので必要になったら着替えれば良いだけか。


 勿論、ユメⅡはユメハの肩に浮いて追従して……。


「そういえばユメⅡに関して何か言われなかった?」


「リオからのプレゼントだって言ったら皆納得してくれたわよ」


「……そうなんだ」


 ユメハが奇妙な物を持っているというより、俺が奇妙な物をプレゼントしたという方が納得しやすいらしい。






 ユメハが選んだのは港町の中で海が見える宿だった。


 あくまでロマンチック優先であまり防音が期待出来ない壁の薄さだが、夜には俺の防音結界を張っておけば問題ない。


 ユメハのエッチな声は俺以外の奴に聞かせる気はないのだ。






 そうして無事に宿を取って俺とユメハは、まずは件の魔導船とやらを見に行くことにした。


「集めた情報によると、その魔導船は嵐に巻き込まれて港に漂着したというのが真相で、別に帝國の港が目的地というわけではなかったみたいね」


「嵐なんてあったか?」


 半減したと言っても帝國全土はまだまだ広大なので全ての地域の天気を把握しているわけではないが、それでも嵐というのは初耳だった。


「それは私も思ったけど、船にはマストも帆もなくなっているみたいだから、きっとそうじゃないかって船乗りが言っていたらしいわ」


「頼りない証言だなぁ」


 そもそも帝國とは違う技術で作られた魔導船なのだから最初からマストも帆もなかった可能性だってあるのに。


 呆れつつも俺とユメハは港に辿り着き、その付近に建てられていた管理事務所のような建物に入る。


 件の魔導船も気になるが、まずは港の責任者に話を通してから意思疎通不可能な乗組員に会ってみるのが先だろうと思っていたのだが……。


「ふん。下賤な冒険者風情が」


「「…………」」


 港の管理責任者――金髪碧眼で騎士の鎧を纏った女は会うなり俺とユメハを見下すような目で見て、見下すような発言をしてきた。


「見ての通り私は忙しい。貴様らのような下賤な暇人とは違うのだ。さっさと尻尾を巻いて帰るが良い」


「「…………」」


 いや。マジでなんなの、こいつ?


「……1つ質問があるんだけど」


「っ!」


 俺は呆れていただけだが、隣にいたユメハさんの静かな声にギョッとして視線を向ければ――そこには目から完全に光が消えて表情の抜け落ちた世界最強の生物の一族が……。


「それは私の貴重な時間を奪うだけの価値のある質問か?」


(おい。止めろ、馬鹿! これ以上ユメハさんを刺激するな!)


 俺の必死の祈りは届かない。


「……どうして私達が冒険者だと?」


「ふん。その髪と瞳を見れば一目瞭然ではないか。高貴な者は私のように金色の髪と蒼い瞳を持っているものだ」


「……そう」


 うん。どうしてこんな馬鹿が港の責任者なんてやっているのだろうか?


「リオ。ちょっと、この馬鹿を処刑するけど……構わないわよね?」


「どうぞどうぞ」


 もはや俺が止めるという段階を超えてしまったので素直にユメハさんの行動を支援する。


「貴様ら、何をっ……!」


 その馬鹿の言葉の途中、ユメハの身体から放たれた濃密な殺気を受けて絶句して、同時に腰を抜かして床に座り込んだ。


「か……はっ! なに……が?」


「五月蠅いわね。喋るんじゃないわよ」


「っ!」


 そしてユメハに自慢の金髪を掴まれて、そのまま床に顔面を叩きつけられた。


「あ……がはっ!」


 流石に全力ではなかったのか、馬鹿は鼻が陥没したくらいで死にはしなかったらしい。


 というか、ここまで絶妙な手加減で即死させなかったということは――簡単に殺して終わりにするつもりはないってことだ。


 うん。間違いなくユメハさんはキれてます。


 というかサイオンジ公爵家の女の前で夫を侮辱するなんて逆鱗に触れる行為だ。


 喩えユキナさんであっても同じ状況なら間違いなくキれる。


「ぎ、ぎざまらぁ! 私にこんなことをして唯で済むと思って……ぷぎゅっ!」


 まだ騒ぐ馬鹿女の言葉の途中でユメハが馬鹿の頭を踏みつけて床に顔面をキスさせて中断させた。


 うん。こいつ喋っているだけで不快だわ。


「こんな……こんなことをして良いと思っているのか! 私をマレリヤ伯爵家の者と知っての狼藉か! 後悔することになるぞぉっ!」


「あら、それは親切にどうも。私はユメハよ」


 ユメハに足で頭を踏みつけられたまま、それでも意地になって騒ぐ馬鹿に対してユメハは普通に名乗った。名前だけを。


「く……くくく。ユメハだな? その名前覚えたぞ! 必ず貴様と貴様の一族諸共マレリヤ伯爵家の力で破滅させてやるからなぁっ!」


「…………」


 こいつ、なんでこんなに洞察力というか観察力がないのだろう?


 俺の黒髪で虹彩異色症オッドアイは勿論だが、サイオンジ公爵家の赤い髪と真紅の瞳も特徴的だから直ぐに察せそうなものだが。


「ふふ。貴族家に喧嘩を売られるなんて久しぶり……というか初めてじゃないかしら? 一応自己紹介しておくけど私はユメハ=レイオ=サイオンジよ」


「ふん。下賤の自己紹介など……サイオンジ?」


 そうしてやっと――本当にユメハがフルネームを名乗ったことでやっとユメハの正体に気付いたようだった。


「ま、まさか……」


「ええ。私はサイオンジ公爵家の次期当主、ユメハよ。サイオンジ公爵家は売られた喧嘩は買う主義だから、あなたからの……いえ、マレリヤ伯爵家からの喧嘩、買わせていただくわ」


「~~~っ!」


 やっと自分の立場と現状を理解したのか、馬鹿は顔を真っ青にして声にならない叫びをあげた。


「勿論、禍根を残さない為に徹底的に、容赦なく、2度と復活出来ないように、塵1つ残さずに……マレリヤ伯爵家を潰してあげるわ」


「あ……ああ……」


 馬鹿は既にガタガタ震えながらユメハを見上げることしか出来なくなっていた。


「構わないわよね? リオ」


「良いんじゃないか。こんな馬鹿を責任者に据えるくらいだし、マレリヤ伯爵家ってのが帝國に巣食ったダニってことなら皇帝陛下も文句は言わんだろう」


 うん。もうこうなったらユメハは止まらないし、それ以前に話を聞けばユキナさんも徹底的にやれと言うだろう。


「ねぇ、リオ。こいつにはどんな刑罰が相応しいかしら?」


「鉱山奴隷の奉仕係とかで良いんじゃね」


「それってどんな仕事?」


「死ぬまで鉱山を掘り続ける仕事をする奴隷ってのはストレスが溜まってて、不潔で、病気持ちで、性欲が有り余ってるから、そいつらの捌け口になるお仕事。四六時中、穴という穴を犯され続けて休むことも死ぬことも許されないって帝國の中でも底辺に近い仕事だな」


「ひぃっ!」


 話を聞いていた馬鹿は抜かしていた腰を更に抜かして――座り込んでいた床に水溜りが広がっていく。


 恐怖で失禁したらしい。


「底辺に近いってことは、もっと下があるのよね?」


「そこまで行くと俺も詳しくは知らないが、最下級の魔物にゴブリンってのがいるよな」


「ああ。あの緑色の小さめのおっさんね」


「あれを初心者の訓練用に繁殖させている場所があるそうだ」


「うわぁ~」


 うん。延々とゴブリンに犯されてゴブリンの子を産み続けるだけの簡単なお仕事です。


「やめっ……止めてください! 私が、私が悪かったです! 謝りますから、どうかご慈悲をぉっ!」


「駄目よね?」


「駄目に決まっている」


 勿論、こんな馬鹿の哀願など却下に決まっている。


 こういう馬鹿は一時しのぎで助かったらまた馬鹿をやるに決まっているし、それ以前の話として今まで好き勝手にやって来たのに今更自分だけが助かろうなんて虫のいい話があるわけがない。


 同じようにこいつに潰されて酷い目に遭ってきた奴らが大勢いるだろうし、今度はこいつの番というだけだ。


「そうだ。こいつに自殺するような度胸があるとは思えないが、念の為に自殺出来ないように暗示を掛けておくか」


「それは良いわね」


 本当に念の為という感じで催眠魔法を掛ける為に俺は馬鹿と目を合わせたのだが……。


「く、黒髪の……虹彩異色症オッドアイ? は、廃棄皇子?」


 馬鹿はまた馬鹿をやらかした。


「ふ……ふふふ。あなた凄いわねぇ。ここまで私を不快にさせておいて、まだ不快にさせ足りないのかしら? あなた、きっと私を不快にさせる天才だわ」


「ひぃっ!」


 当たり前だが俺の廃棄皇子という異名は俺を貶める為の悪名であり、それを聞いてユメハが怒らない理由が何処にもない。


「~~~っ!」


 再び馬鹿の悲鳴が周囲に響き渡ったのだった。






 馬鹿の処理は後回しにして、俺とユメハは管理施設に収容されているという魔導船のクルーの様子を見に行くことにした。


「あの馬鹿が責任者という時点で予想は出来ていたが、予想以上に酷いな」


「罪状1つ追加ね」


 魔導船のクルーと思わしき者達は全員が過度な拷問を受けたのか全身傷だらけでぐったりと床に倒れていた。


 仕方ないので俺の魔法で治療を行う。


 うん。俺には絶対防御壁アイギスがあるし、ユメハも滅多に怪我をすることがないから今まで出番がなかったが俺は治療魔法も使えるのだ。


 しかも並の魔術とは比較にならない回復力で、おまけに拷問で負った心の傷までも癒せる。


 まぁ、それは弱った心を癒せるというだけで記憶まではどうにならないのでトラウマまでは治せないけど。


「本当、馬鹿は余計な仕事を増やしてくれるよなぁ」


「鉱山か養殖場に送り込む前に徹底的に指導が必要ね」


「あ、はい」


 俺としては脅し文句というだけで本気ではなかったのだが、ユメハさんは本気でした。


 元第4皇子の俺は兎も角、サイオンジ公爵家に喧嘩を売った時点で奴の――というか奴らの人生は終わりだけどね。


「今後もこういうことは起こるだろうし、不本意ながら皇帝にも念話装置を渡しておくか」


「そうね。馬鹿な貴族を潰す度に皇帝に許可を貰いに行くのも面倒だし」


 今回は全権委任状があるので問題ないが、いくらユメハがサイオンジ公爵家でも無許可で貴族家を潰すことは出来ない。


 これからあの馬鹿の実家を潰しに行くわけだし、事後報告のついでに念話装置を渡しておくか。


「……ココハ」


 そうこうしている内に治療が済んだのか、床に倒れていた魔導船のクルー達が目を覚まして何事かを呟いた。


 それから次々に魔導船のクルー達は目を覚まして周囲の状況を確認して……。


「シ、シラナインダ。オレタチハナニモシラナイ!」


「ヒドイコトヲシナイデクレェ!」


 意味不明な言語で喚き始めた。


 意味不明?


「落ち着きなさい。あんた達を無意味に拷問していた馬鹿は既に拘束されたわ。何もしなければ酷いことはしないから一旦落ち着いて」


「アンタハオレタチノコトバガワカルノカ!」


「そりゃ分かるけど……あれ?」


 困惑している俺とは裏腹にユメハは普通に彼らと意思疎通が出来ている。


(あ。翻訳魔法が掛かったリボンの効果か)


 俺はそう納得したのだが……。


「ホ、ホントウデスカ?」


「あ」


 そこでやっと気付いた。


 俺自身には翻訳魔法なんて使っていないのに、俺には彼らの話す言語がなんとなくだが理解出来ていた理由に。


(これ日本語だ)


 もう16年以上も使っていなかった言葉なので多少あやふやではあるが、それでも前世で使っていた言語なのでなんとなく意味は理解出来ていたのだ。


(というか、こいつら日本人か)


 そういえば全員が黒髪黒目――というわけではないが今時の日本人なら茶髪に染めるくらい当たり前なので日本人だろう。


 どうしてこんなところに日本人がいるのか? とか、こいつらが日本人なら、こいつらが乗っていた魔導船ってのはエンジン付きの船なのか? とか色々と疑問は浮かぶが……。


「ねぇ、リ~オ~。どうして私にはこの人達の話す言葉が理解出来るのかしら?」


「…………」


 とりあえずユメハさんの追求から何とかする必要がありそうだ。






「もう。別に悪いことじゃないんだから、そういうことは最初に言っておいてよね」


「……だってユメハさんが喜んでいたから水を差したくなかったんだもん」


 折角プレゼントを喜んでいてくれたのに実は実用品でした、とかでは白けるじゃん。


「私はリオがくれるものなら何でも嬉しいわよ?」


「それはそうだろうけど、今までああいう純粋なプレゼントってなかったから、それで喜んでくれている姿が可愛くて……」


「…………」


 思わず本音を暴露したらユメハの頬が徐々に赤く染まっていく。


(うわぁ)


(なにこれ甘い)


(砂糖吐きそう)


 既に俺も翻訳魔法は使用済みなので周囲のクルー達は俺とユメハのラブラブオーラに充てられてゲンナリしていたが、それは無視してユメハを抱きしめる。


(しっし)


 同時に手を振ってクルー達の視線を遮る。


 折角いい雰囲気なのだから余計な見物人とかいらない。


(ちっ)


(リア充爆発しろ)


 中には独身男もいたのか舌打ちされたが、それでも彼らは背中を向けて見て見ぬふりをしてくれた。


 態度は悪いが空気の読める奴らで助かった。


 それからしばらくの間、俺とユメハは抱き合って、周囲に人の目がないことを認識したのかユメハがキスをねだって来たので喜んで唇を合せ、更にギュッと抱き合って、偶にキスをして――延々とイチャイチャした。




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