第4話 『新婚旅行の続きにはおまけが付いて来た』
戦争が終わって俺とユメハには時間に余裕が出来た。
「ねぇ。リオの魔法であのキンピカ筋肉達磨を探せないの?」
ユメハは未だに例の傭兵団の団長をしばき倒すことを諦めていないみたいだけど。
「個人を特定する魔法となると事前に対象に
「むぅ」
ちなみに俺が
だから俺はユメハが何処に行っても
個人情報が駄々洩れなのは良いのかって?
ちゃんとユメハ本人には許可を取ったし、それ以前にユメハは俺に束縛されることを喜んでいるくらいだった。
束縛というよりはユメハが俺を独占したいのと同じように、俺もユメハを独占したいのだと思って喜んでいるっぽいけど。
「それよりミスリルって希少金属じゃなかったのか? あの傭兵団は随分とミスリルを持っていたみたいだけど」
「多分ミスリルを採掘出来る鉱山がロトリア王国の何処かにあるんでしょ。貧乏なあの国に傭兵団を丸ごと雇う余裕があったとは思えないから、採掘したミスリルを対価に支払っていたのだと思うわ」
「……普通にミスリルを売れば良かったんじゃね?」
「まともに加工も出来ない金属なのに?」
「あ」
調べたところ例の傭兵団は独自に編み出した技法によって全身にミスリルをコーティングしていたようだが、普通の国家ではミスリルを加工する術を持たないのだった。
つまりミスリルを採掘出来たとしても売り手が簡単には見つからないわけだ。
「ミスリルってそんなに加工が難しいの?」
「帝國にも加工出来る職人は1人しかいなかったと言えば難易度が分かる?」
「うわぁ~」
今は帝國の領土は半減してしまったが以前までは大陸の6分の1という広さがあって、その帝國に1人というのは相当なレアだ。
「おまけに加工するまでに凄く時間が掛かるのよ。ミスリルで剣とか作ろうと思ったら年単位の時間が掛かるわね」
「ひょっとして……」
今は帯剣していないがユメハの腕輪の中に収納されている聖剣を想像した。
「聖剣はミスリル製じゃないわよ」
「あ、違ったんだ」
「あれは伝説の金属と言われるオリハルコンで出来ているもの」
「……想像以上の代物だった」
オリハルコンはミスリルの完全上位互換と言える金属で、硬度も魔術への耐性も段違いの金属だ。
まさに伝説級の金属であり、現代の技術では加工どころか採掘や精製も出来ないとさえ言われている。
「硬度だけを考えるならアダマンタイトもありなんだけど、あれは重すぎるからね」
「比重が異常だよなぁ」
アダマンタイトも希少と言われる金属の1つだが、その特徴はミスリルを超える硬度を持っているが魔術への耐性がないこと。
だから魔術を使って加工が可能な金属ではあるのだが、問題になるのは金属としての比重だった。
地球でも金などは重い金属として知られていたが、アダマンタイトは金の30倍以上の重さを誇るのだ。
アダマンタイト製の剣とかあっても普通の人には持ち上げることも出来ない。
それに魔術への耐性が低いから魔術で加工は出来るが、逆に言い換えればアダマンタイトで防具を作っても魔術で攻撃されたら全く防げないということだ。
アダマンタイト製の防具を身に付けた奴なんて重くて動けないし、魔術の的にしかならない。
「そうそう伝説の武器なんて簡単には作り出せないって訳か」
「……あのね、リオ」
「ん?」
「私、この刀は十分伝説級の武器だと思うわ」
「…………」
あ、はい。魔法を使えば伝説級の武器くらい簡単に作り出せますよね。
まぁ、俺がユメハ以外の奴の武器に刻印魔法を使うことはないと思うから、事実上ユメハ専用だけどな。
「それより戦争は終わったんだから、新婚旅行の続きに行きましょう!」
「……戦時体制が解かれたらね」
確かに戦争は終わったのだが、それは直接的な戦いが終わったというだけでロトリア王国との戦後の話し合いが終わるまでは戦時体制が解かれることはない。
当然、サイオンジ公爵家も国外に出る許可は下りない。
「……私、戦争って嫌い」
「好きな奴は少数派だと思うよ」
好きなのは純粋に戦うのが好きな奴とか、戦争になると儲かると思っている奴くらいだろう。
「ふむ。俺達にはあんまり関係ないけど、条約破りをしてメタメタに負けたロトリア王国は帝國に多額の賠償金を払うことになると思うが……」
「あの国にお金はないし、代わりに支払える物と言えば……ミスリルくらいかしら?」
「だよなぁ」
本来買い手が付きにくいとはいえ、それでも本来は希少で高額で取引される金属なので賠償金代わりにミスリルが差し出されることになるだろう。
「帝國の国庫は空のままってことか」
「リオが使いたいならサイオンジ公爵家で買い取るわよ」
「……ミスリルを加工する自信はないなぁ」
魔法を使えば不可能ではないと思うが、それは逆に言えば可能であるとは言っていないわけで、加工は出来てもまともな製品が出来るかどうか非常に怪しい。
だから俺は特にミスリルが欲しいとは思わなかった。
◇◇◇
ミスリルが欲しいとは思わなかった俺なのだが……。
「どうしてこうなった」
「まぁ、今回もサイオンジ公爵家の戦果は絶大だったからねぇ。皇帝としても報奨を渡す必要があったから渡りに船とでも思ったんでしょう」
戦後の話し合いの末、予想通りにロトリア王国から賠償金代わりに譲渡されたミスリルは、そっくりそのままサイオンジ公爵家に流れて来た。
国庫が空なので、売れもしないが高額なミスリルを在庫処分としてサイオンジ公爵家に報奨として渡されたのだ。
「帝國に1人だけいるというミスリルを加工出来る鍛冶師のところに持っていけば良いじゃないか」
「その人なら同盟軍との戦争の時に戦死したわよ」
「…………はい?」
「鍛冶師らしく頑固な人だったみたいで帝都からは遠い地域に住んでいたんだけど、同盟軍が攻め込んできた時に巻き込まれたみたい」
「……避難させておけよ」
「普通なら国の重要人物だし真っ先に避難させられるんだけど……あの戦争は帝國から見れば奇襲だったからね」
「あぁ~……」
俺達は事前に状況を把握していたが、帝國から見れば完全に奇襲だったので帝國の端っこに住んでいた重要人物を避難させる余裕はなかったのだろう。
「というか奇襲されて慌ててたから、その人のことを思い出したのは戦後になってからみたいよ」
「……哀れな」
普通に考えれば帝國が最優先で保護しても良いくらいの重要人物なのに。
「そういう訳で、今の帝國にはミスリルなんて高額だけど場所を取るだけのお荷物って訳ね。ウチとしてもリオが居なかったら引き取ったりしなかったわ」
「はいはい。
ロトリア王国が溜め込んでいたミスリルは相当な量で、俺の
何トンあるのか調べる気にもならない。
(
喩え加工魔法が出来たとしても、これを全て使い切るまでに何年――何十年掛かるのか不明だけど。
◇◇◇
やっと戦時体制が解除された。
まだ加工魔法は完成していないけど、それよりも……。
「新婚旅行の続きに行きましょう!」
無粋な火山によって中断され、挙句に空気の読めない国の侵略によって延期になっていた新婚旅行の続きに出掛けることが出来る。
「それは良いけど次は何処に行く?」
「そうねぇ~……」
次は自然の多い田舎でのんびり過ごす予定だったが、具体的に何処に行くという話はまだ決まっていない。
そういう訳で俺とユメハはまた楽しんで計画を練ろうとしていたのだが……。
「今度は私達も一緒に行くわ♪」
「「…………」」
唐突に話に割り込んで来た世界最強の生物によって中断を余儀なくされた。
「えっと。流石にサイオンジ公爵家の当主を許可なく帝都の外に連れ出すことは……」
「今度は! 私達も! 一緒に! 行くわ!」
「…………」
どうしよう。誰か助けて。
前の新婚旅行の時も度々念話装置でユメハが話す内容から――家では旦那さんとラブラブだったらしいが、それでも羨ましいとは思っていたらしい。
だから次の機会があれば絶対に同行しようと思っていたらしく、俺の説得には全く応じてくれる気配がない。
というかニコニコ笑顔で俺の説得を聞き流している。
これはあきまへんわ。
ユメハにも助力を頼んだのだが……。
「もう面倒だから一緒に連れて行けば?」
「…………」
既に諦めムードに突入していた。
「……バレなきゃ良いか」
うん。俺も諦めることにした。
とは言っても帝都に緊急事態が起こった際の備えは必要なので、帝都に残る人材に念話装置を預けて何か起こったら連絡してもらう必要がある。
勿論、念話装置を預けるとなると信用出来る人材を選ばなくてはならないが。
帝都の人材で俺が一番信用出来る人材と言ったら、心情的にはセリナということになるのだが……。
「あの子は駄目」
「ですよねぇ~」
当然のようにユメハさんに一刀両断に却下された。
本当に洗脳を自力で解いて俺達との思い出を取り戻しているのだとしても、セリナが現状ではユニクス陣営の関係者であることに変わりはないし、それ以前に下手にセリナに関わることをユメハが許してくれない。
そうして色々と厳選した結果……。
「私ですか?」
冒険者ギルドの馴染みの女性職員にお願いすることになった。
冒険者ギルドに来ることになったので私は当然のようにアリサに変身しているし、今回はユメハも同行して来ている。
「あなたなら私の正体がバレているし、そもそも私やサイオンジ公爵家を敵に回してまで念話装置を分解して調べたりしないでしょう?」
「……そうですね」
私の作った念話装置は魔法を基準として作られているので、どんなに優れた魔術師であっても解析することなど容易ではないだろうが、それでも下手に分解されたり権力者の手に渡ったりするのは面倒だ。
だから私は極個人的な知人として冒険者ギルドの女性職員にお願いしてみたのだけれど……。
「分かっているとは思うけど、それは備品のような物であってプレゼントじゃないのよ?」
「ひぃっ! わ、分かっています! 分かっていますから、その殺気を止めてくださいぃ! 本能的に震えが止まらないんですけどぉ!」
イヤリングとネックレスのセットである念話装置を渡す際にユメハさんが女性職員を目一杯威圧していた。
涙目になって私に助けを求める女性職員には悪いが、私には視線を逸らすことしか出来ない。
「そういえば私、あなたの名前も聞いたことがなかったわね」
とりあえず女性職員の名前も知りませんアピールをするくらいだ。
「あ。私はアリサさんの専属受付嬢を担当しておりますサリーアと申します」
「……なんで答えるかなぁ」
「ひぃっ!」
折角、私との関係は薄いとアピールしたのに、自己紹介をしたことによって益々ユメハさんの殺気が濃くなってしまった。
サリーアは空気を読むのが苦手らしい。
ユメハを宥めて連れ帰るのは大変だったよ。
アリサの時はエミリオの時のように抱き締めて耳元で愛を囁くとか出来ない――というか効果が薄いので下手に挑発しないで欲しい。
◇◇◇
そうしていよいよ新婚旅行に出発することに……。
「うぅ~ん。私としてはこっちの方が良いと思うのよね」
「でも、こっちも捨てがたいと思うわ」
「さっきも言ったけど、それは……」
「それは分かっているけど、やっぱり……」
なっていなかった。
新婚旅行の行先についてユメハとユキナさんの話し合いが一向に終わらない。
特に言い争っているわけでもないし揉めているわけでもないが、選択肢が多過ぎてあっちこっちに意見が彷徨って全く纏まってくれない。
「そんなに迷うなら、恨みっこなしのくじ引きで決めたらどう?」
「「…………」」
とりあえず妥協案を提供したら2人は無言で見つめ合ってから――無言でくじを作り始めた。
どうやら採用されたらしい。
「それじゃ私が引くからね」
「待ちなさい。ここは家長である私が引くのが相応しいと思うの」
「……私達の新婚旅行なんだから私が引くのが道理じゃない」
「……私達も同行するのだから引く権利はあると思うの」
「「…………」」
どうしてこの2人は引いたり譲ったりといった発想が欠けているのだろうか?
「えいっ」
もう面倒なので俺がくじを引いてしまうことにした。
「「あぁ~っ!」」
結果として俺は2人にブーブー文句を言われることになったが行先は決定した。
◇◇◇
今回の旅行先は森の中に巨大な湖があって、その湖の傍に存在する小さな町だった。
予定通り森と湖のある自然の多い田舎だ。
ちなみに、この森は過去に魔物の領域だったことがあるが、既にSクラス冒険者によって魔物を殲滅された上に領域の守護者も討伐済みなので魔物は存在しない。
俺達がのんびり過ごすには悪くないチョイスと言えた。
おまけに、ここは別荘地としても有名な場所なので、金さえ払えば湖の付近に建てられた別荘をレンタルすることも出来る。
勿論、俺達は金に余裕があるので別荘をレンタルして……。
「それでは4名様でご利用に……」
「「いいえ。2人用を2組お願いします!」」
「……2名様を2組ご用意させていただきます」
別荘を管理する業者に無理を言って2棟借りることになった。
ユメハとしてもユキナさんとしても夫婦水入らず以外の選択肢を選ぶことはあり得ないしねぇ。
そうして俺とユメハは案内された別荘の中の設備を確認していた。
「ここは町から離れていないから必要と思えるものは注文すれば届けてもらえるし、悪くない場所だったな」
「むぅ。お母さん達の別荘の隣かぁ」
今の時期はあまり別荘を借りる客が少ないらしく、管理しやすさを優先させたのか俺達とユキナさん達が止まる別荘は隣接していたのがユメハは気に入らないらしい。
隣接していると言っても100メートル近く離れているので何が問題なのか分からないけど。
夜中に大きな声を出しても流石にあそこまでは届かないだろうし。
「…………」
密かに寝室を確認してみたけど、窓やベランダはあるけど大丈夫だと思う。
うん。流石のユメハでもここから隣に声が届かせるのは難しいだろう。
大丈夫、大丈夫。
「あ。リオがエッチな顔してるぅ♪」
「……ソンナコトネェシ」
でも夜は期待してます。
別荘からは大きな湖が見えて、昼間は太陽の光を反射してキラキラ光って綺麗だった。
俺とユメハは別荘のベランダに備えられたデッキチェアーに座って寄り添いながら飲み物を飲みながらのんびりとそれを眺めていた。
「綺麗ね」
「……ユメハの方が綺麗だよ」
「~♡」
転生神が覗き見していたら砂糖を吐きそうなくらいイチャイチャしながら。
今回の新婚旅行でも気が向いたら森や湖を散歩に行くことにして、焦って観光することなく基本は2人でイチャイチャして過ごす予定だし。
ちらりと隣――ユキナさん達が泊まっている方の別荘に視線を向けてみるが、心なしが別荘からピンクの♡マークが溢れ出しているように見える。
うん。あっちには近付かないでおこう。
俺達とは年季の違うレベルのイチャイチャを見せつけられて自信を失いそうだ。
◇◇◇
別荘の設備に欠点は見当たらなかった。
流石に温泉までは湧いていなかったが、2人が余裕で入れる広いお風呂はあったので夜にはいつも通りに2人でイチャイチャしながら入れたし。
夕食は頼めば町からデリバリーしてくれるという話だったが、俺の
ユキナさん達の方はデリバリーを頼んだのか、配達の人が2人のラブラブオーラに充てられてフラフラになって帰っている姿を見かけたが。
冗談抜きで砂糖を吐きそうな顔をしていた。
俺達も相当イチャイチャしているつもりだが、流石にあの夫婦には色々な意味で勝てる気がしない。
これが年の功という奴だろうか?
「ひぃっ……!」
何処からか想像を絶する悪寒が飛んで来て俺は反射的に身震いをしてユメハに抱き着いた。
「ど、どうしたの?」
「……寒いから温めてください」
「もう♡ 仕方ないわねぇ♡」
世界最強の生物から飛ばされて来た悪寒に対抗する為に奥さんに愛で温めてもらうことにした。
うん。迂闊なことは考えないようにしよう。
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