第14話 『海水浴に行って水着姿の嫁を堪能する』
その時、俺が目を開けると目の前に光の玉が浮いていた。
《やぁ。久しぶりだね、我が友よ》
そして、その光る玉からは転生神の声が響いて来た。
俺は困惑と混乱の中間くらいの状態に陥りながら周囲を見渡すと――明らかに現実ではありえない光景が広がっていた。
なんというか夢に出てきそうな風景?
《うん。察していると思うけど、ここは君の夢の中で、君は今奥さんを抱き締めながらグッスリ眠っている最中だよ》
「ですよねぇ~」
《それと今回のこれも録音なので返事は出来ないのであしからず》
「忙しそうなのに案外マメだな」
笑って良いのか感心して良いのか分からない感情の俺は転生神からのメッセージの続きを聞くことにしたのだが……。
《……ということなんだよ! 酷いと思わない? 職権濫用だよ!》
「そうですねぇ~」
今回はどんな重要なメッセージなのかと思って聞いていたが、転生神の話は主に愚痴だった。
そういえば公平を重んじる神だし、愚痴を漏らせる相手なんて俺くらいしかいないのだろう。
まぁ、俺にも全く関係のない話って訳でもなかった。
どうやら地球の神がまた余計なことをしたようで、地球で死亡した人間の魂を回収して転生神の領分である転生を実行して、チートな能力を付与してこの世界に送り付けたようだ。
転生神によれば、俺がこの世界で活躍しているのを地球の神が覗き見て、それで面白そうだと思って自分でも実行してみる気になったのだろうということだった。
「死ねば良いのに」
目の前に地球の神が現れたら速攻で神殺しの弾丸を食らわせて弾丸の補充をしてやるのに。
前に生贄になった8柱の神々は小物過ぎて1柱に付き1発の弾丸しか補充出来なかったが、大物の神なら1柱で1マガジンなんてこともあり得るので出来るなら大物が現れて欲しいものだ。
1発消費して1発補充では割に合わないし。
《そういう訳なんで、あいつらが娯楽として君と競い合わせようとするだろうからチートな能力を持った相手には気を付けてね》
「あいあい」
《それでは今回も友として君の未来に幸せが訪れることを祈っているよ。転生神より》
「…………」
《追伸:奥さんが美人だから写真を撮りまくるのは止めないけど、人に見せられないような煽情的過ぎるポーズを求めるのは将来黒歴史になるから控えた方が良いよ》
「余計なお世話ですわ!」
やっぱり最後に余計な追伸が入って綺麗にツッコミを入れてしまった。
良いじゃねぇかよ。誰に見せる訳でもないんだから奥さんにエッチなポーズを要求したって。
◇◇◇
クーデターが無事に収束して1週間ほどが経っていた。
廃嫡になった3人は城の外部に建てられた塔の中に幽閉され、真の黒幕であろうユニクスは表面上は大人しくしているらしい。
勿論、ユニクスが帝位を諦めただなんて俺もユメハも欠片も思っていないけど。
それは兎も角として……。
「これ、ちょっと露出が多過ぎない?」
「大丈夫! プライベートビーチには俺達2人だけで行く予定だから誰にも見せる予定ないし!」
「そ、それなら……良いかな?」
ユメハは現在、水着デートの為に俺が色々と作った水着を試着中だったりする。
勿論、場所は帝都の水着を売っている店などではなく、サイオンジ公爵家の中に用意された俺とユメハの自室だ。
「こっちに目線よろしく!」
「こ、こうかしら?」
「いいよ、いいよぉ! そのポーズ最高に綺麗だ!」
「えへへ♪」
そして当然のように俺は水着姿のユメハをカメラ魔法で撮りまくっていた。
え? 転生神の忠告はどうしたのかって?
こんな楽しいことは将来の俺に苦労を丸投げにしてでも止められませんわ!
今日もパシャパシャとユメハを撮りまくり、俺が
◇◇◇
今日は絶好の海水浴日和だった。
俺は以前からプライベートビートとして準備してきた人気のない海辺に敷物を敷き、ビーチパラソルを立て、冷たい飲み物を用意する。
「うわぁ~、海って凄いのねぇ」
そして隣には水着姿の美人の奥さん。
この世の中にこれ以上に贅沢なことがあるだろうか? いや、ない!
「ささ。日に焼けないように日焼け止めを塗ろう」
「……うん」
俺が誘うとユメハは頬を赤く染めながらも素直に頷いて、ビーチパラソルの下の日陰にうつ伏せになって――ビキニの水着の紐を自ら解いた。
夫が妻の身体に日焼け止めを塗るのも海水浴の醍醐味だよね♪
俺は丁寧に、丁寧にユメハの身体に特性の日焼け止めを塗り込んでいく。
「んぅっ♡」
穿いたままの下の水着の中にまで手を差し入れて身体の隅々まで、じっくり塗り込んでいく。
うん。奥さんの綺麗な肌が日焼けで痛んでしまうなんてことを許容することは出来ないのだ!
決してエロ目的だけの為じゃないんだ。3割くらいは真面目なんだ!
「それじゃ身体の前にも塗ろうか」
「……はい」
ユメハは恥ずかしがりながらも身体を仰向けにして――流石に両手で胸は隠していたが日焼け止めを塗るという大義名分で手をどけてじっくりと鑑賞させてもらう。
(素晴らしい!)
ユメハの胸は――おっぱいはもう俺の両手にギリギリで収まるかどうかという大きさまで成長している。
毎晩のようにベッドでは揉んでいるけど、太陽の下で改めて眺めてみれば理想的と言っても良いくらいの美乳だった。
これが俺の奥さんなんだぜ? 羨ましいだろ。
「リオ。その……早く塗って」
「任せろ!」
そして俺はユメハの要請を受けて再びじっくりと日焼け止めを塗り始めた。
この世界の人間は基本的に海水浴なんてしない。
何故なら海というのは地上以上に魔物の活動が盛んで、海辺で泳いだりすれば高確率で魔物に襲われて食われるからだ。
俺がプライベートビーチに選んだ場所も例外ではなく、この海にも魔物が大量にいたのだが――この日の為に開発した結界魔法によって半径10キロの範囲には近寄れなくなっている。
と言うか相手が人間であっても俺とユメハ以外の人間は入れないように設定した。
俺の奥さんの水着姿は俺だけのもので、誰であっても見せるつもりはないのだ。
そういう訳で俺とユメハは海で泳いだり、水のかけっこをしたり、時には海の中で抱き合ってイチャイチャしたり、目一杯海水浴を満喫出来た。
勿論、日帰りするつもりはないので、夜には
旅先のユメハは普段とは少し雰囲気が違っていて、俺は夢中になってユメハを求めてしまった。
◇◇◇
3日ほど海水浴を満喫して満足して帝都の家に帰ったら……。
「おかえりなさい」
「「…………」」
何故かお怒りモードのユキナさんが怖い笑顔で俺とユメハを出迎えてくれた。
(え? え? なんか怒られるようなことしたっけ?)
(し、知らないわよ。今回はちゃんと近衛騎士団にも休暇届を出したし、怒られることなんてしてないもん)
原因が分からなくて小声でユメハと相談するが、やっぱり何故怒っているのか不明だった。
「あなた達……」
「「ごくり」」
そして話し始めたユキナさんに俺とユメハは緊張でつばを飲み込み……。
「海に行くなら私達も誘ってよぉ!」
「「…………」」
思わず思考が止まって頭の中が真っ白になった。
「分かっているのよ、あなた達が海に遊びに行っていたことくらい! 方法はあえて追及しないけど内陸の帝國の帝都から外海のある海まで遊びに行っていたってことは見れば分かるのよぉ!」
「「…………」」
「でも海に遊びに行くのは良いのよ! きっとエミリオ君が何かしているんでしょうし、転移とか便利そうだと思うけど、そういうことじゃなくて!」
(バレテーラ)
現時点で世界最強の生物であるユキナさんには俺の下手な隠し事は通用していなかったらしい。
何処まで知っているのか知らないけど、この様子だと俺=アリサだということには気付いていそうだ。
「私もダーリンと海でデートしたかったわ!」
「「…………」」
まぁ、ユキナさんが言いたいことはその一言に集約されているらしい。
要するに『遊びに行くなら私達も誘え』ってことだ。
「いや。でも夫婦水いらずで遊びに行ったわけですし」
「別に邪魔はしないわよ。私だってダーリンと二人っきりで遊びたいし」
「……次は誘います」
「今から!」
「…………はい?」
「今から海に行きたいの! だから送って頂戴!」
「……サイオンジ公爵家の当主が帝都を離れて大丈夫なんですか?」
「3日くらいなら隠し通せるから3日後に迎えに来てね♪」
「あ、はい」
要するに3日間を俺達で何とかしろというわけですね。分かります。
そうして準備万端だったユキナさん夫妻をプライベートビーチに送り、海水浴セット一式とお泊りコテージを出して、結界魔法を維持してから家に戻る羽目になったのだった。
そうして何故かクタクタに疲れて家に入ってから……。
「なんとなくだけど、私達が愛し合ったベッドをお母さん達が使うと思うと……複雑」
「あ」
疲れていたから忘れていたが、あのコテージは俺達が使った物だった。
というかコテージを2つも3つも用意していないので当然と言えば当然だけど……。
「確かに複雑だ」
あのラブラブ夫婦が夜に寝るだけとは思えないし、俺達が愛し合ったベッドで義理の母親夫婦も愛し合うのかと思うと――物凄く複雑な気分だった。
ちなみに3日後に迎えに行ったらユキナさんはツヤツヤになって帰って来た。
どうやら彼女達は俺達以上に海水浴を満喫して来たらしい。
分かっていたことだけど俺達とは夫婦のレベルと年季が違うようだ。
◇◇◇
今日も今日とてユメハが近衛騎士団の訓練に行ってしまったので私はアリサに変身して冒険者ギルドに向かうことにした。
クーデターの影響も特になく相変わらず閑散としているし、職員は私にSクラスの昇格を促してくる。
とはいえ、これらは毎度のことなので特に事件らしい事件は……。
「最近、国境沿いが不穏みたいですねぇ」
顔馴染みの職員によってもたらされた。
「帝國に侵略を仕掛けてくるような国に心当たりが?」
「まだ唯の噂話で裏を取ったわけではないんですけど、北と東の国境付近で小競り合いが頻発していると聞いています」
「北と東? 2ヶ所同時?」
「いえ。北の複数の国境と東の複数の国境です」
「…………」
帝國の領土は広いので北に面する国は複数存在し、当然のように国境も複数存在する。
そして東にも同様に複数の国と国境を接し、複数の国境がある。
「まさか連合軍が組織されたのでしょうか?」
「……唯の噂話ですから」
連合軍というのは正確には対帝國連合軍であり、過去にも複数の国が協力して一斉に帝國に攻め入って来たことがある。
もう10年以上も帝國側から侵略戦争が行われておらず、その間に周辺の国家が国力を回復して侵略作戦を練っているのだとしたら……。
「厄介なことになりそうですね」
「……まだ唯の噂話ですから」
噂話だとしても複数の国家からの同時攻撃には備えておくべきだろう。
「その噂なら私も聞いたわ」
家に帰ってからユメハに話してみたのだが、近衛騎士団の間でも国境が不穏な空気を醸し出していることは噂になっているらしい。
「今は調査を最優先しているけど、本当に連合軍が同時侵攻作戦を考えているなら私も出ることになるわね」
サイオンジ公爵家は他国への侵略戦争にはノータッチだが、帝國へ侵略する国家への防衛には動く。
帝國の守護者の名前は伊達ではない。
「……Aクラス冒険者を雇える予算はあるか?」
「冒険者を防衛軍に参戦させるのは難しいかなぁ。冒険者は冒険者ギルドに所属しているという体裁だし、冒険者ギルドは帝國に所属している組織じゃないから」
「むぅ」
俺がAクラス冒険者アリサとして参戦するのは難しいらしい。
「まだ噂の審議を確かめているような状態だし、本当に連合軍が攻めてくるか分からないんだから心配するのは早いわよ。それに……本当に防衛戦争になるならあんまり時間は掛からないと思うし」
「なんで?」
「だって、防衛戦争になったらサイオンジ公爵家が動くのよ?」
「あ」
うん。考えるまでもなくサイオンジ公爵家が参戦するということは世界最強の生物が――ユキナさんが動くということだ。
彼女が参戦するなら確かに短時間で終わりそうですわ。
◇◇◇
翌日。
今日もユメハが近衛騎士団の訓練に出掛けた後、私はアリサに変身して転移魔法を使って国境を超えて情報収集に出掛けた。
国境と言っても国と国の間に壁があるわけではなく、それぞれの国の国境付近に砦が建てられて外からの侵入を見張っているだけだ。
壁が作られない理由は帝國の領土が広大な為に、壁を作るとしたら万里の長城みたいなのが必要になって金も時間も膨大に必要になってしまうから。
それに帝國は領土的野心を持っているので、まだまだ広がるかもしれないのに今の時点で壁を作る意味がないからだ。
私は
ここはトラニア王国のラタゾという名前の街らしい。
トラニア王国は帝國と比較すれば小さな国だが、それでも一般的な国の国土からすれば平均より大きな国だった。
このラタゾという街は国境に近い為か、街の入り口には門番が居て、中に入る為には身分証を提示する必要があった。
勿論、私は冒険者である証のプレートを提示したのだが……。
「Aクラスだとっ!」
私のプレートを確認した門番は目を見開いて驚いていた。
そしてプレートと私を交互に見て、それから訝し気に顔になる。
「……本物か?」
「仮にもAクラス冒険者である私の機嫌を損ねて、あなたに何か得でもあるのですか?」
確かに私はAクラス冒険者にしては若すぎるかもしれないが、冒険者ギルドが製作を極秘にしているプレートの偽物を作り出すなんて不可能だ。
もしも、そんなことが出来れば、それだけで商売になる。
「ああ。証明が必要なのでしたら、あなたを消し飛ばして見せましょうか?」
「っ! 失礼しました」
Aクラス冒険者を敵に回す危険性を察知したのか、門番は青褪めた顔で私の通行を許可した。
街の中に入った私は冒険者ギルドへと向かう。
今のところアリサで情報集出来る場所と言えば冒険者ギルドくらいしかないからだ。
通行人に冒険者ギルドまでの道を聞き、
この魔法、私が意図した訳じゃないけど拡大縮小が出来る上に、上空から見ているようにリアルタイムの情勢が映し出されるのだ。
監視衛星があるわけでもないし、どういう原理かは不明なのだが――魔法だからということで納得しておく。
お陰で迷うことなく冒険者ギルドには辿り着けたのだが……。
(混んでるなぁ)
この街の冒険者ギルドは帝都の冒険者ギルドと比べて非常に賑わっていた。
まぁ、この街の冒険者ギルドが混んでいると言うより、帝都の冒険者ギルドが閑散としすぎというのが本当のところだけど。
私とユメハが最寄りの魔物の領域を解放した影響で冒険者の流出は未だに収まっていない。
試しに掲示板に張られている依頼表を確認しているが……。
(色々あるなぁ)
想像以上に仕事はありそうだった。
この街で情報を集める際にAクラス冒険者という肩書きだけではなく、仕事をして実績を示して聞き出しやすくしようと思ったのだが、これなら仕事の奪い合いにはならずに済みそうだ。
だが多過ぎて逆に迷う。
どうしたものかと依頼表を眺めていたら――キングミノタウロス討伐の依頼表が目に入った。
ミノタウロスというのは牛系の3メートルを超える魔物なのだが、キングミノタウロスは上位種で5メートルを超える。
(これでいっか)
私はキングミノタウロス討伐の依頼表を掲示板から剥がし……。
「それはBクラス冒険者推奨の依頼だよ」
すぐ横から声を掛けられて困惑する。
横に人が居ることには気付いていたのだが、まさか声を掛けられるとは思っていなかった。
横に視線を向けると背の高い、妙に顔の良い金髪碧眼の男――要するにイケメンが私に向けて微笑んでいた。
だが女の身体になったとしても本質的には男である私から言わせれば――ケッと言って吐き捨てたい。
「何か問題が?」
「Bクラス冒険者推奨ということは、通常はBクラス冒険者がパーティを組んで受ける依頼ということだよ。見たところ君に仲間はいないみたいだし、ソロで受けるならAクラス冒険者でもないと無謀だと思うよ」
ここで私がAクラス冒険者であることを表明しても良かったのだが……。
「「「…………」」」
こいつの背後から3人の女達が私を睨みつけているのを見て気が変わった。
「そういう忠告をしてくるということは腕に自信があるということですよね? なんなら一緒に依頼を受けますか?」
「ああ。勿論、構わないよ」
うん。仲間と思わしき女達の前で恥をかかせてやろうかな♪
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