第11話 『魔術師→魔法使い→魔王』
何処かで見覚えのある真っ白の神殿。
《やぁ。久しぶりだね》
「……転生神」
そして、その見覚えのある場所で懐かしい顔が俺を待っていた。
「俺は……また死んだのか?」
《いや。君が魔術を超えて魔法の領域に足を踏み入れたから、意識だけが新しい世界に旅立とうとしたんで僕がインターセプトしてみただけだよ》
「えっと……?」
《本来、あの世界で魔法の領域に足を踏み入れると魔法使いの領域と言って神の世界に近い世界に飛ばされることになるんだ。その際にちょっとタイムラグがあったから割り込んでみたんだよ》
「簡単に言ってくれるが流石神の御業だなぁ」
《君が魔法使いの領域で先達の魔法使い達と戦って勝つには練習が足りないと思ったからね》
「……どうして戦うと思う?」
《戦うさ。君は愛する奥さんを置いて別の世界に旅立つことを容認する性格じゃない。先達の魔法使いを皆殺しにしてでも元の世界に帰ろうとする筈さ》
「…………」
うん。その状況なら確かに――戦うだろうな。
《とは言っても、それ程時間はないからね。君が魔法を使いこなせるようになるまで待っているわけにはいかない》
「つまり【こっち】で何とかしろってことか?」
《そうそう。そういうこと》
異世界で辿り着いた魔法ではなく、地球で集めた負のエネルギーが形となって具現化した物質。
《君が望んで君が作り出した代物だ。使い方は分かるだろうけど……燃料が足りないだろ?》
「魔力で代用するにしても……効率が悪過ぎるな」
《うん。だから丁度良いのを用意しておいたよ》
そう言って転生神が俺に差し出したのは――常軌を逸した代物だった。
色々あって無事に燃料を確保し終わり、更に転生神と近況などを話し合ってから暫く。
《そろそろ時間だね。君はここと似た世界……魔法使いの領域に飛ばされて先達の魔法使いと対峙するだろう。今の君なら余裕だと思うけど……油断しないでね》
「……ありがとよ」
以前に来た時に公平を崩すのは今だけだと言っていたが、地球の神が俺に仕出かした理不尽な行いに対してまだイーブンだとは思っていないのだろう。
これからずっとというわけにはいかないと思うが、それでも今のこいつは俺の――友達だ。
《そうだ、友よ。今だけは僕は公平を崩し……君の未来に幸せが訪れることを祈っているよ》
「ああ、またな」
そして俺は神の領域から意識が流れていき……。
◇◇◇
気付いたら薄汚れた神殿の前に立っていた。
いや。薄汚れたというのは、あくまで神の領域と比較しての話で、普通に考えれば白い神殿なのだろうけど――俺には比べるのも烏滸がましい劣化版に見えた。
「ようこそ、魔法使いの領域へ」
「ふん。今度のは随分と若いな」
「見た目で年齢を測っても無意味だと分かっているでしょう?」
「……だが、頼りないな」
そして、そこでは4人の男女が俺を待ち受けていた。
「ここが魔法使いの領域ということは……俺は魔法使いになったということか?」
「説明されなければ、そんなことも分からんのか?」
4人の内に1人、老人の見た目の男が俺を見下すように言い捨てる。
「お前達は俺の先達の魔法使いということか?」
「見れば分かるでしょう?」
4人の内の1人、老婆の見た目の女が肩を竦めて呆れている。
「どうして俺はここにいる?」
「そんなことは自分で考えなさい」
4人の内の1人、少女の姿をした女が俺を厳しい目で見ている。
「どうして俺をここに呼び出した?」
「別に僕らが呼んだわけじゃないよ」
4人の内の1人、少年の姿をした男が投げやりに答える。
そうして一通り質問が終わって俺が決断を下す。
「では、今からお前らを始末するが……構わないな?」
「「「「は?」」」」
転生神の助言通り、俺を明らかに下と見ている4人を殺すことにした。
「馬鹿なの? たった今魔法に目覚めたばかりのヒヨッコが私達に勝てるとでも思っているのかしら?」
「勝てるさ」
「この神界は先達である我らの領域だ。貴様など指先1つで吹き飛ばせるぞ」
「ここは神界なんかじゃない」
「……どうして断言出来る?」
「本物の神界に行ったことがあるからだ」
「……なんだと?」
「お喋りはここまでだ」
そうして俺は右手に【それ】を出して構えた。
洗練された形状を持つ15+1発の装填数を持つ自動拳銃。
生まれてこの方銃など持ったことはないが、俺に合わせてカスタマイズされているのか手にしっかりとホールドされている。
「ははっ、何それ? そんな物で僕達を殺せると本気で思っているの?」
「…………」
既に会話の時間は終わっているので俺は躊躇なくあざ笑った少年の姿の男に向けて引き金を引いた。
パン! と乾いた銃声を上げて弾丸が銃口から飛び出して行き、その射線上に居た少年の姿の男は片手を上げて結界を構築して――頭を吹っ飛ばされて死んだ。
「「「……は?」」」
唐突に死亡した少年の姿をした男の現状が理解出来ないのか残りの3人は呆然と立ち尽くす。
待っていてやる義理もないので2発目を撃って――老人の姿をした男の頭を同じように吹っ飛ばして殺した。
「ど、どういうことよ! 魔法使いになった私達がこんなに容易く……!」
更に3発目を撃って喚いている老婆の姿の女を狙う
「舐めるなっ!」
俺の攻撃が防御不能だとは理解したのか、老婆のような女は全力を回避に注ぎ込んだ。
老婆のような女は俺が撃った弾丸を回避して――追いかけて――回避して――追いかけて――回避して、回避しきれずに頭を撃ち抜かれて死亡した。
「なんなのよ、それ。なんなのよ、それ! なんなのよぉ、それぇっ!」
最後の少女のような女が煩いので冥途の土産に特別に教えてやることにした。
「神滅兵器【
まぁ、神を殺す特攻兵器なので相手が魔法使い程度では全ての力は解放されないが、それでも十分過ぎる威力だ。
うん。俺の中の負のエネルギーが形を成した結果、出来上がったのが【これ】だったのだ。
俺の中で16年も眠っていて、ついさっき完成したばかりの神殺しの銃。
狙った対象の力に比例して弾丸の威力が倍増するし、避けようとしても何処までも追いかけて行くし……。
「冗談じゃないわよ!」
最後に残った少女の姿をした女は超高速で逃げ出した。
それは光速と言っても過言ではない速度。
恐らく、これが魔法を使った成果なのだろうけれど……。
「無駄だ」
神滅兵器【
4発目の弾丸は光速に近い速度で逃げ出した少女の姿をした女の倍の速度で飛んで行って――頭を吹っ飛ばして殺害した。
「ふぅ。転生神が弾丸を用意してくれなかったら危なかったな」
簡単に勝利したように見えるけれど、それは神滅兵器を運用することが出来たからだ。
確かに俺の中にあった負のエネルギーが形を成して具現化したのが神滅兵器【
そして、このマガジンに弾丸を装填する為には――神を殺して魂を奪う必要があった。
代案として俺自身の魔力を弾丸として撃ち出すことも不可能ではなかったが、それだと本来の能力を発揮しないし、何より魔力効率が恐ろしく悪い。
俺が深層意識の溜め込んだ全ての魔力を使っても1発撃てるかどうかという効率の悪さだ。
それを知っていたのか転生神が弾丸を――生贄となる神を用意してくれていた。
地球には
それは言葉の綾ではなく、実際に地球には無数の神が存在して、そして大多数の神が参加する不毛な会議を経て、俺を使って不運を集めて地球の絶対幸福値を上げるという計画が実行に移された。
その中でも主要神物となった8柱の神々。
こいつらは俺に続いて次の不運を集める機構を埋め込む生贄を探していたところを転生神に捕らえられ、俺への生贄として差し出された。
《僕としては前回見逃してしまったことを後悔しているくらいだし、これ以上彼らに好き勝手にさせる気もなかったしね》
そんなことを言っていたが、俺の為に行動して不要になった神を用意してくれたのだろう。
お陰で俺は力を失った神々に対して深層意識に残る魔力を8分割して力のない弾丸を作り出し、それで8柱の神を仕留めて魂を奪うことに成功した。
まともな神が相手なら俺の全魔力を1発の弾丸に注ぎ込んでも足りるか不明だったが、力を失った神が相手なら8分割しても余裕過ぎる。
こうして俺は前世で散々苦しめられた相手に復讐を果たすと同時に、神滅兵器【
その内4発を使って魔法使い4人を倒したわけだ。
相手が神ではなかったので明らかにオーバーキルだったし、魔法使い程度が相手では殺しても弾丸を装填することも出来なかったが――今回のことは必要経費とでも思っておこう。
「さてと……」
《おっと。帰る前に1つ忠告だよ》
そろそろユメハの元へ帰ろうと思ったら光る球体が何処からともなく飛んで来て転生神の声が響く。
「お前、どうやってここに……」
《最初に言っておくと、これは君の認識で言う録音みたいなもので、これに何かを話し掛けても僕は回答出来ないからそのつもりで聞いてね》
「…………」
どうやら転生神の意識がやって来たのではなく、事前に仕込んだ録音を送って来ただけらしい。
《話というのは他でもなく、君が負のエネルギーから作り出した神滅兵器【
「ですよねぇ~」
文字通り神を殺す兵器を作り上げてしまったのだから、それ以外に心当たりはない。
《ああ、勘違いしているかもしれないけどアレを作り出したことを怒っているわけじゃないんだ。地球の神が君にしたことを思えば当然の報復手段だと思うし、神が不滅だなんて前々から不公平だと思っていたからね》
「相変わらず公平を重視するんだな」
《だから問題なのは名前なんだよ。君も気付いていると思うけど【
「うわぁ~、嫌な予感」
《うん。つまり、魔王の名前を冠する兵器を所持する君は……正真正銘の魔王として神々から認識されることになったってことだね》
「ですよねぇ~」
いや、なんとなく予想はしていたんだよね。
神をも殺すような兵器がまともな人間の手に渡るわけがないって。
俺ってば魔術師どころか魔法使いを超えて、いつの間にか魔王になっちゃってました。
《だから行動にはくれぐれも気を付けてね。下手に君が世界征服とかしちゃうと他の神々が君を討伐する為にチートな勇者をダース単位で送り込んだりするから》
「……それはマジで勘弁」
マジもんのチートを持った勇者がダース単位で襲ってくるとか悪夢以外の何物でもない。
《それじゃ、あの世界での君の幸運を密かに祈っているよ。君の友……転生神より》
「…………」
《追伸:新婚だからお嫁さんとイチャイチャするなとは言わないけど、覗いている方は砂糖を吐きそうだったよ》
「覗いてんのかよぉっ!」
最後に余計な一言が混ざっていたが友の伝言は素直に受け取った。
転生神は公平な神だが、まだ俺が地球の神から受けた理不尽な仕打ちをイーブンに出来ていないと思っているのか、俺にだけは贔屓にして友として扱ってくれるのが少し嬉しかった。
◇◇◇
そうして俺は気付けば元の世界の元の場所に立っていた。
「リオ? どうしたの?」
そして神の領域や魔法使いの領域での出来事は時間が経過していないのか、俺の傍に居たユメハは俺の様子を見て困惑している。
「ユメハ、俺……魔法使いになったよ」
「?」
勿論、DTのまま30歳を超えたという意味ではない。
とりあえず今夜にでも――ベッドの中でユメハには色々と話しておこうと思う。
魔法が使えるようになったと言っても、実際にはこれから魔法を使えるよう研究する必要があるし、試行錯誤も必要だろう。
けれど俺が望んでいたユメハと肩を並べることくらいは出来そうだ。
◇◇◇
翌日から俺は予定通り魔法の研究を開始した。
まずは今使える魔術を全て魔法へと組み替える作業をすることになる。
同じ効果でも魔術と魔法ではどう変わるのか調べる必要があるし、威力や効率なんかも変わるのか知る必要がある。
さしあたっては
「うぅ~む」
朝から研究を始めて昼になった時点で俺は唸り声を上げていた。
いや。別に研究が上手くいっていないわけではないが、あまりにも自由度が高くなり過ぎて着地点を見失っていたのだ。
魔術と魔法の違いを一言で表すならば自由度と魔力効率が段違いだった。
今までも俺は詠唱や刻印の法則を組み替えて色々と便利な魔術を開発してきたつもりだったが、魔法になるとその自由度が大幅に増えて出来ることが一気に増えてしまう。
以前、俺とユメハが八岐大蛇と戦った時、俺は戦闘中に轟雷魔術を組み上げて行使することになったが、あの時はユメハが1人で八岐大蛇を抑える羽目になって冷や冷やしながら組み上げに苦労したものだ。
それが魔法になると『こういう魔法が使いたい』と頭の中でイメージして必要な魔力を送り込めば、それだけでイメージは現実となって発動してしまう。
それくらい魔法というのは自由度が高く、おまけに魔術と比較して消費する魔力が少ない。
つまり俺は出来ることが増えすぎて悩んでいるのだ。
「贅沢な悩みだ」
とはいえ、あまりにも選択肢が多過ぎて完成図がイメージ出来ないのは困りもの。
「とりあえず
そうしてチョイチョイと改変を実行して……。
「……出来た」
あっさりと完成してしまった。
性能も完全に上位互換となっており、全ての防御性能は勿論だが、魔力消費も大幅に減少している。
これなら外部から魔素を取り込む機構を付けなくても俺の魔力には余裕が生まれる。
まぁ、昨日の出来事で今まで深層意識の部屋に貯め込んでいた魔力はスッカラカンになってしまったので魔力は極力節約する方針だけど。
「それにしても簡単に出来るな」
魔術を魔法に改変するのはもっと大変かと思っていたのだが、既に魔術として理論が確立しているので、それをそっくりそのまま魔法というカテゴリーに入れ替えて、余裕の出来たスペースを使ってパワーアップするだけで上位互換として完成してしまう。
それから俺の手持ちの魔術を全て魔法に改変してみたが、半日も掛からなかった。
魔法使いの領域に居た魔法使い達は、あそこで研究や実験を繰り返していたみたいだが、こんなに簡単な作業に何を必死になっていたのだろう?
思わずそう思ってしまうくらい、魔術を魔法にするのは簡単だった。
まぁ、これは俺が魔法使いになったから思うことかもしれないが。
それに魔法使いになる為の道は千差万別で色々な方法があるので、俺とは違う方法で魔法使いになったのだとしたら思ったより研究は進んでいなかったのかもしれない。
夕方にはユメハが帰って来た。
「ただいま♡」
近衛騎士団の訓練は今日も退屈だったのか、帰って早々に俺に抱き着いて甘えてきた。
勿論、俺はユメハを抱き返し、そのままお帰りのキスを……。
「はいはい。そういうのは部屋に戻ってからやりましょうね」
しようとしたところでユキナさんにストップを掛けられた。
「むぅ。お母さんのイケズ」
「別にするなとは言っていないじゃない」
つまり続きは部屋に戻ってからやれって話ですね。
「…………」
この人も段々ボロが出てきたというか、以前は彼女に理想の母親像を重ねていたのだが――考えるまでもなくサイオンジ公爵家の女に理想の奥さんなら兎も角、理想の母親が務まるわけがない。
子供を旦那に近付けない為に自分が育児教育を率先して引き受けるような血筋だしね。
「だって今部屋に戻ったら夕ご飯が食べられないじゃない」
「それもそうね」
「…………」
サイオンジ公爵家では夫婦が2人で部屋に戻ったらベッドに直行がデフォルトですね、わかります。
「仕方ないから最初にご飯を食べて、その後リオと2人でお風呂に入ってから部屋に戻ることにするわ」
「それが良いわね」
「…………」
サイオンジ公爵家では夫婦が2人でお風呂に入るのもデフォルトなんですね、知ってます。
ちなみに俺とユメハがこの家で一緒に住むようになってからお風呂は新しいのが増設されて、そっちが俺とユメハ専用のお風呂となっている。
サイオンジ公爵家では、あくまで夫婦生活が最優先で、2組の夫婦が暮らしているなら2つのお風呂が必要になるのだ。
だって一緒にお風呂に入って何もないなんてことは、まずありえないし。
実際、この家で一緒に住み始めてから何度も――というか毎回ユメハと一緒にお風呂に入っているが、何もなかったことなど一度もなかった。
(転生神は今も覗いていて砂糖を吐いてんのかなぁ)
そんな益体もないことを考えながら夕食の席について――この後のお楽しみに思いを馳せた。
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