第9話 『鋭すぎる幼馴染改め嫁に正体を看破される』
俺とユメハの結婚式は密かに、しかし迅速に行われた。
俺がユメハと結ばれたことを父と呼んだこともない皇帝陛下に報告したら顔を引き攣らせていたけど、サイオンジ公爵家に配慮したのか直ぐに承認して結婚の許可をくれた。
まぁ、今までなら兎も角、今後はサイオンジ公爵家を敵に回してまで俺を蔑んだり嫌がらせしたり出来ないだろうしねぇ。
前とは違って今のユメハは俺に馬鹿がちょっかいを掛ければ即効ブチ切れて報復に走るに決まっている。
部屋の中で2人きりだと俺を甘やかすことが自分の使命だと思っているのかと思うくらい甘やかしてくれるんだけど。
「おめでとう、兄さん」
小さな教会で身内だけを集めた結婚式には皇帝陛下をはじめ、兄弟姉妹が可能な限り出席して、その中には勿論ユニクスもいて俺に祝いの言葉を送ってきたけれど……。
「これで帝位争いから離れて新婚生活を満喫出来るね」
当たり前のように余計なことを言ってきた。
「元より皇帝になる気はなかったし、帝位争いに参加する気もなかったけどな」
「あはは。そうなんだぁ」
ユニクスの目は『なる気はないじゃなくて、なれなかったの間違いだろう』と暗に語っていたが――それは悪手というものだろう。
「ユニクス。今後リオに余計なちょっかいを掛ける気なら……捻り潰すわよ」
「…………気を付けるよ」
真っ白なウェディングドレスを纏った俺の嫁――ユメハが笑顔のままユニクスを威圧していた。
俺の嫁、超綺麗だけど超怖いっす。
今までは剣術だけで政治には疎かったが、俺というフィルターを通して間接的になら超能力者かというくらい鋭くなったユメハの前で余計なことを言うべきではなかった。
ユニクスの失態を手本にしたのか、他の参加者達は無難に俺を祝福してくれた。
例外がいるとすれば唯一人。
「???」
ユニクスの婚約者として俺達の結婚式に参加して、俺とユニクスに交互に視線を向けては困惑しているセリナだ。
俺とユメハが真実を語ったとしても頑固な一面を持つセリナは簡単に信じたりしないだろうが、それでも俺とユメハの結婚式を見て、更に俺とユニクスを比較して何か感じるものでもあったのだろう。
ひたすら困惑して俺とユニクスに交互に視線を彷徨わせていた。
こうして俺はエミリオ=オルテサンド=アルシアンからエミリオ=ゲイオ=サイオンジとなったのだった。
◇◇◇
新婚生活は順調だった。
住居は勝手知ったるサイオンジ公爵家だし、ユキナさん夫妻とも面識があって今更遠慮したり緊張したりする関係じゃない。
問題があるとすれば結婚してから――というより俺と関係を持ってから妙に強くなってしまったユメハのことだろう。
ユキナさんによると、サイオンジ公爵家の娘は生涯の夫を見定めて結ばれると急速に成長して、番となる男を護る為に強くなるらしい。
今までが蛹で、これからが本当の羽化らしい。
冗談抜きでアリサで本気を出しても勝てなくなってしまったかもしれない。
だがユメハは近衛騎士団の一員なので日中は基本的に訓練に参加する為に城に出向くことになるので、その間俺は暇になる。
「万が一浮気でもしようものなら殺されることはないけど……冗談抜きで切り落とされるから気を付けてね」
「なにをっ!」
帝都に暇潰しに出掛けようと思ったらユキナさんに不穏な警告をされて震え上がった。
だ、大丈夫だよね?
俺は浮気なんてしねぇし。
というかサイオンジ公爵家の底なしの愛情は肉体関係に縛られないようだ。
浮気をするようなイケないムスコは切り落として、一緒に傍に居て愛を育むだけでも満足出来るらしい。
その場合、子供は出来なくなってサイオンジ公爵家は終わりを迎えるけど、それを躊躇なく実行出来るからこそ底なしと呼ばれているのだろう。
帝都に出た私は久しぶりにアリサに変身して冒険者ギルドへと向かっていた。
(相変わらず私も超絶美少女だと思うけど、最近のユメハを見ていると勝っているとは思えなくなってきたわね)
元より私に匹敵する美少女だったユメハだが、最近は胸の方もドンドン大きくなってきていて私が確実に勝っているという要素がなくなって来た。
魔術のみを競えばまだ勝っていると思うけど、総合的な強さを競うと勝負にならないくらい差を付けられていると思う。
「あら」
そうして冒険者ギルドへの道を歩いていたら、バッタリとユメハに遭遇した。
(そういえばそろそろお昼か。お昼休みに昼食を食べに帝都に出ていたのかな?)
そんな分析をしつつアリサの視点でユメハを分析するが……。
(既にSクラス冒険者が複数で相手をしても勝てるかどうかという雰囲気だわ。これは……勝てない)
予想通り、既に逆立ちしても勝てないくらい差を付けられていそうだった。
「お久しぶりですね」
「…………」
頭の中で色々な分析をしつつ挨拶するが、ユメハは私をジッと見たまま挨拶を返してこない。
「どうし……」
「リオ。こんなところで何をしているの?」
「っ!」
断定口調で言われて咄嗟に誤魔化す言葉も出せず、それどころか反射的に顔を引き攣らせてしまった。
「な、ななな、何を言って……」
「不思議ね。どうして今まで気付けなかったのかしら? どうやって化けているのか分からないけど一目瞭然なのに」
「…………」
これはあかん。
推測やカマかけなら兎も角、ユメハは私の正体を確信してしまっている。
「……どうして分かったの?」
「寧ろ、どうして分からないと思うの?」
「…………」
うん。これ私が迂闊だった。
ユメハは私が関わると超能力者としか思えない鋭さを発揮すると知っていたのに、何の対策も講じないままアリサとして目の前に現れてしまったのだから。
「でも、そっか。リオがアリサだったんだ。そっかそっか♪」
そして何故か私の正体を看破して嬉しそうなユメハ。
「えっと、その……」
「とりあえず、色々と話を聞かせてもらうわよ」
「……はい」
そうして私はユメハに連行されることになった。
洗いざらい喋らされた。
既にアリサへの変身は解かれていて、俺が魔術に関して魔法に限りなく近いところまで到達しているだろうということや、色々な魔術を開発していてアリサに変身していた
「毒殺ですって?」
だがユメハが顔色を変えたのは俺が6歳の時に毒を飲まされて死に掛けた話だった。
「……ユニクスね」
そしてあっさりと犯人を看破してみせた。
この人は本当に俺の知っているユメハさんなのだろうか?
思いつつ幼少の頃に馬鹿をやらかしたユニクスの冥福を祈る。
「でも色々と納得出来たわ。考えてみればアリサって私を散々挑発とかしてきたけど本格的に敵対するようなことは避けていたし、緊急時には必ず私の味方をしてくれたわ」
「……恐縮です」
更にニマニマと笑って俺を見つめるユメハ。
今までライバルだと思って本気で競い合っていた女が実は自分の夫だったと知って優越感を感じているらしい。
何処までも俺を独占しようとするサイオンジ公爵家の血だ。
「と、ところで近衛騎士団の訓練には戻らなくてよろしいのでしょうか?」
正直、一度心の整理をする時間が欲しい。
「良いのよ。最近は近衛騎士団の連中と一緒に訓練しても指導ばっかりで私に得るものがないし、本気で訓練すると近衛騎士団でも付いて来られないから模擬戦も出来なかったしね」
「……そっすか」
もはや近衛騎士団ではダース単位でも相手に出来ないくらい差が付いてそうだ。
「だから、ね? デートしよう。私、リオとデートしたいの」
「……良いよ」
「やった♡」
どの道、予定がなくて暇だったから冒険者ギルドに行こうと思っていたわけで、ユメハとデート出来るなら暇潰しする必要などない。
黒髪黒目で全身黒ずくめのアリサも目立っていたけれど、それとは別に黒髪で
廃棄皇子の噂は有名だから当然なのだが……。
「~♪」
今は御機嫌なユメハと腕を組んで歩いているので最高に目立っていた。
まぁ、今更他人の視線を気にするような小心はないし、ユメハが楽しそうなので水を差すのも無粋というものだろう。
問題があるとすれば、肝心の問題が起こった時に俺がユメハを護るという見栄を張れないことくらいか。
皇子として力を――魔術を隠して生きてきたが、今のユメハはアリサよりも明らかに強い力を持っている。
このままでは俺がユメハを護るということは勿論だが、肩を並べて戦うということも不可能だ。
(そう考えると、もっと魔術の研鑽を積みたいところだな)
あれから頑張ってはいるが飛翔魔術は未だに完成していない。
(肩を並べることもそうだが、どうせならユメハと一緒に空の散歩と洒落込みたいもんだ)
「リオ。何か考えごと?」
色々考えていたらユメハに気付かれた。
「帝都も悪くないけど、もっとロマンチックな場所でデート出来ないかなぁって考えてた」
「リオなら大陸中の何処にでも行けるんでしょ?」
既に俺とアリサが同一人物だとバレているので転移魔術や転移門で大陸中の何処にでも行けることは知られている。
「街の発展具合を考えれば帝都並の場所はあっても、帝都以上ってところは知らないなぁ」
「それなら私は海を見てみたい!」
「それも良いなぁ」
海辺を歩く俺とユメハ。
勿論、ユメハは水着姿で、お互いに水を掛け合ってキャッキャウフフとか……。
「リオ。エッチな顔してる」
「……ソンナコトネェシ」
まぁ、空の散歩は勿論だが、色々な所へ2人で行ってみたいものだ。
◇◇◇
先日、俺がアリサと同一人物だとユメハに看破されてしまったので……。
「良いよ、良いよぉ! こっちに目線頂戴!」
「こ、こうかしら?」
サイオンジ公爵家の自室で秘密の撮影会を開いていた。
うん。超絶美少女のアリサちゃんを撮る為に開発したカメラ魔術だったけど、城の自室でアリサになるわけにもいかないし、かと言っても冒険者の仕事中に撮影することも出来ないのでお蔵入りになっていた魔術が活躍していた。
ぶっちゃけ俺が服飾魔術で作り出した色っぽい下着姿のユメハをカメラ魔術――というかカメラ魔術の効果を付与されたカメラで撮影しまくっていた。
俺の個人的な趣味で白、黒、ピンクの下着がメインだったけど、赤い髪と真紅の瞳を持つユメハなので試しに赤い下着も作ってみた。
凄く個人的な意見だけど、赤い下着は下品に見えるからあまり好きではなかったのだが……。
「最高だ! 超セクシー!」
「えへへ♪」
赤い下着を身に付けたユメハさん、超色っぽいです。
俺の食わず嫌いでした。
ちなみに、俺は先日ユメハと結ばれた際に彼女を裸にする機会を手にするまで、この世界の女性の下着事情を知る由はなかったのだが……。
「この下着、凄くエッチだけど画期的ね!」
女性の下着というのは基本的にドロワーズのみだったらしい。
うん。あのダボっとした下着モドキ。
しかも身に付けているのは基本的に上流階級の女性だけで、平民の大半はロングスカートにノーパンらしい。
風の強い日は大丈夫なのだろうか?
まぁ、ともあれユメハに下着一式――ブラとショーツにガーターベルトにストッキングのセットを身に付けてもらい、思う存分カメラで撮影している最中だ。
ユメハの胸は最初こそ揉むことは勿論、摘まむことすら困難な大きさだったが、俺の望み通り日々大きくなっているので既に小ぶりの林檎が入っていると言われても信じてしまいそうなくらい大きくなっていて、しかもそれが美乳だと俺だけが知っている。
本人は訓練の際にバランスを再調整するのが面倒だとか、肩が凝って大変だとか愚痴を漏らしているが、これ見よがしに肩を揉んで大きさアピールしているところを見ると女として満更でもないと思っているようだ。
「次はちょっと煽情的なポーズを取ってみようか!」
「こ、こうかしら?」
「最高だ! 俺の奥さんは世界一だ!」
「~♪」
うん。俺が褒める度にユメハは頬を紅潮させて喜ぶし、俺が色々なポーズを要求しても一切拒まないので最高の被写体だった。
これは夏になったら海にプライベートビーチを確保して撮影会しなければなりませんわぁ。
そうして俺はユメハの姿を何百枚もカメラで撮影していき……。
煽情的なポーズでお互いに最高潮に興奮しすぎて、気付いたらベッドの上で絡み合っていた。
下着姿のままベッドに横たわるユメハの胸に顔を埋め、その中に隠された美乳を想像して貪るように堪能する。
「くす。リオったら赤ちゃんみたいよ」
そんなことを言いつつも満更でもないのか、ユメハは俺の頭に両腕を回して更に強く密着を求めてくる。
ユメハは――サイオンジ公爵家の女は見定めた男がどんな要求をしようとも大抵のことには応えてくれる。
勿論、無茶な要求をする気はないし、度が過ぎた要求をすれば窘められるけど、夫婦として多少過激な要求をしたくらいでは2つ返事でOKしてくれる。
色っぽい下着姿の奥さんのおっぱいに顔を埋めたいとリクエストしても、当たり前のように了承されるくらいには。
まぁ、このくらいは毎晩やっていることなのだが、要するに現代日本の性知識をリクエストしても大丈夫なくらいにはユメハは俺に甘いということだ。
うん。この世界の性知識は現代日本に比べると大分遅れているようで――というか日本が進み過ぎているので俺が当たり前のようにリクエストしたことも最初の頃は驚かれていたくらいだ。
今は既に俺に前世の知識――現代日本で培った知識があると知られているので問題ないが、当初は何処でそんな知識を仕入れたのか怪しまれていた。
独身時代に怪しげなエッチなお姉さんのお店にでも通っていたのではないかと問い詰められるくらいには。
「ねぇ、リオ。そろそろ……♡」
そうして既にお互い欲情して我慢の限界に達したところで――本番を開始した。
満足である。
まだ日も出ている内からベッドの中で裸でイチャイチャして退廃的な生活を送っているという現状に退廃的な背徳感を感じながら、それでも前世も今世も含めて初めて愛に溺れるという行為に俺は心の底から充実していた。
ユメハも俺とイチャイチャするのに肯定的であるし、俺との愛が深まれば深まる程に――サイオンジ公爵家の女として強さが増していくという理不尽な体質だった。
まぁ、強くなった分は戦闘時のバランスを再調整するのが大変そうだけど、天才であるユメハはそれほど苦にしていないらしい。
というか……。
「こんなに細い身体の何処にあれ程のパワーがあるのか疑問だ」
俺は実際に裸のユメハの身体の色々なところに触りながら、この女性らしい柔らかい身体の何処から、あの理不尽なパワーが出て来るのか本当に疑問だった。
「力を出すのに筋肉に頼っている内はまだまだ2流よ」
「そ、そっすか」
ユメハの答えは俺には理解不能だったけど。
◇◇◇
怒られた。
いや。新婚だからと毎日のように家でユメハとイチャイチャしていたら、流石にユキナさんに怒られたのだ。
「気持ちはわかるけど、サイオンジ公爵家の女として気持ちは凄くよく分かるけど! それでもサイオンジ公爵家の次期当主としての義務を果たさなければ権利を得る資格は得られないのよ」
「「……ごめんなさい」」
流石に身勝手過ぎた自覚はあるので俺とユメハは素直に謝った。
「私だってねぇ! 公爵家の当主としての仕事とか、面倒な人付き合いとか、色々放りだしてダーリンとずっとイチャイチャしていたいのよっ!」
「「…………」」
「でも、それだと帝國の中で居場所を失ってしまうから我慢して……我慢して義務を果たして権利を守らないといけないの!」
「「あ、はい」」
ユキナさんの本音は兎も角として、確かにサイオンジ公爵家の血筋を持つ者は強すぎる力を持っているから、本来なら危険視されて居場所を追われても不思議ではない。
その力を帝國の守護者として振るうことと引き換えに帝國での強い発言力と権威を確保しているのがサイオンジ公爵家だ。
そう考えてみれば確かに義務を放棄して権利だけを得ようというのは虫のいい話だったか。
「でも本当に気持ちは分かるのよ。だって新婚ですもの! 世界中に2人だけみたいな最高の環境で延々とイチャイチャしていたいわよねぇ」
「うんうん。流石お母さんは分かっているわね!」
「…………」
俺が言うことじゃないかもしれないが、流石はサイオンジ公爵家の血だと思った。
見定めた男への愛情が強過ぎる。
さしずめ俺はサイオンジ公爵家の女の底なしの愛情という名の井戸に飛び込んで、延々と落ちている最中ということになるのだろう。
この井戸には本当に底なんてなくて、落ちれば落ちる程に愛情が深くなっていくという愛の罠だ。
そして、この井戸の定員は1名だけで、既に井戸の口にはガッチリと蓋で閉められて2度と開くことはない。
結局、ユメハは明日の朝から近衛騎士団の訓練に再参加することになってしまった。
俺の方も本来なら色々と仕事を任せられることになるのだろうけれど、廃棄皇子として名を連ねてきた俺には元々仕事は分配されていなかった。
だから俺はユメハが帰って来るまでアリサとして冒険者の仕事をするか、もしくは部屋に篭って魔術の研鑽に努めるか。
(帝都の冒険者ギルドに仕事はなさそうだし、魔術の研鑽にしておくか)
そうして俺は明日から予定を決定し……。
「ねぇ……リオ♡」
今夜もユメハに哀願されて彼女の望みに応える為にベッドに押し倒すことにした。
義務を頑張るのは明日からだ。
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