【幕間】初夏に咲く、栄光の花

001 「よしよし。」

「―――怖かったよぅ。」

「よしよし、頑張ったね。」

羊角のちょこんと載った頭をぽんぽん、と撫でてやる。

背丈は私よりも大きいのに、やっぱりこのへんは年相応の女の子なのだろう。私の手のひらの下で涙目をこっちに見せてくる。

私の依頼が元とはいえ、クレセリア公国に赴き件の魔物と相対して来たのだ。

ちゃんとこうして生きて帰ってきただけでも褒めてあげるべきなのだろう。

「うんうん、頑張った。」

「メイぃぃぃ・・・」

「よしよし。」

本当に、よく頑張ったよジーンちゃん。

「・・・なんだこの光景は。」

「おやベルくん。おかえりー。」

買い物に出ていたのだろうか、ベルくんが大きめの紙袋を抱えて呆然と入口に立っていた。

まるで恐ろしいものを見たとでも言いたげにジーンちゃんを見下ろすベルくん。

私は付き合いが長いけども、確かに彼の前でこの子はこういう姿はあまり見せていないのかもしれない。

「・・・うるさい。おかえり。」

よしよし。

彼女らが出会ってしまったフェーズ7の魔物。

聞いた話の通りならば、彼ともうひとり、”ルカ”という女の子の3人で倒したと言う。

件の魔物が倒されたという朗報を朝刊で知った時、その討伐者として彼女らの名前を見ることになるとは予想すらしていなかった。

あまりに驚いて紙面を三度見したのを覚えている。

――――実はジーンちゃんが公国に行くのを止めなかったのを少し後悔していた。

彼女らを信用していなかった訳ではないけれど、どうしても不安は頭をよぎるもの。

本当に、今の若い子は計り知れないな。

「貰っていた発注リストの数は揃ってるはずだけど、一応確認してみて。」

洟をすすりながら体を起こし、お仕事モードに戻る彼女。

指差した机の上には、依頼通りの薬品が整然と並んでいる。

「1、2、3・・・うん、数はバッチリ。でも買取値にこれ以上色は付けてあげられないから、ごめんね。」

「うん、それは大丈夫。」

たとえフェーズ7の魔物に殺されかけたとしても、それはそれ、これはこれだ。

「それじゃ、これは代金。まいどー。」

金貨の入った袋をジーンちゃんに手渡し。

私は私で、鞄から取り出した呪符を指に挟み呪文を唱える。

「【綿帽子コットン・シェル】」

呟いた呪文に合わせて、ふわりと瓶たちに緩衝皮膜が覆いかぶさっていく。

この子たちはフロンティアまで持っていくのだ、途中で割れてしまっては元も子もない。

ひとつひとつ手で持ち上げて、しっかり瓶がコーティングされたのを確認し、手早く鞄に詰め込んでいく。

「さてさて。これで失礼するねー。」

「あら、今日は早いのね。」

金貨を数えながら、ジーンちゃんがこちらを不思議そうに伺う。

確かにいつもなら、私はここで茶器を出して一服している。

「早くこれを届けてあげたいからね。」

鞄の蓋を閉め、よっこいしょと背負う。

今の言葉は半分、嘘だ。

ジーンちゃんもベルくんも、顔には見せないが相当疲れているだろう。

私のような”商売相手”が居たら休めるものも休めない。


今は彼女たちに、ひとときの休息を。

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