002 【人工魔術】、そして【アーツ】
「本質的にはアーツも人工魔術も同じものだ。そのコアとなる効果は"マナが何かに作用して超自然的現象を発現させる"という部分。」
超自然現象、という言い方は些か乱暴だとは思っている。
「マナというエネルギーを用いて、その性質を変化させたり形を変えたりする。」
だが、そう括るのがおそらく適当だ。
実際のところ、発想次第で”何でも出来る”としか言いようがない。
それほどまでに、マナというものは余りにも便利なのだ。
「では何が違うか、それは作用させる"もの"だ。」
黒板に簡単に図を描く。
人間、物質、そしてその間にマナのイメージ。
「人間のような生物は元々、マナとの相性は良くない。その為マナの作用が働きにくい。逆に非生物はマナを吸収しやすいとされている。」
矢印や記号などを書き足す。
カリカリと、熱心な学生がそれを書き写す音が聞こえてくる。
「何故そのような違いが生まれているかは未だに分かっていない。と言うより、知らなくてもマナは扱えるから研究者が少ないんだな。」
俺なりの仮説はあるが、それは一般的ではない。
今ここでそれを披露するのはかえって混乱を招くだろう。
「だが、ある時マナを体内に取り込むことの出来る者達が現れた。」
「それが亜種だ。君たちの中にも居るな。」
周りを見回す学生たち。
異形の部位を持つ”亜種”。
「先天的にマナを身体に取り込める体質を持ち、まるでその証拠かのように"人には無い器官"を持って生まれる突然変異。」
何人かの学生は確認するかのように自分の部位に触れる。
正直な所、その部位以外では亜種と人間を見た目で判断することは出来ない。
“体質が違う”と言われてもピンと来るものはいないだろう。
さらに俺のような「内蔵が異形化している」亜種もいる。本当に見分けようが無いのだ。
――――おそらくそうでなければ、人種差別のようなものが沈静化したのはもっと未来の話だっただろう。
異形の部位。
中にはその動物と同じ様な働きをするものもあり、そのせいで当たり外れなど言われる事もある。
「その体質故に、自分の体に対してもマナを作用させることが出来る。これがアーツだ。」
俺から言わせれば亜種である時点で当たりだ。
「ここを押さえておくと、何かをしようとする際にそれが出来るか、出来ないか、どうやって実現するかの判断が着く。もしお前らが将来、未知の人工魔術を生み出そうとする時の参考になるかもな。」
何人かはそんな進路を選ぶのだろう。
「まぁ、そんな野望があるならばクレセリア公国にでも行くべきだが。」
若干吐き捨てる様に俺は呟いていた。
かつてそこに生きていた事もあったが、二度と戻ろうなどとは思わない。
人工魔術だけを指標とした、最先端の停滞国になど。
「先生!【
丸眼鏡の学生が挙手をする。
「いい質問だな。」
本当にいい質問である。
おかげで説明するきっかけを作る手間が省けた。
「あれは傷を治している訳ではなく、空気中のチリや土、あるいは傷口を押さえている布を変質させて、無理やり傷口にフタをする魔法だ。」
治癒ではなく、ただくっつけるだけ。
種明かしをしてしまえば、簡単な事である。
「発想を変えれば、人工魔術でも生物に干渉できるといういい例だ。」
だが――――“生物”と”非生物”を隔てるもの。
それが一体何なのか。
いや、今は講義に集中しよう。
「ただし、あくまで応急処置だ。あまりに酷い怪我ならば神聖魔法を扱える人間の居る教会などにちゃんと行くこと。ほっといたせいで腕をなくしたとか洒落にならんからな。」
笑いながら腕を切り落とすジェスチャーをしてみせる。
しかし、笑ってはいるが実際そんな奴を何人か見てきている。
生命力を媒介にして命を癒す奇跡の魔法でも、切り離された腕はもうどうしようもない。
「そして、アーツも自分の体以外はどうこう出来る代物ではない。なかなか便利にとはいかない。」
そんなものがどうにか出来るとしたら、そいつはもはや神か悪魔だろう。
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