【幕間】セフィラ共和国立学院高等部

001 【マナ】について

「ほら、お前ら席につけー。」

手に持っていたテキストをぺしぺしと叩きながら、教壇へと進む。

「今日からこのクラスを担当する事になったユートだ。皆よろしく。」

軽く挨拶、生徒たちを見回す。

真剣な眼差しのものや、落ち着きの無いもの、中には寝ているものもいる。その彼ら彼女らの体には、兎耳、猫の手、獣の角・・・。

よくもこんな個性的な部位が着いて生まれたものだと思う。

この国、いやこの世界では最早珍しいものでもなくなった、【亜種】と呼ばれる人種。

ここはそんな【亜種】も【通常種】も分け隔てなく学べる学校

"セフィラ共和国立学院"、その高等部である。

「それじゃ、今日は一回目という事で・・・」

俺は比較的新しめなチョークを選び、黒板に文字を書く。

「基礎の基礎である、【マナ】についておさらいしよう。」

この辺は常識レベル、知っていないほうがおかしい。

生徒の何人かは既に知っているよそんなの、と言いたげな表情だ。

「まずマナとは何か。」

だがだからこそ、最初に教えるものなのだ。

「そこの君、名前は?」

「はいっ!アルノルドです!」

少年が勢いよく立ち上がる。

立てとまでは言っていないが、まぁ元気がいい証拠だろう。

「それじゃあアルノルド、マナについて説明頼めるか?」

「はい!マナとはこの世界の大気中に無数に存在するエネルギーで、普段は目に見えない形で我々の生活に寄り添っているものです!」

「うん、いい解答だ。ありがとうアルノルド、座ってもいいぞ。」

「はいっ!」

アルノルドは勢いよく座る。それを見届けてから俺は続けた。

「彼が言う通り、マナというのはエネルギーだ。普段は見えないがこうやって・・・」

ポケットから小さな箱を取り出し、俺はそこに描かれた魔法陣に触れる。

蛍のような淡い光が俺の手の周りに現われ、たちまち箱の上から小さな火がついた。

誰でも簡単に使える、マッチ替わりの火炎魔法だ。

「このようにエネルギーを利用して魔法などを使うことで、光としてその姿が見れる。」

俺はその種火を手のひらで握り潰して消すと、何人かの学生がそれを見て驚きの目を見せた。

今のは教育上良くないパフォーマンスだったかもしれないな。

「一つのマナ粒子中に含まれるエネルギー量が多いほど、光は大きく強くなると言われている。が、使う際にそこまで考える必要はあまりない。」

実際、そんなことを考えて生活する人間は居ない。

「ど田舎で100人規模の大魔術でも使わない限り、そうそう枯れる事はないからな。」

考えるのはそれこそ研究者や軍人くらいなものである。

それだけ、マナは身近に溢れるほど存在しているのだ。

「特にこの国の中ならばあり得ない。その理由は別の講義で説明する。とにかくこのマナが存在することで、俺たちは豊かな暮らしを送れるわけだな。」

この辺りまでは、普通に生きていれば自然と分かることである。

目の前にいる学生たちが知りたいのは、この後だろう。

「それじゃあ君。」

「はい。」

聡明そうな少女は大人しい声で答える。

「マナを実際に使用する方法を挙げてみてくれ。」

「ええと・・・【人工魔術】と【アーツ】です。」

「ありがとう、まさにその2つだ。じゃあその2つの違いは説明出来るかな?」

少し意地の悪い質問を投げる。

「えーっと・・・【アーツ】は亜種が使うもので、【人工魔術】は亜種でなくても使えるもの、です。」

「うん、ありがとう。」

予想通りの答えだ。

「おそらく多くの人間はそう答える。」

それは間違いではない。

「だがここは学院だ。それでは不正解、0点だ。」

暇そうにしていた学生たちが、驚いたような目でこちらを見る。

そうだ、その目を待っていた。

「マナをより上手く利用するには、その先の本質を知っておかなくてはならない。」

君たちはまだ浅い所にいる。

それをまず、認識すべきなのだ。

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