035 なんで私ばっかり!
目の前に迫りくる、顔の融けたゾンビ。
その首をハルバードで横薙ぎ、そのまま刎ね飛ばす。
一体ずつならば、何でもない相手。
それでも油断すれば何が起きるかは分からない。
飛んでいく首、それが不意にこちらを向いた。
そのまま空中に一旦停止。あれもこっちに飛んでくるのかしら。
そんな事を考えていると予想通り、首が加速。
しかし私にぶつかる前に炎上、細かい灰になり風に消えてゆく。
サラサラと乾燥しきった灰が頬をかすめていく。
――――やっぱりこいつら、切ってもダメみたいね。
まだ動き、こちらを捉えようとする胴体を蹴り飛ばす。
グチャリとした腐肉の感触がブーツ越しに伝わる。
綺麗に靴底の形がスタンプされた胴体を、後ろから順番待ちをしていたゾンビに激突させる。
ポケットから火炎瓶を取り出し、くぼんだ鳩尾めがけて投擲。
ぶつかる衝撃でビンが割れ、勢い良く燃える二体のゾンビ。
それでも藻掻き、こちらに襲いかかろうとするところにダメ押しで、ハルバードを刺し穿つ。
炭化した身体がゆっくりと、バラバラに崩れ、ようやく動きが止まる。
――――まだまだゾンビは尽きてくれない。
一匹を処理しているうちに、二匹三匹と確実に近づいてきているのが見えた。
こんなペースでは、囲まれてしまう。
「ああもう、なんで私ばっかり!」
言った所で何が変わる訳ではないが、ついつい愚痴を零してしまう。
・・・私ばっかり?
それは自分で発した言葉だ。
けれども何故か違和感、引っかかりを覚える。
もしかしたら・・・
冷静になり、周囲を見回してみる。
已然恐ろしい速さで鎌を振り回す死神。
その攻撃を凌ぎ、押し返さんとする勢いのベルベット。
無数の赤い光に照らされ、息を切らせるルカ。
そして、無数のゾンビたち。
その彼らの向く先は――――全員、私だった。
ルカやベルベットを見ているゾンビは一体もいない。
彼女の近くに居るゾンビすら、無視して私に向かってきている。
いつの間にか人気者になっていた?
いえいえ、ゾンビ相手にそれは遠慮したい。
もう一度、ルカの方を見る。
私と同じく、”それ”に気付いたであろう顔が、そこにあった。
ルカと目が合う。
静かに頷く。
ありがとう。
答えとしては、それで十分。
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