034 問題ない
左から襲いかかる鎌を左手の剣で弾き返し、右手に構える剣で死神の肩口、濃紺の布を穿つ。
が、すばやく差し込まれた篭手に弾かれる。
刃先は金属製の局面を滑り、逸れ、空を切る。
骨から鎧に成り代わり、明らかに奴の動きは鈍くなっていた。
その代わり、あからさまに硬い。
防御形態、とでも言ってやるべきか。
マントに成り代わったローブ。恐らくはそれが本体だろうが、そうそう触れさせてもくれないようだ。
迫り来る鎌を、片方の剣でいなし、一歩踏み込みながらもう片方で、押す。
鎧と剣先が激しくぶつかり、一際大きく火花が散る。
その火の粉が、マントに触れる。表面を焼き、ほんの針ほどの穴を空ける。
だが、見る間に塞がる。一瞬後には焦げた痕跡すらも何も残っていなかった。
―――自己修復までするのか。
感嘆を呟く間もなく、次の斬撃。身体を捻り、両手の刀身で胴を叩く。
骨の時には無かった重量感。
踏みとどまられ、その力がこちらに返ってくる。その反動を利用して、後退。
着地で踏みしめた雪が大きく沈む感触が足に伝わる。
奴の身体が淡く光る。アーツか、あるいは魔法か。
ふと、右腕に衝撃。
全く思いもよらない、後方からだった。視線をそちらに向ける。
肘から先が、鋼色の鉄板で見えなくなっていた。
鋭く研がれた、刃。
ぼろぼろの布が巻かれた、柄。
どうやら大剣のようだ。
人の身長ほどもあるだろう、重たくしっかりとした大剣。
雪の下から生えるように、俺の後方から出現していた。
いつの間にこんな物を仕込んでいたのか。
あるいは、何処ぞ騎士様の置き土産か。
大剣の側面は、赤く丸く、どうやら血で汚れている。
その大きさはだいたい、俺の腕程の太さ。
そのまま大剣は上空に飛び去り、消えていった大剣の向こう側。
――――ああ、腕を斬られたのか。
宙に浮かぶ、肘から先の右腕。
血を滲ませた桃色の切断面が、見えていた。
痛覚遮断をしておいて良かった、とつくづく思う。
おかげで冷静なままでいられた。
痛みに支配されずに済んだ脳が、次にやることを思い出す。
間髪入れず襲いかかる刃、その下を潜り込むように、頭突きを奴の胸部装甲に叩き込み、鎌の軌道を逸らす。
その隙に千切れ、宙に舞っていた右腕をもう片方の手で掴み取り、無理矢理に切断面同士を押し付ける。
そのまま"右腕"で空振った大鎌ごと、死神の手を押さえ付け組み伏せる。
血が断面から滲む。動かない右手が潰れる感触が、肩まで駆け上がり伝わる。
――――おそらく痛覚遮断していなければ相当、痛いだろうな。
そんな要らない思考を捨て、雪に沈み込む死神を睨み、アーツを練る。
周囲のマナが輝くも、その色は黒。
どす黒く染まった粒子が、鎧の隙間から死神の身体に侵入り込む。
そのまま右腕を介して、漆黒の帯を奴の身体から奪い取るように吸収。
粗方奪い取った頃に、腹に衝撃。
鎧の足に腹を蹴り飛ばされていたらしい。
後方に飛ばされるも、勢いは殆どない。
空中で身体を捻り、着地。
右手を見る。五指を2、3度開く。
問題ない、繋がった。
落としていた剣を難なく拾い、突進。
致命の一撃は、未だ与えられていない。
突破口を見つけるまで、根比べになりそうだろうか。
フェーズ7の魔物相手に根比べというのも、ぞっとしないな。
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