032 「よう。」

「よう。」

「・・・誰だ?」

「忘れたか?いや、忘れさせたんだったな。」

「何の話だ。」

「いや?こちらの話だ。」

「用が無いなら失せろ、今は忙しい。」

「用はあるし、忙しいだろうから話しかけた。」

「ならさっさとしろ。」

「まぁ慌てるな。これは言わばお前の記憶に過ぎない。いくら長話しようと現実の時間は経たない。」

「どういうことだ?」

「お前が忘れている記憶の一部とでも考えてくれ。」

「・・・走馬灯か?」

「なかなかいい答えだ。だが、不正解だ。お前は死にかけているが、死んでいない。だがお前の仲間は・・・あのままなら危ないな。」

「分かっている。だから急いでいる。」

「今の死に体のお前でどうにか出来るのか?」

「・・・出来るかどうかは関係ない。いいから失せろ。」

「そう邪険にするなよ、解決策を持ってきてやっているんから。」

「・・・どういう事だ?」

「まぁ、端的に言えば力が欲しいか?という話だ。」

「あるのか?そんな都合のいいものが。」

「あるのさ。もう既にお前の中に。対価として記憶を頂いたから忘れているだけだ。」

「だったら、記憶でもなんでもやるからその力とやらを叩き起こせ。」

「いやいや、たった三年分じゃあ、割に合わない。」

「あの時はお試し、ということで記憶を貰った。けれども今回こそは正式契約と行こうかええと、ああ、今は”ベルベット”くんか。」

「・・・対価は何だ?」

「思ったより冷静だな。契約内容を聞かれるとは。」

「”隷呪”、というものを受け取ってもらう。この印がある限り、俺の意志がお前の意志になる。」

「けど俺は良心的でね、そうそうお前の意志には介入しない。せいぜい呼びかける程度の拘束力だ。それに痛みと引き換えにならいくら抗ってくれても構わない。実質ノーリスクの良い契約だろう?」


「慈善事業じゃないからな、こちらにも役割がある。」


「さぁ?どうするんだ?」


「そうこなくちゃな。さぁ受け取れ。我が隷属の証。」


「力の使い方なんて聞かないでくれよ、お前は既に知っている。」



――――願わくば、君が我らの大願を果たさん事を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る