028 「ああ、もう!」

「ああ、もう!」

既に大きくなった剣をベルベットのほうに投げ捨て、ハルバードを構える。

届いたかどうか。そんなの、見てる暇はない。

視線の先の髑髏がこちらに飛び掛かるのを正面に見据え、立て続けにアーツを展開。

【神経加速】――――ただし限界は30秒。

【筋力強化】――――こっちも限界は30秒!

未熟な強化系アーツで遅延した世界。

左手で懐から投擲瓶をつまみ上げ、そのまま髑髏目掛けて投擲。

ガラス瓶が骸の額に衝突、破片が飛散。中の液体が大気に触れ、そのまま炎上。

もろに液体を被った骸骨は炎に包まれ、世界を青白く照らした。

燃え盛る髑髏を斧で打ち返し、軌道を反らす。

勢いを失い放物線を描く無傷の火の玉。

筋力強化しても私の力じゃ割れないのは分かっていた。

「ルカ!」

元が骨なら、温度変化で脆くなるはず。

逆巻く風が青白い燐光を纏い、ルカを照らす。

途端、髑髏は急冷却され一瞬で氷の玉に変貌。そのまま雪原に落下、衝撃で粉々に砕け散っていく。

氷の破片になった髑髏は、目論見通り物言わぬ灰になっていた。

・・・元々何かを喋っていたわけではなかったけれども。

その向こうでは、相変わらず光を散らしながら立ち回るベルベットの姿。

足元は影の代わりに、赤いシルエットが出来ている。

神経加速の余韻で、彼の身体の腿、腕、脇腹に切創があるのが視認できた。

大鎌を勢い良く弾く、遅れて大きな衝撃音。

がら空きになった死神の胴体。

ようやく作り出した隙、大粒のマナ粒子を纏わせた右腕とその剣で縦一閃。

膂力に任せてあばらと大腿骨を粉砕。

バラバラに砕かれた骨のピースは、そのまま吊り糸を失ったように崩れていく。

粉々の骨の上に、濃紺のローブがパサリと静かに覆い被さった。

少し遅れて大鎌が静かにストン、と雪原に深く突き刺さる。




◆◆◆◆





「終わった・・・・?」

「終わったみたいね。」

「思ったより呆気なかったな」

「痩せ我慢してないで早くこっち来なさい、手当てするわよ。」

「ああ、頼む。」

「ベルのそれ、すっごい痛そう。」

「ただのかすり傷だ。」

「・・・かなり抉れてるわね。」

「ひぇぇ・・・」

「とりあえず止血だけしとくわよ。」

「【応急修復ファースト・キュア】」

ヒカリ。

「!、ジーン!」

「え、何、ちょっと!?」



クイタイ。

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