026 死神との距離はまだ離れていた

死神との距離はまだ離れていた。

ベルベットを先頭に、彼の後ろを5歩分ほど離れて、ゆっくりと死神へと歩を進める。

「俺が跳んだら、常に4本ずつ地面に刺しておいてくれ。場所は任せる。」

歩きながら、作戦会議。

これは剣の話だ。折れてから補充では遅いという事。

「あと前に出てくるな。ルカを頼む。」

「オッケー。」

妥当な判断。私の力量では居るだけ邪魔だ。

私の役目は、ルカを守ること。

むしろそれ以上は期待されても出来ない。

「私は・・・」

ルカがおずおずと聞く。

「隙を見つつで、最悪俺ごとでもいい。」

「う、うん・・・」

戸惑いながら頷くルカ。

どんな状況だろうと彼女に彼ごと魔法で吹き飛ばす判断は出来ないだろう。

「それじゃあ、あと5歩で行くぞ。」


―――5歩。

夜に溶けそうな黒い背中が、死神に向かって歩き出す。今はこの男の蛮勇が羨ましく、頼もしい。


―――4歩。

緊張したルカの表情が、横目で確認できる。持っていたハルバードを地面に差す。サクッという軽い音とともに先端10cmほどが沈み込む。


―――3歩。

視線を死神に戻す。既に距離は50mを切っていた。


―――2歩。

懐から剣のミニチュアを4本取り出す。

気付かれないように口の中で小さく詠唱、私の周囲のマナが淡く輝きだす 。


―――1歩。

死神が、こちらを、見た。

まずい、近づきすぎた――――

禍々しい赤と、目が合う。


死神がこちらに向かって飛び掛かる。

同時、ベルベットは姿を消す。

彼がいた地面が抉れ、少し大きめの足跡だけがそこに残る。

雪が跳ね、落ちるその刹那。

ベルベットの剣と、死神の振り下ろした鎌が激しい音を立てて衝突、閃光。

眩しいくらいの火花が飛び散り、彼らの輪郭をくっきりと浮かび上がらせる。

私はそこに目掛けて、4本の剣を投擲した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る