024 「何あれ・・・?」
雲ひとつない透き通る空は、濃紺のカンバスに星を描き始める。
遠くに見える地平線は、はっきりと白と紺で区切られていた。
その真白く積もった雪原は、ドラゴンの足跡だけが点々と残り、そのたどってきた道を教えてくれている。
道程は既にクレセリア公国領内に入って久しい。
ベルベットは、なんだか物憂げな表情で遠くを見つめる。
彼の耳には見慣れぬイヤリングが付いていた。
あんなの持ってたんだ、知らなかった。
その視線の先には、ランドマークとも言うべきクレセリア城が冷たく聳え立っていた。
彼を背もたれに、ルカは防寒具を毛布代わりにしてすうすうと眠っている。
もう3時間くらいで、街へ着くだろうか。
それまでは私も一眠りしておこうか。
そんな事を考えていると、急にガクン、と馬車が揺れた。
その揺れでルカも体ごと少し跳ね、目を醒ます。
急にドラゴンが足を止めたのだ。
どうしたのだろうか、と思案していると最初に気づいたのはルカだった。
「何あれ・・・?」
眠たそうな目を擦りながら、遠く、何もないはずの雪原の真ん中を指差す。
ぼんやりと、フードを被った長身の男性のような人影が見える。
公国の魔導師だろうか。
「人・・・?」
「いや・・・」
“鷹の目”、通常の人間よりも良い彼の眼が、私達よりも先にそれの正体に気付く。
彼の横顔が笑顔で歪む。
その顔は見覚えがある。
狩るべき獲物を見つけたときの横顔。
ああ、最悪。
私は視線をフードの男に集中。
体内のマナに呼び掛け、静かにアーツを展開する。
【オウルサイト】
夜であるはずの世界が明るさを徐々に取り戻し、視界が開ける。
焦点距離が飛躍的に伸びた私の両目が、それが何かをハッキリと視認した。
金色の刺繍が施された、濃紺のローブ。
その風にフードが揺れ、はためき、その中身が露見する。
一切の生気も感じられない、髑髏の頭。
その眼窩に禍々しく妖しく光る赤い赤い眼。
生き物とは到底思えない細身――骸の体――
その傍らにようやく見えた、一振りの”大鎌”
「ああ、本当に最悪。」
思わず声に出た。最悪の来訪者だ。
私達の目の前には、噂の『死神』。
それはまるで静寂の化身かのように、静かに雪原の真ん中に佇んでいた。
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