022 「おっはよー!」

指定された時間の、ちょっと前。

朝6時。

片手には、最低限の衣類を詰めたスーツケース。

気がはやって早く起きてしまった。

遠征中の食べ物などは全てジーンさんが用意してくれているとのこと。

ならば、私はそれに甘えまくりましょう。

なんてったってジーンさんのカレー、おいしいものね。

「おっはよー!」

私は工房の扉を勢いよく開けた。

「よう。」

そこには既に準備を終えて、丈夫そうな鞄を肩に担いで立つベルがいた。

その目の前。

座ったまま目を瞑り、微動だにしない人がいる。

よく見るとジーンさんだ。

眠そう、というか寝てる...?

「うー。」

呻いた。起きてた。

「・・・どしたの、これ。」

見たことのない状態の彼女に、何事かと聞いてしまった。

「いつものことだ、歩いてれば起きる。」

いつものことらしい。

「うー。」

カクン、カクンと首だけが動く。

額に皺を寄せながら、やはりまだ眠そうな表情だった。

寝不足なのだろうか。

いつものことらしいので、もしかしたら低血圧な人なのかもしれない。

「ほら、ルカも来たぞ。早く支度しろ。」

「うー。」

ぺしぺしと頬を叩き、無理矢理彼女を立たるベル。

こういう二人の気安さ、羨ましいかな。

彼女の世界だけがスローモーションで動いているかのように、のろのろと着ていた服のボタンを外し始め、って待って。待って?

「ストーーーーーーップ!?」

静止するように両手をジーンさんに向けて、傍らの大地の精霊さんに頭の中で合図。

それに呼応して緑色の輝き。

石造りの床から薄い岩壁がせり上がり、ジーンさんごとソファを隠す。

「ふぐぉ!?」

その端がベルの顎を直撃。

あ、のけぞった。転んだ。

「・・・お、う。ルカ、どうした・・・?」

床にころがったままのベル。

「ジーンさんが着替えてるでしょうが!ベルはおそと!」

「お、おう・・・」

状況が呑み込めてなさそうな表情で足早に外へ出るベル。

いつもこうなの!?この2人は・・・

何でかわかんないけど涙が出てきた。


ーーーー


「うー。」

お着替え完了しました、ということでしょうかジーンさん。

コートまでしっかり袖を通して、鞄を担いだジーンさんが立っている。

その目はまだ開いていない。

背負い鞄ごと背中を押して、外へ出す。

「・・・大丈夫かなぁ」

不安が思わず声に出てしまった。

「うー。」

聞こえていたのだろうか、答えるように呻いた。

・・・肯定?


「うー。」

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