019 またか。

「おかえりー。」

工房に戻ると既にメイの姿はなく、ジーンは忙しそうに料理をしていた。

時計を見ると時刻は17時を回っていた。

少し寄り道しすぎただろうか。いや、女子二人の長話が殆どの時間だったな。

複雑に絡み合う香辛料の香りがする。

今晩はカレーのようだ。またか。

料理机の上には、大小様々な香辛料のビンが見える。ジーン曰く「カレーは”味”っていう一つの感覚神経だけで勝負する錬金術のようなもの」だそうだ。

そのこだわりは良いと思うが、ほぼ毎日カレーではこちらも飽きる。

「こんばんわ、オジャマヒツジさん。」

「喧嘩売ってるのかしら、雌ギツネちゃん。」

俺を盾にしながらジーンを睨むルカと、こちらを見ようともしないジーン。

毎度毎度のやりとりではあるのだが、あまり心臓に良いものではない。

仲が悪いわけではないのだろうが、何故だかルカはジーンに対して当たりが強い。

まぁ、二人共殴り合いの喧嘩に発展したりはしないからほっといていいか。

「許可証、取ってきたぞ。」

許可証を机に置く。

「ありがと。」

そう言うと鍋の火を止め、ソファにどさりとへたりこむジーン。

その体勢のまま机の上の許可証を掴み、内容を確認していた。

「それにしてもよく取れたわね。新聞見た?」

どうやらジーンも死神の件は知っているようだ。

まぁ、情報通のメイが先程までここに居たのなら当然とも言えるか。

「ああ、ルカの友達が恐喝した。」

ありのまま伝える。

実際何を話していたかは知らない。

が、聞こえてきた受付の声を思い返すと、まともな手続きはしていないだろう。

ともあれ正式なものが取れているのだ、何も問題はないだろう。

「穏やかじゃないわね・・・ま、いいわ。あら、ルカも来るの?」

許可証の3枚目、そこに書かれているルカの名前を見たのだろう。

意外だな、と言った声色。

「行くよー。ベルが心配だから」

事も無げにルカは答える。

いや、心配されるような事をした覚えはないのだが・・・。

「ほいほい。じゃあアンタの分も作っておかないとね。」

どうやら彼女が行くことに反対ではないようだ。

といっても、反対する理由もないだろう。俺も、ない。

んっ、と伸びをして体を起こし、腕を左右にぐいぐいストレッチするジーン。

立ち上がり、また鍋の方に向かう。

「ラム肉がいいなー」

そう言うルカの視線は、ジーンの角に注がれていた。

「素揚げにするわよ銀ギツネ」

見えない稲妻が、二人の間に飛んでいるような気がした。

ジーンは軽くため息をつき、鍋の火をまた点ける。

「明日の朝出るから、準備はちゃんとしておいてね、ルカ。」

「らじゃー。」

元気の良いルカの声が、家に響いた。

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