018 「僕からのプレゼントだ。」

「それじゃあ、僕は観光に戻るよ。」

一通り積もる話に花を咲かせ終えたらしい。ミカが唐突に話を切る。

「そうだ。」

ポン、と小気味良い音が出そうな勢いで手を叩く。

なにかを思い出したような大袈裟な仕草ののち、ミカは自分の耳をごそごそと探り出す。少し経って、その手をこちらに差し出してきた。

彼女の小さな手の上には、イヤリングが載せられている。

透き通る乳白色の球体、表面は緻密な金細工で星と三日月と太陽の装飾が施されている。

一見、埋め込まれているのは真珠のようだったが、その奥に見える複雑な煌めきは、ともすれば吸い込まれるのではないだろうかと思わせた。

「わぁ、きれー」

目を輝かせながら、そのイヤリングを見つめるルカ。

「私からのプレゼントだ。」

彼女の視線と言葉は、俺に向かっていた。

ルカではなく俺だった。しかしプレゼントなど貰う理由に思い当たらない。

「心配するな、君は整った顔立ちをしてる。似合う似合う。」

思案する俺に、ミカはずずいとまるで押し付けるように、俺の手に載せる。

そういう問題でもない気はするが・・・まぁいい。

「アクセサリは装備しなければ意味がないぞ。私からのプレゼントなんだからちゃんと付けてくれたまえよ。」

「ずるーい。いいなぁ。」

ミカは意地悪そうな笑みをこちらに向けてくる。頬を膨らまし、不機嫌そうな顔のルカが横目に見えた。

「じゃあね黒衣の剣士君、また会える日を楽しみにしてるよ。」

そう言うと、器用にくるりと一回転、からの煙玉。

黒猫の姿に戻った彼女は、街の雑踏に向かってかけていく。

あの姿では余計目立つのではないだろうか・・・

そんな俺の疑問に気付いたのだろうか、隣で見てたルカはミカだった黒猫を指差す。

「ミカちゃんは凄腕の魔術師だからね、ほら見てて。」

艶のある黒毛が一瞬光り、逆立ったように見えた次の瞬間。

その姿が徐々に景色に溶け始め、数秒と経たずに黒猫は姿を消した。

「インヴィジブル、って言うらしいよ。自分を透明にする人工魔術。」

そんな芸当も出来てしまうのか、人工魔術という代物は。

俺は黒猫が溶けて消えた石畳の風景を、ただ、眺めていた。

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