016 「ですから、今は無理です。」
「ですから、今は無理です。」
係員は面倒な奴が来たとでも言いたげな表情を崩さなかった。
ここは場面変わってセフィラ共和国領内、入出国管理局。
俺は本当についてきているルカと共に、許可証の発行手続きをしている。
しかし、やはり魔物のせいで現在は越境が制限されているようだった。
難しそうな顔で、手元の書類とこちらを見比べている。
「フェーズ7の魔物だろ?それは分かっている。」
引き下がれないし、引き下がる気もない。
むしろ会いたいくらいである。
「いくらギルド公認のハンターさんでも、今回ばかりはねぇ・・・」
俺の身分証を確認しながら、しかし苦々しい顔を崩さずこちらを見る。
「友達に会いに行くのでも駄目?」
「もっと駄目ですよ!」
係員が怒り声を出す。
それに気圧され、半泣きでこちらを見るルカ。
申し訳ないが、その理由では同情は出来かねる。俺は静かに首を横に振った。
「とりあえず、今日はお引き取りください。」
ほとんど追い出すような勢いで押され、俺たち二人は外に出される。
どうしたものかと、俺は頭を掻く。
取れなかったと報告したらあの女になんて言われるか。
・・・あいつなら「危ない魔物が居るなら行きたくないわよ」とか言いそうだな。
「にゃあ」
ふと、鈴の音のように澄んだ鳴き声が聞こえてきた。
その声の主は、足元にいた。
耳の先から尻尾までが真っ黒な毛で覆われた、小さな黒猫だった。
「ねこちゃーーーーん!」
両手でその猫を掴むルカ。
そのあまりの勢いに驚いてしまったのだろう、猫は目をカッと見開く。だが、逃げる素振りはない。
「びっくりしたー。」
猫が、喋った。
間違いなく猫の口から発された人語、掴んでいるルカも驚きの顔をしている。
固まっているルカの腕から、猫はぴょんと飛び降りた。
いや、そもそもだ。
この国に動物は居ないはずだ。
訝しみながら猫を見つめる。
その猫は宙でくるっと一回転すると、ポンっと煙をだして60cmほどの人の形になった。
魔女、という感じの山高帽を被り、丈の短いワインレッドのドレスローブを身にまとう、小さな少女。
その腰あたりから、黒い猫の尻尾がふわふわと揺れていた。
「やっほー。」
衝撃の登場を果たした少女は、気の抜けるような挨拶をこちらに投げてきた。
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