015 水鏡を覗く女王

「クレセリア様」

水鏡を覗く女王と、側近が二人。

魔導師然とした重厚なローブを纏った側近達、彼らは今年で200歳になるのだったろうか。

そのひとりが、カサカサの唇から女王――僕――に呼びかける。

「うん。やっぱり『死神』だったよ。」

水鏡から目を離し、僕は答える。

その言葉に側近たちは狼狽する。それもそうだろう。

「あれは僕らじゃ分が悪い。」

死神。

あるいは、亡霊と呼ぶべきか。

あれはもはや魔物ではなく、マナそのものと言っても良い。

僕たちの使う人工魔術。その攻撃はそのことごとくがマナに由来する。

そんな攻撃を死神にぶつけたとしても、その力の殆どは奴の餌になってしまうだろう。

「行ってくれた同胞達には悪いことをしたね。」

使い魔を始め、死神によって多くの魔術師たちを殺されてしまった。

「いずれ時が巡れば、また我らと共に在りましょうぞ。」

「そうだね。うん・・・そうだ。」


輪廻転生。

人間は、肉体が滅びても”魂”が残る。

その魂がまた新しい肉体を得て命として育まれ、またこの国の門を叩く。

それはこのクレセリア公国では常識だ。

そう、常識とされている。

私が先代女王の生まれ変わりと呼ばれるように。


「彼らの為にも、我らはこの地を守らねばなりませぬ。」

「うん、その通りだ。」

生まれ変わった彼らが、またこの国に居られるように。

「今日はもう遅い。クレセリア様もお休みくだされ。」

「ありがとう。ふたりとも下がっていいよ。」

僕の言葉に、失礼、と短く言いながら彼らは部屋から出ていく。

扉が閉まる音が響き、静寂が部屋に染み渡る。

誰も居ない部屋。

僕は静かに呟く。

「【展開・星詠みの間オープン・アストロスフィア】」

部屋が金色に光りだし、光の粒は尾を引き質量のない光線となる。

その切っ先が部屋の中央、僕めがけて飛び込む。

光は一度僕を中心として収束、再び拡散。

それぞれが自らの役割を思い出すように、急静止、融合。

程なく金色の球体――天球儀――が女王の間に展開された。

弾け、霧散、収束するその光の軌跡。

それらは複雑に、一見不規則かのように、整然かつ規則的に天球儀を走り回る。

あるいは高速で様々な数式、記号を描き出していた。

目まぐるしく様相を変えるその表面を、内側から僕はぼんやり眺める。

この世界中に存在するマナ。それらを全て探知、シミュレートすることで擬似的な未来視を実現する。

扱えることが女王である証とされる、究極の人工魔術。

【星詠みの間】

光の収束、霧散する様子を一通り眺めた後、僕は椅子に腰を下ろす。

今日も打開策は見つから無さそうかな――――

例え視えた所で、それを発見出来なければ意味がない。

目を瞑り、しばし考える。

ふと、頭上の変化に目が留まった。

それを見て、僕は笑う。

「英雄は思ったより近くに居るものさ。」

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