014 本体から切り離されたガイコツ

本体から切り離されたガイコツ、所詮は人骨であるはずだった。

しかしその脆さからは想像出来ない力で犬歯が篭手を食い千切り、肉に食い込む。

メリメリと金属ごと腕を圧し潰される。罅割れた鎧の隙間から赤い液体が染み出す。

同時、鋭敏化された痛覚が全身を駆け巡る。

痛みに腕の力が一瞬抜け、指が大剣の柄から離れる。

主を失った重たい剣が、柔らかな雪を切り裂きながら沈み込む。


【神経加速】、その最悪のデメリットがこれだ。

その効能は脳に送られる情報を早く多くするアーツ、だがその情報に差別はない。

腕を噛み千切られる痛みが、緩やかに流れる刹那の間中、私を襲う。


痛みに喉から絶叫を上げそうになり、踏みとどまる。

その声が彼らの心を乱す要因になるかもしれない。

ならばそれは私が成すべきことではない。

歯を食いしばり、痛みを堪える。奥歯から血が滲む感触は無視する。


左手でガイコツを掴み、乱暴に引き抜く。肉が裂ける音が聞こえるが、無視する。

赤黒いラインが雪原に描かれ、その先端にガイコツが転がった。

この腕では剣は振れないか。

落とした大剣を左手で掴み引き抜き、構える。


頭を失ってもなお、そいつは動いていた。

肋骨に向けて光線。先程よりも大きな炸裂音、空気が震える。

爆風になびくローブが、ぶつりと操り糸を失ってしまったかのように自由落下する。


爆発による耳鳴りがおさまる。

辺りは何事もなかったかのように静けさを取り戻した。


多くの犠牲者を出してしまったな。

骨の露出した右腕を押さえながら、振り返る。

魔術師たちと、隊員たちがそこにはいた。

せめて彼らを守れたのだな。

いや、もっと多くの国民を守ったのだ。


それを思えば、この腕の痛みすら誇らしいものだ。


◆◆◆◆




ふと、首に衝撃が走った。


疲れが一気に来たのだろうか。

瞬間、世界が上下し、反転する。


その目が首のない鎧の男を捉えた。

その鎧は、自分が纏っていたもののように見えた。

その右腕は、鎧が砕け、血に塗れていた。

その左腕は、慣れ親しんだ大剣を持っていた。


その奥に、浮かぶ布切れと鉄の棒が見えた。

それが何かは、もう、分からなかった。

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